著者インタビュー

新人漫画家への心得の書【後編】

『読者ハ読ムナ(笑)』 企画者・武者正昭氏インタビュー
武者正昭

——「漫画編集者のスキル」と言われてみても、なかなかイメージが湧きません。どのようなスキルが必要なのでしょうか。また、普段からスキルを磨くために心がけていることはありますか?

武者 個人的には、編集者は言葉が生命線だと思っています。漫画編集は紙に何かを描くこともあるかも知れませんが、やはりメインになるのは言葉のやり取りなので。言葉がうまくやり取りできないと、確実に不利なんですね。

「わかるよね」「うん」みたいな、そんな阿吽(あうん)の呼吸では伝わらない。剣の達人の世界だったら、もしかしたらそんなこともあるのかもしれませんけどね。「わかったか!」「はいっ」「よかろう、免許皆伝じゃ」みたいな。

……それはそれで面白いな(笑)。

——(笑)。

武者 まずは言葉を磨くこと。あとは、当たり前の話ですが、フィクションの構造を理解すること。漫画であろうと映画であろうと、ドラマであろうと小説であろうと、フィクションには恐らく共通するルールみたいなものがあるんですよ。それこそ主人公がいるとか、出だしにプロローグがあって、発端はこんなことがあって、とか。そういう創作論はちゃんと把握していた方が良いですよね。これは大前提。

そういうのを踏まえた上で、後はバリエーションになりますよね。そこで具体的に「映画の××みたいな」という形で説明ができると、意思疎通がしやすくなります。平凡だけど引き出しが多い方が良いんじゃないですかねえ。具体的な作品を沢山知っていることも大切。たとえば、「この漫画、『ダイ・ハード』みたいにつくりましょうよ」とか(例が古いかな……。でも『ダイ・ハード』って”古典”ですよね)。教養というか、知識量ですね。パッと話したときに、「●●みたいな」とすぐに出てくるものが無いと、お互いに話しにくいだろうし。そういう意味での基礎的な知識。

それから、企画の考え方。というのはつまり、今の時代の傾向を自分なりに分析して言語化したりする。「なんで今、これをやるんだろう」「どうして今、こういうキャラクターなんだろう」という時に、説得力を持たせられないと弱い。ただ「やりたいから」「面白そう」ではダメで、ある程度つきつめないと、外に向けて「今読むべき漫画です。なぜなら……」というキャッチができなくなってしまう。だから、日ごろから世の中をボーッと見ているんじゃなくて、考えながら見ていく。そうすると色んなことが浮き上がって来て、それを自分なりに咀嚼して、漫画家さんに「最近、こういうことをよく聞きますけど、ネタになりませんか」と提案できるようになります。

でも、これらの2つだけでは不十分だと個人的には思っています。

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プロフィール

武者正昭

1957年東京都生まれ。早稲田大学卒。1981年(株)小学館に入社。「少年サンデー」「ヤングサンデー」「ビッグコミック」「ビッグコミックスピリッツ」など、これまで編集として数多くのマンガ誌に携わり、「flowers」「Cheese!」では編集長を務めた。編集としてのキャリアは30年を超える。これまで輩出したミリオンセラー作家は、『健太やります!』の満田拓也、『行け!!南国アイスホッケー部』の久米田康治、安西信行、菊田洋之、きらたかし、なかいま強、『うしおととら』の藤田和日郎、『海猿』の小森陽一・佐藤秀峰、『娚の一生』『姉の結婚』の西炯子、『しろくまカフェ』のヒガアロハなど。2018年5月1日にNHN comicoが運営するマンガ・ノベルアプリ「comico」の編集長に就任。2019年4月1日よりNHN comico株式会社代表取締役社長。

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