「それから」の大阪 第9回

中止と再開を繰り返す四天王寺の縁日

スズキナオ

「せやから前を向いてな、いかなあかん」

縁日の当日、朝7時に現地に集合との約束だったので久々に早起きして四天王寺へと向かった。早朝に四天王寺に来るのは初めてだったが、すでにこの時間から露店の設営を始めている人々も多かった。

早朝の四天王寺は静かだった(2021年3月撮影)

衣類を売る露店も準備を始めているようだった(2021年3月撮影)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Yさんの屋台で、私は簡単な荷物運びと、お客さんに品物を袋に詰めて渡す係を担当した。Yさんが私のために半ば無理矢理用意してくれた仕事で、ぼーっと立っているだけの時間が結構あった。特にこの日は例年に比べて驚くほど人出が少なかったそうで、私が居ることがかえって邪魔になってしまっているようで申し訳なかった。しかし、大好きな四天王寺の縁日で、「いらっしゃいませ!」などと声を出しながらお客さんに対応するような日が来るなんて思ってもみなかったので、しみじみと込み上げるような感動があった。

来客を待つ屋台(2021年3月撮影)

 

 

 

 

やって来る客の多くは60代以上かと思われる高齢の方々で、「いつもここに来るのが楽しみなの。今日は並んでないからびっくりしたわ」と話しかけてくれる方もいた。いつもなら午前中から行列ができてもおかしくないそうなのだが、行列は昼になってもできなかった。Yさんに「今日はあかんな。もう昼で仕事切り上げてええよ」と言われ、私の屋台デビューは半日で終了となった。

「すまんかったな」とYさんからお土産をたくさんもらって、私はいつも通り、ただのひやかし客の立場に戻った。まだ人の少ない境内を歩きながら、早くここに本当の活気が戻り、Yさんが忙しくて困るぐらいになって欲しいと思った。「人が足らんねん!」とYさんからまた電話がかかってきたら、今度はもっと役に立てるようがんばりたい。

2021年の4月、四天王寺の縁日が再び中止になることが発表された。大阪府の対応も行きあたりばったりにしか感じられず、情勢の変化に市民が振り回される状態はまだまだ続きそうだ。

2021年3月には猿回しも来て賑わっていたが縁日は再び中止に(2021年3月)

新型コロナウイルスの影響だけが理由ではないそうだが、こちらの老舗屋台も3月で商売をやめるとのことだった(2021年3月)

一緒にお酒を飲んだ日、酔った私はYさんに「世の中、これからどうなっていくでしょうね」と聞いた。Yさんはこう答えた。

「そら色々考えることはあるわな。一ヶ月先だけやなしに一年先も考えていかなあかんしな。在庫の管理も大変やしな。せやけどまあ、なるようにしかならんわな。あかんのはみんな同じや。いつも同じやねん。いつでも次はどうしよういうて考えていくしかないんやな。コケても競艇で負けたおもたらええねん(笑)。商売は強気でいかな、絶対攻めなあかんねん。それで倒れたら、もうしゃあないねん。それが最終的な答えやな。せやから前を向いてな、いかなあかん」

(つづく)

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「それから」の大阪

2014年から大阪に移住したライターが、「コロナ後」の大阪の町を歩き、考える。「密」だからこそ魅力的だった大阪の町は、変わってしまうのか。それとも、変わらないのか──。

プロフィール

スズキナオ

1979年東京生まれ、大阪在住のフリーライター。WEBサイト『デイリーポータルZ』『QJWeb』『よみタイ』などを中心に執筆中。テクノバンド「チミドロ」のメンバーで、大阪・西九条のミニコミ書店「シカク」の広報担当も務める。著書に『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』(スタンド・ブックス)、『酒ともやしと横になる私』(シカク出版)、パリッコとの共著に『のみタイム』(スタンド・ブックス)、『酒の穴』(シカク出版)、『椅子さえあればどこでも酒場 チェアリング入門』(ele-king books)、『“よむ”お酒』(イースト・プレス)がある。

 
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