対談

女性の身体とスピリチュアリティ、そしてフェミニズムのゆくえ

橋迫瑞穂×金田淳子

橋迫瑞穂×金田淳子

いま日本社会で大きく膨れ上がった「スピリチュアル市場」。
特に近年は「子宮系」「胎内記憶」「自然なお産」に代表されるような妊娠・出産をめぐるコンテンツによって、女性とスピリチュアリティとの関係性はより強固なものとなっています。
しかし、こうしたスピリチュアリティは容易に保守的な家族観と結びつき、ナショナリズムとも親和性が高いことは見逃せません。
そして、これまでフェミニズムがとりこぼしてきたとも言える、この社会で「母」になろうとする女性が抱く不安とスピリチュアリティとの危うい関係について、その構造を解明する試みが社会学者の橋迫瑞穂さんによる『妊娠・出産をめぐるスピリチュアリティ』です。
今回はゲストに、話題作『「グラップラー刃牙」はBLではないかと1日30時間300日考えた乙女の記録ッッ』などの著者であり、社会学研究者の金田淳子さんをお迎えしました。
「フェミニズムに立脚しながらセクシュアリティを見つめて批評する観点を持つ」ゲストだという、著者たっての希望で実現したこの顔合わせ。
女性の身体とスピリチュアリティ、そしてフェミニズムについて、独自の切り口を持つお二人に存分に語っていただきました。
※9月9日に本屋B&Bさんで開催された配信イベントの一部を記事化したものです。

金田淳子さん(左)と橋迫瑞穂さん(右)

 

「スピリチュアル市場」と妊娠・出産

金田 『妊娠・出産をめぐるスピリチュアリティ』、たいへん面白く読みました。研究書としてもすごくいい本ですが、一般の人が読んでもわかりやすいですし、示唆的な部分がたくさんあると思います。
橋迫 ありがとうございます。
 第1章では、おもに戦後、宗教やスピリチュアリティという分野の中でどのように妊娠・出産が扱われてきたのかを検証しました。スピリチュアリティというのは、個人個人が持つ憧れや信仰みたいなものの寄せ集めともいえますが、そこには一定のまとまった価値観があって、それがある種のコンテンツやサービスとして売り買いされるようになっているんですね。
金田 やっぱり、女性向けの雑誌などが根底をつくってきたところがあるんでしょうか。
橋迫 ええ。あと、スピリチュアル系のイベントもたくさん開かれてきました。たとえば以前は、1ブース1万円くらいで誰でも出展できる「スピリチュアルコンベンション」というイベントがあったんですよ。
金田 スピリチュアルのコミケみたいな?
橋迫 家族連れも多いので、どちらかというと物産展の雰囲気ですね。パワーストーンを売っていたり、オーラや手相を見てもらったり。全盛期は会場にぎっしりブースが並んで、大盛況でした。
 あと大規模なイベントとしては、今も毎年夏ごろに開催されている「癒しフェア」がありますが、ある時期からその中で、妊娠・出産にまつわるグッズの販売や講演会がすごく増えてきたんですね。さらには、それとは別に「胎教博」なんていうイベントも始まった。スピリチュアル市場における妊娠、出産というもののウエートがかなり高くなってるなと感じていた矢先の2009年、『TRINITY』というスピリチュアル雑誌が「産める母体のつくりかた」という特集を組んだんです。
 それまでは、どこか興味本位で見ているところがあったんですけど、このあたりからなんだか笑えなくなってしまって。というのはそこでは、スピリチュアルな生活を送っていれば妊娠できるけれど、そうではない「未妊」女性はおかしい、産まなきゃ女性じゃないというような感覚が、さも当然のように提示されていたからです。
金田 それは「産みたい」と思っている人からしたら当たり前かもしれないけれど、私みたいに「産む」なんて思ったこともない人間から見たら「はあ?」という感じですよね。それに、病気などで産めない体の人もいらっしゃるわけで。
橋迫 けっこう残酷なことを言ってるんですよね。これは調べなきゃ、と感じたのが「妊娠・出産をめぐるスピリチュアリティ」について考えるようになったきっかけです。

 

「子宮系」はいかに広がったか

金田 2章で取り上げられている「子宮系」というワードは、私も見たことがありました。
橋迫 一時期ネットですごい話題になってましたね。
 振り返ると、子宮とか卵巣の健康についての、専門書ではない一般向けの本が書かれるようになったのって、2000年代になってからなんです。
金田 そんなに最近なんですか。
橋迫 はい。私もそこはびっくりしました。かなり初期のものとして、2003年に生活雑誌の『saita』が子宮や卵巣の健康についてのムックを出しているんですが、子宮頸がんに関する知識など医学的な話にまじって、「つぼ押し」など子宮の健康は自分でケアできるという話もすでに入り込んでいます。それがここからどんどん発達して広がりを見せていく。たとえば、体の不調は凝り固まった子宮が原因だから、ヨガで温めてほぐそう、という「子宮美人ヨガプログラム」などが出てくるんです。
金田 ヨガ自体はともかく、子宮に特化して「温めよう」といわれると、ヨガってそういうものだっけ? と思っちゃいますね。
橋迫 さらに、『オレンジページ』も「妊娠力」という言葉を使った別冊を何冊も出しています。食事や生活習慣で子宮をもっと健康にしようという内容なんですが、ここでも不妊や「卵子の老化」など、医学的な記事がいくつも挟み込まれているんですね。そして、それを産婦人科医が監修しているんです。
 そうした記事があることで、読み手にとっては「子宮」の価値がさらに重みを増すわけで、「子宮系」の広がりには実は産婦人科医も深く関わっていたといえる。そこを看過して、一部の医師が「子宮系なんてくだらない」と馬鹿にして批判するのはおかしいということも言っておきたいです。
金田 たしかに、送り手側である同業者を批判せずに読み手の女性だけを責めるのはフェアじゃないですね。
橋迫 で、ここまでの「子宮系」は、「努力して子宮を整えると子どもを産みやすくなる」という「努力型」だったのですが、その完全な「逆張り」として出てきたのがかの有名な「子宮委員長はる」ちゃんです。とにかく「子宮の声」を聞いて自由に生きることが大事で、努力する必要なんてないというのが彼女の主張でした。
金田 私は橋迫さんの本で初めて彼女の存在を知ったんですけど、この人の言う「やりたいことだけやればいいよ」という内容は、妊娠したいと切望している女性、必死で努力しているけれど前進できないと感じている女性にとっては救いだったんじゃないかと思いました。
橋迫 はい。解放感というか、楽だっただろうと思います。それで一躍人気になったんですよね。ブログやグッズ販売でかなり稼いでいることもあって、相当叩かれたりもしましたが。

橋迫瑞穂さん

「胎内記憶」と胎教

橋迫 第3章では「神格化される子どもたち」として、「胎内記憶」と胎教を扱いました。胎教というのは古くから世界中で研究されていて、日本でよく知られているのは七田眞という「右脳教育」研究家です。
金田 言語によらない部分を司る「右脳」を活性化させることで、優秀な子になるという……。
橋迫 そうですね。胎児のうちからそれをやれば、勉強ができるだけじゃなくて、登校拒否にもならず広い心を持った子になるというのが七田氏の主張でした。
 そして、この七田氏が晩年、「胎内記憶」ということを言い始めるんです。これはおなかの中にいるときではなく、出産の瞬間の記憶です。
金田 いいお産をしないと、子どもの人生に悪影響を与える「バース・トラウマ」になっちゃうよ、というお話ですね。
橋迫 そうです。実はこれには大元のネタがあって。1970年代にフランスの産婦人科医が書いた『暴力なき出産』という本なんですが、「乱暴な出産だと、赤ちゃんがこの世に生まれてきたくなかったという思いを抱く」と言っている。これが世界的なベストセラーになって、日本の助産にもすごく影響を与えたんです。吸引などで子どもを痛めつけない静かな環境で出産すれば、子どもが元気に健全に、嫌な言い方ですが障害も負わずに成長できる、という考え方ですね。
 このネタ元に七田氏が飛びついて「胎内記憶」と言い出したわけですが、それをさらに発展させたのが、2014年に封切られた映画『かみさまとのやくそく』(荻久保則男監督)。子どもたちが「雲から降りてきて、お母さんが寝てる間におなかの中に入ったの」とか「生まれる前に神様と話し合った」といった記憶を語るというドキュメンタリーです。
金田 「子どもたち自身が、お母さんを選んで生まれてくるんだよ」という話ですよね。
橋迫 そうです。それを肯定する人たちとして、「胎内記憶」についての著作で知られる産婦人科医、池川明氏や、胎児と話ができるという「胎話士」を名乗る女性たちも登場します。
 私も映画館で見たのですが、周りの観客はみんな涙を流していました。要するに「この子は選んで私のところに来た」と、最初から出産というものが非常に肯定的な形で描かれている。これもまた、「静かに子どもを産まなきゃいけない」「努力しなきゃいけない」ということに対する、ある種の逆張りなんですね。
金田 死産や中絶の場合もその子たちは親を恨んだりしていない、これ以上悲しまないでほしいと思っている、というんですよね。
橋迫 そうです。それも、ある種ちょっと画期的ではありました。
金田 おまえの産み方が悪い、育て方が悪いとずっと言われてきた人が「この子はあなたを選んで生まれてきたんだよ」と言われて涙するのは分かりますね。これも、ある種の救いになる。ただ、虐待などで親を恨んでいる子どもから見たら、「何言ってるんだこいつ」という話にもなると思います。

 

「自然なお産」が女性の魅力を引き出す?

橋迫 さて、第4章は「自然なお産」です。帝王切開ではなく、また医療や医薬品に頼らず自然に産むのがいいんだ──というこの考え方が日本に入ってきたのは、1980年にイギリスのジャーナリストが書いた『自然出産』という本が翻訳・出版されたのが最初です。その後、2000年代になって専門書ではない一般向けの「自然なお産」の本が一気に増えました。「どうやったら自然なお産が可能か」というハウツー本が出てきたんですね。
 この「自然なお産」を推奨する方の中には、助産師さんも、産婦人科医も大勢います。産婦人科医の本の中にも「お産はお月様の満ち欠けに影響される」なんて書いてあったりして。データ上はまったく関係ないといわれているはずなんですけど……。
 日本における「自然なお産」のパイオニア、吉村正氏も産婦人科医です。河瀬直美監督の『玄牝』という映画で一躍有名になった方ですが、「自然なお産」というものがいかに優しさや穏やかさといった「女性らしさ」を引き出してくれるかということを繰り返し語っています。
金田 お産で女性の魅力が引き出されるなんて、知りませんでした(笑)。
橋迫 しかも、「自然なお産」ならば生命力の高い赤ちゃんが生まれるというんですね。本来は、帝王切開になるかどうかなんて「たまたま」に過ぎないのですが、吉村氏の帝王切開に対する批判は、相当えげつないというか露骨です。
 あと、もう一つ注目しておきたいのは、海外の「自然なお産」についての本では、「男性とともに出産に取り組む」という姿勢が強く押し出されていることです。出産時にパートナーの体をマッサージしてあげるなど、男性がかなり全面的に介入してくる。ところが、ローカライズされた日本の「自然なお産」では、その部分が大きく異なるんですね。吉村氏の本でも、男性は出産を「見守る」程度で、ほとんど介入してきません。これ自体は、どちらが正しいという問題ではないんですが……。
金田 「男性の存在が消えてしまう」というのは、なぜだろうと思いますね。妊娠には必ず男性が関与しているはずなのに。スピリチュアル系だけにかかわらず、日本の社会制度や政治、さらに娯楽作品も、男性が、育児はともかく妊娠・出産に対して何の向き合いもしなくていいようにできている気がします。
橋迫 「自然なお産」に付随して、「産後のライフプランを考えましょう」という話が出てくる本もありますよ。仕事を続けるか辞めるか絞るか、ということが問われるんですけど、男性ならそんなことまず問われないですよね。
金田 本来、「自然なお産」と「仕事を続けるかどうか」はまったく関係がないと思うんですけど。暗い気持ちになりますね……。

金田淳子さん

フェミニズムが落としたもの

橋迫 スピリチュアリティとフェミニズムについて取り上げた5章では、著書『オニババ化する女性たち』で知られる疫学者の三砂ちづる氏についても論じています。彼女は、アンチフェミニズムの立場からスピリチュアリティに接近しようとしました。現代の女性は妊娠・出産を中心とする「女性としての体」を大事にしてこなかったから「オニババ化」したと述べ、そうした「女性としての体」と向き合うことが大事だ、それができていた昔の女性は非常に優れていたという話を展開するんですね。 
金田 あの本に出てくる「昔の女性は月経コントロールができた」という話は、いろいろなところで見かけますね。
橋迫 健康系の雑誌にも必ずといっていいほど紹介されています。でも、記事を読んでみても、具体的な事例は90歳以上の人の証言が二つくらい載っているだけだったりするんですよね。
金田 そもそも明治時代ぐらいまで、妊娠できる女性の多くは妊娠できる期間のほとんどを妊娠・授乳して過ごしていたから、生理の血に悩まされている期間も非常に短かったはずです。体が成熟するのも現代よりは非常に遅かったでしょうし、条件が全然違うんですよ。
橋迫 今の女性は妊娠する期間が短くなったから子宮筋腫などの病気ができやすくなったという、これまた眉唾の仮説も三砂氏の本に出てきますよね。だから今の女性たちは体だけじゃなく心も病んでくる、と。「いい加減にしろ」と思いました。
金田 まったく非科学的で、相手にするに及ばずみたいな気持ちもあるんですけど、こういうものって地味に社会に影響を与えてくる場合があるので。今になってみると、放っておくべきではなかったんだろうな、と思います。
橋迫 本に書かれていると、それが出典になって「さも当然」のように扱われますからね。妊娠・出産をめぐるスピリチュアリティにおいては、非常に影響力の強い本になっています。
 この三砂氏の本がベストセラーになったことを考えても、フェミニズムが落としてきたものが、スピリチュアルによってすくい上げられた面はあったのではないか。スピリチュアリティが支持を集めてきた裏側には、フェミニズムが妊娠・出産に対してポジティブな言葉を投げかけてこなかったということがあるのではないかと思います。
金田 それは本当にそのとおりだと思います。

 

スピリチュアリティが果たした役割

金田 この本が優れていると思うところを、三つに分けてお話ししたいと思います。
 一つはやっぱり着眼点です。よくこのテーマに目を付けられたなと。スピリチュアルっていうと、「変なことをやっている人」みたいに見る人もいるけれど、女性文化の中では割と「普通」なんですよね。社会学ってそもそも、「普通」の日常世界がどう成り立っているのかを考える学問だと思うので、これはまさにその本流だなと思いました。
橋迫 ありがとうございます。
金田 2点目は、頭ごなしに否定されたり「馬鹿にしていいもの」扱いされがちなスピリチュアリティを、これだけ広く女性文化の中で親しまれているんだから当事者にとっては何か役立っている面があるはずだという、フラットな視点で見られていること。非常にバランスの取れた分析だなと思います。私自身も、これまでスピリチュアリティというと馬鹿にしている部分があったんですが、浅かったなと反省しました。
 それから3点目、そんなふうに馬鹿にされがちなスピリチュアリティというものが、妊娠・出産という領域においてすごく重要な役割を果たしてきたことを明らかにしていることも素晴らしいと思います。「産む」ということについて、とにかく「いいことだよ」と肯定してくれる、そういう機能を担ってきた大きなエージェントの一つが、スピリチュアル市場だったということですね。
 もちろん、フェミニズムもリプロダクティブ・ヘルス/ライツ(生と生殖に関する健康と権利)を重要視はしてきましたが、産むことへの強制や干渉をどうなくすかということのほうが中心的な課題になってきたから、母性を賛美するような言動については、大多数のフェミニストはむしろ批判してきました。フェミニズムは、医療環境や社会制度を整えるべきだという主張はしても、「産む」という選択をした自分については何も言ってくれないということなんですよね。
橋迫 そうですね。
金田 日本では特に、パートナーにも頼りづらいし、社会も支えてくれないという部分がある。そんな中で、「産む」という決意をした人を勇気づけてくれるのが「子宮委員長はる」ちゃんのブログだったというのは非常に納得がいきました。すごく盲点を突かれた感じで、それを明らかにしているという点で非常にいい本だと思いました。

「スピリチュアリティの洗脳」をどう解くか、解くべきか

橋迫 では、質問にもお答えしていきたいと思います。 

 出産領域でのスピリチュアルの盛り上がりに関連して、フェミニズムが出産を十分に肯定してこられなかったというご指摘がありましたが、そもそもフェミニズムが出産という個人の選択を肯定する機能を担うべき理由は何でしょうか。

金田 フェミニズムの出発点は、女性が自分で自分の人生を決められるようにしていくことだと思っています。歴史的には「産むのを強制される」ことのほうが多かったから、「産まない選択」を女性の権利として守ってきたわけですが、その一方で、「産む選択」をする人も一定数はいるわけです。それに対して、私はもう少しもっと応援してもいいんじゃないかという気がするんですね。私の中には、産む、育てるという大変な選択をした人への感謝やいたわりのような気持ちは常にあって。こうなると、フェミニズムというよりは別の思想の出番なのかもしれませんが……。でも最近話題の、ケアワークについての議論も、そもそもフェミニズムの中から出てきたものです。究極のケアワークとしての妊娠・出産については、産むことの押し付けや、母性神話に陥らないように気を付けながら、フェミニズムもさらに思想を研ぎ澄ませていけるのではないかという思いはあります。
橋迫 私は、自分の横にいる人間がつまずいたり転んだりしたときに、その人を引っ張り上げることがフェミニストの文脈で可能になればいいな、という思いがあります。それをスピリチュアリティだけに占有させるのはもったいないなと、金田先生と話していて感じました。スピリチュアリティがやってることというのは、実はフェミニズムでもやれないことはないんじゃないかと思っています。
 
 妊活をしていてつらいことがあり、自分の中に迷いや悩みがあります。今フェミニズムの本を読むと、『妊活なんてやめてしまえばいい』という意味で背中を押されてしまうのではないかと考えています。

橋迫 それはそうだと思います。妊活って本当に大変ですし、お金や労力をいくらつぎ込んでも妊娠できないということもあり得る。そのときに「やめてしまえばいい」と背中を押されるというのは、私はいいことだと思っていて。子どもがいる人生といない人生というものが、自分の中でどうあるのかと問い続けることに関しては、フェミニズムにおいてすごく有益な議論の蓄積があるわけですから、その「背中の押され方」というのは、とても正しいフェミニズムの読み方なんじゃないでしょうか。
金田 「産もうが産むまいが、私は私で幸せになれる」というところで牙を研いできたのがフェミニズムですから。もし本当にやめてしまいたいほど妊活がつらいというのであれば、まさにそこはフェミニズムの出番ですよね。

 スピリチュアリティにどっぷり洗脳されている友人に、どんなアドバイスをすれば洗脳が解けるでしょうか。

橋迫 これはよく聞かれる質問なのですが、劇作家の鴻上尚史さんが「友人の宗教の洗脳を解いた」という話で、「とにかく一緒にいた」と書いておられましたね。そんなふうに、「一緒にいてあげる」ことが一番大事なんだと思います。要するに、いろんな話ができるということが重要なので。
金田 スピリチュアルな話題だけにならないように、「今日これおいしかったね」とか。
橋迫 あとは、「ネトウヨ」化してしまった父親に『鬼滅の刃』を渡したという話も聞いたことがあります。
金田 よりおもしろいものを与えるのね。それはいいと思います。噂によれば、『グラップラー刃牙』シリーズとかも、面白いらしいですよ。
橋迫 要するに、窓口がそれしかないという錯覚をしてしまうからそこに行っちゃうのであって、窓なんてたくさんあるしいくらでも開けられるよ、ということを示すのが手っ取り早いんです。
金田 それで依存度を軽くしていくんですね。ただ、その依存度がどのくらいかにもよるし、深く傷ついた人がそのスピリチュアリティによって一時的に慰められているのなら、少しくらい話を合わせてあげてもいいかな、という気もします。
橋迫 よく「スピリチュアルってどのくらいだったら大丈夫ですか」とも聞かれるんですけど、一番大事なのはお金です。そのお金に見合う対価をきちんと得ているかということですね。もし生活基盤が揺らぐほどお金を使っちゃっていれば、それはダメな関わり方であることは間違いないです。

構成/仲藤里美
撮影/野本ゆかこ

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プロフィール

橋迫瑞穂×金田淳子

橋迫瑞穂(はしさこ・みずほ)
1979年、大分県生まれ。立教大学大学院社会学研究科社会学専攻博士課程後期課程修了。立教大学社会学部他、兼任講師。専攻は宗教社会学、文化社会学、ジェンダーとスピリチュアリティ。また、ゴシック・ロリータやゲーム、マンガなどのサブカルチャーについても研究している。著書に『占いをまとう少女たち――雑誌「マイバースデイ」とスピリチュアリティ』(青弓社)がある。

金田淳子(かねだ・じゅんこ)
1973年、富山県生まれ。東京大学大学院人文社会系研究科博士課程単位取得退学。社会学研究者。やおい・ボーイズラブ・同人誌研究家。ジェンダー論、社会学の視点からやおいや同人誌文化を研究。共著に『オトコのカラダはキモチいい』(KADOKAWA)、単著に『「グラップラー刃牙」はBLではないかと1日30時間300日考えた乙女の記録ッッ』(河出書房新書)がある。

 
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