——最後のひとつ、というのは何でしょうか?
武者 3つ目は、「作家」という生き方に対する理解。まさに、この本にも書かれている内容です。「新人はこんなことを考えて悩んでるんだ」っていうことを全く理解していないと、往々にしてディスコミュニケーションにつながります。
新人は悩みが尽きないわけですよ。たとえ売れてきたって、いつ売れなくなるかわからないし、人気が無くなるかもしれない。漫画の世界は人気商売ですから。そういうクリエイター心理や立場をじゅうぶんに踏まえていないと、無茶な要求をしてしまったり、心無い言葉で傷つけてしまったりする。
クリエイターは繊細な人たちが多いです。というか、たぶん繊細だからクリエイターになれるんですね。対して、こちら側は会社員で、立場の違いもある。そういうのをわかった上で話をする。そうしたら、「ああ、この人はわかってくれてる」ということで、関係性もつくれるんですよね。
そんなことを編集者は考えないとダメだと思います。クリエイターがストレス無く作品に向かえるようにするのが、編集者の役割の大きな部分なので。
とりあえず、この3つができたら、まず言うことが無いでしょう。なかなかできないんですけどね。僕もこんな風に偉そうなことを言っていますけど、「じゃあ武者さんは全部できているんですか」って言われると、たぶん「いや、できないこともあります、すみません」ということになってしまいます。ただ、その辺りは意識していますね。意識していると、ちょっと違ってくるんじゃないでしょうか。
……と、言い訳を(笑)。
プロフィール
1957年東京都生まれ。早稲田大学卒。1981年(株)小学館に入社。「少年サンデー」「ヤングサンデー」「ビッグコミック」「ビッグコミックスピリッツ」など、これまで編集として数多くのマンガ誌に携わり、「flowers」「Cheese!」では編集長を務めた。編集としてのキャリアは30年を超える。これまで輩出したミリオンセラー作家は、『健太やります!』の満田拓也、『行け!!南国アイスホッケー部』の久米田康治、安西信行、菊田洋之、きらたかし、なかいま強、『うしおととら』の藤田和日郎、『海猿』の小森陽一・佐藤秀峰、『娚の一生』『姉の結婚』の西炯子、『しろくまカフェ』のヒガアロハなど。2018年5月1日にNHN comicoが運営するマンガ・ノベルアプリ「comico」の編集長に就任。2019年4月1日よりNHN comico株式会社代表取締役社長。