「それから」の大阪 第8回

船場の昔と「船場センタービル」

スズキナオ

「問屋街」に未来はあるのか

衣料品店の多さに体内の水分が吸われたのだろうか、強い喉の渇きを感じ、2号館地下2階にある喫茶店「スカーレット」で一休みすることにした。

カウンターとテーブル席あわせて15席ほどの小さなお店(2021年3月撮影)

ここ「スカーレット」は船場センタービルの開業当初から同じ場所に店舗を構えており、創業50年を超える老舗だ。創業当時からの名物だという深煎りコーヒーを使ったカフェオレをいただきつつ、お店のご主人にお話を伺った。

それによると、2020年に創業50年を迎えた船場センタービルは、これまでとは違う客層も幅広く取り入れるために様々な努力をしているところだという。従来、日曜日は全館一斉の休館日となっていたのが、外部からの買い物客を呼び込むべく、この4月からは日曜日にも開館することになった。

しかしそのような努力の一方、コロナの影響もあって客足は減っており、シャッターをおろす店舗がじわじわと増えている状況らしい。

空き店舗が目立つ一画もある(2021年3月撮影)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

たしかに、下ろされたシャッターに「テナント募集」と書いた貼り紙が貼ってあるような光景も多く見受けられた。

「もともと問屋街として始まったけど、問屋というものの役割が時代によって変わりつつあるんです」そして「昔は舶来品を売る店ゆうたらここにしかなくて珍しかったけど、今は通販でどこからでも買えるでしょう」と、店主が言うには新型コロナウイルスだけでなく、時代の変化そのものが船場センタービルに影響してきているというのだ。

船場センタービルでは、客層の若返りを図るべく、公式WEBサイトを大々的にリニューアルしてPRに努めているが、その中にあった施設内の店舗オーナーのインタビュー集を読んでみると、みな口々に「若い方に空き店舗を安く貸すなどの取り組みが必要では?」と言っていて印象的だった。たしかに、せっかくここにしかないような名物ビルで、しかも空きスペースがたくさんあるのだから、もっとどんどん新しい店が集まってきたらいいのにと思ってしまう。店主いわく、新しい店はごくごく一部で、大半はここと同じような老舗ばかりになってきているという。

その後もフロア内を歩き回り、半日がかりで船場センタービルをようやく踏破することができた。再び2号館地下2階に戻り、飲食店街の居酒屋「大名酒蔵」で疲れを癒していくことにした。

ここがビルの地下であることを忘れるような大衆酒場「大名酒蔵」(2021年3月撮影)

ここは1970年、船場センタービルの開業と同時に創業した「大名そば」の系列店。いつでも生ビールが一杯無料というサービス精神旺盛な店で、着席と同時に生ビールが運ばれてくる。

入店するとおしぼりと一緒に生ビールが運ばれてきた(2021年3月撮影)

キンキンに冷えた生ビールや、一杯150円という驚き価格のチューハイを飲みつつ、改めて船場で過ごした今日一日のことを振り返ってみる。昭和的な風情の残る町並みが好きな私にとっては、船場周辺では、むしろこの船場センタービルに最も魅力を感じる。しかし、懐かしさをくすぐられると同時に、こうした場所が時代に取り残されるのではなく、上手な形で新陳代謝してさらに長く愛されていくようになって欲しいと願わずにはいられないのだった。

(つづく)

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2014年から大阪に移住したライターが、「コロナ後」の大阪の町を歩き、考える。「密」だからこそ魅力的だった大阪の町は、変わってしまうのか。それとも、変わらないのか──。

プロフィール

スズキナオ

1979年東京生まれ、大阪在住のフリーライター。WEBサイト『デイリーポータルZ』『QJWeb』『よみタイ』などを中心に執筆中。テクノバンド「チミドロ」のメンバーで、大阪・西九条のミニコミ書店「シカク」の広報担当も務める。著書に『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』(スタンド・ブックス)、『酒ともやしと横になる私』(シカク出版)、パリッコとの共著に『のみタイム』(スタンド・ブックス)、『酒の穴』(シカク出版)、『椅子さえあればどこでも酒場 チェアリング入門』(ele-king books)、『“よむ”お酒』(イースト・プレス)がある。

 
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