障がい者世界水泳選手権の会場にできた、ひと際目立つ人の輪。中心には、底抜けに明るい一人の選手がいた。エリー・コール。金メダルと世界新を連発する、言わずとしれた最強スイマーである。そんな彼女を撮るディレクターもまた、生粋のアスリートだった……。WOWOWパラリンピック・ドキュメンタリーシリーズ「WHO I AM」。番組では描き切れなかった舞台裏に、ノンフィクション執筆陣が迫る連載の第2回。
(C)Paralympic Documentary Series WHO I AM
WOWOWの太田慎也と泉理絵がエリー・コールを初めて見たのは2015年7月にグラスゴーで行われた障がい者世界水泳選手権の会場だった。オーストラリアは言わずと知れた水泳王国で、それはパラの世界でも同様である。好結果を次々と生み出すチームの中でひと際、大きな声で仲間を応援し、祝福するリーダーがいた。それがエリーだった。
「オーストラリア代表はいろんな障がいのある選手がいて、ありとあらゆる水泳のレースに参加しているんです。人数的にもすごく目立ちますし、とにかく、明るくてにぎやかで、そしてうるさい(笑)」(太田)「その中でも特にスタンドの最前列に陣取って明るいキャラクターで後輩たちをケアーしていたのがエリー。リーダーシップが伝わって来ました」(泉)
二人がミックスゾーンで話しかけると、即座に「コンニチワ!」と日本語のあいさつが返って来た。泉は英語でしばらく話し込むと、ああ、この人は壁が一切ない、完全にノーボーダーの人なのだと感じ取っていた。「それまで選手に向かって『日本のテレビ局です』っていうと、『なんで私に話しかけるの?』という顔をされていたんですよね。日本のメディアが外国の選手にインタビューするのが、珍しかったのかもしれませんが、エリーにはそれが全くなくてフラットに話が出来たんですよ」
内戦で足を失った選手、宗教上の制約で女性が活躍できない国に生まれたアスリート……。パラリンピアンには、時に五輪選手以上の背景やドラマがある。共通するのは、五輪の商業主義や障害者スポーツに在りがちなお涙頂戴を超えた、アスリートとしての矜持だ。彼らの強烈な個性に迫ったWOWOWパラリンピック・ドキュメンタリーシリーズ「WHO I AM」。番組では描き切れなかった舞台裏に、ノンフィクション執筆陣が迫る。