”多くの仕事がAIに代替される将来、読解力のない人間は失業するしかない”
この言葉を、あなたはどれだけのリアリティをもって受け止めることができるだろうか。
人工知能(AI)技術を搭載した「東ロボくん」を育て、東大合格への挑戦を指揮した数学者・新井紀子氏は次のように語る。
「〈AIが人間の能力を超す〉とされるシンギュラリティが訪れることはないでしょう。しかしAIに約半数の人間の仕事が代替される社会が、すぐそこまで迫っているのは確かです」
東ロボくんはすでに、MARCH(明治・青山学院・立教・中央・法政大学)合格圏内の実力を身につけている。その成績は大学進学希望者の上位20%レベルだ。しかし東ロボくんは「計算機」なので、人間のように文章の意味を理解して問題を解いているわけではない。
新井氏は、そんな東ロボくんよりも試験で点数を取れない生徒たちは、果たして教科書をきちんと読めているのだろうか、との疑問を抱いた。そこから中高生の「基礎的読解力」を調査するためのリーディングスキルテスト(RST)の開発へと発展した。詳しくは本書『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』に譲るが、掲載されている数々の例題とその深刻な誤答例、そしてサイコロを振って選択肢を選ぶのと変わらない程度だった生徒たちの正答率には驚愕するはずだ。
この調査から明らかになったのは、もともと基礎的読解力が身についている子どもたちが偏差値上位の高校に入学している事実だった。教科書が読めているかどうかが、その後の人生を左右するといっても過言ではないのである。
「今、読解力に必要な要素としてわかりつつあるのは、小学校や中学校入学時の語彙量です。といっても、単に知っている言葉の数ではなく、実社会の中で切実に伝えるべきことを表現するための言葉をどれだけ知っているかということです。
学習のひとつの重要な側面に、新しい言葉を獲得していく過程があります。それには2種類あり、ひとつは辞書を用いて理解する方法で、もうひとつは数学や理科に出てくる言葉を用いて定義として理解する方法です。後者の理数系の定義は、中学1年生の教科書になるといきなり小学校6年生の時の5倍程度にまで増えます。基礎的な読解力が小学校卒業までに身についていなければ、ここでつまずくのは目に見えています」
新井氏はこのように述べる。