本書『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』にも書かれているように、読解力を上げるための簡単な処方箋は無い。しかし、一筋の光明はある。それは、埼玉県戸田市の事例だ。
戸田市では2016年以降、小学6年生から中学3年生まで全員がRSTを受検しているが、RSTを受けてから1年で「埼玉県学力・学習状況調査」の成績が上昇したのだ。もともと戸田市は埼玉県内で中ぐらいの成績だった。そこから小中学校の成績で総合1位まで飛躍した。
「まだ戸田市だけの実績なので、因果関係はわかりません。ここで重要なのは、それぞれの生徒の状況を先生方が把握し、どうしたら読解力が上がるのかを懸命に考えたことだと思います。結果が同じ70点であったとしても、ケアレスミスによるものなのか、そもそも問題が読めていないのかでは質が違います。問題文が読めていないのに闇雲に穴埋め式のドリルを増やしても、学力が伸びるはずはありません」
戸田市に続き、新井氏が2018年度に力を入れて取り組むのが東京都板橋区での教育だ。
「板橋区は就学援助率が高く、全国学力テストの成績も低迷しています。それが今、区長をはじめ、区全体で本気になって教育を変えようとしています。RSTはその一助になると考えています。
実際に区内の小中学校に行って、まず子どもたちがどんなふうに授業を受け、ノートを取っているのかを見ることから始めたいと思っています。人を知るには、直接会って話したり、一緒に給食を食べたりしてみなければわかりません。データだけでは見えてこないことがあります。数字だけを追うのは、それこそAIの得意分野です。生身の人に向き合わなければ本当のことはわからない。それが、『私』という人間がいる意味だと思っています」
文責:角南範子
※季刊誌「kotoba」32号に掲載したインタビュー記事を修正の上、転載しました。