——最後に、この本の話題からは離れてしまいますが、5月に漫画アプリ「comico」の編集長に就任されたことが話題になりました。ウェブ漫画の編集長としての野望について伺えますか?
武者 とにかくヒット漫画をつくりたいという思いが強いです。それは誰もがきっと同じことを言うと思いますけれども。どうやってつくるかが、恐らく僕に課されている喫緊の課題でしょうね。
何とかヒットが生み出せる土壌をつくりたい、というのが一番大きいかな。そのためにいろいろ方策を練って、徐々に実行に移していっているところです。
——ウェブ漫画という新しい舞台に入ったことで、ウェブ漫画に関する考え方に変化はありましたか?
武者 紙の漫画とウェブ漫画とでは、演出なんかもだいぶ違いますよね。紙の漫画は映画的で、構図や構成をかなり意識していると思います。それに比べると、ウェブ漫画はテレビのドラマ的というのかな。アップを中心にして、どんどん流していく。映画ってギュウギュウと作り込まれていて、すごく計算されているんですよね。紙の雑誌もすごく理詰めで、ページ数まで決まっているじゃないですか。一方でウェブ漫画は一定の幅はありますが、コマ数とかって全部決まっていなくて、「大体これくらいだろう」というところで自然に呼吸を入れるようになっていて柔軟性があります。
テクニックについてもすごく上達していますよね。この5年くらいで演出の表現なんかもずいぶん洗練されてきて、良い感じになってきています。ウェブ漫画もかなり完成されてきたんじゃないでしょうか。進化のスピードがかなり速いと感じます。
——漫画界全般の状況については、どのようにお考えでしょうか。
武者 きちんと新陳代謝をしている業界は、どんなになったとしても残ると思っています。そして漫画界は恐らく、正常に新陳代謝されています。確かに、配信形態は変わるかもしれません。実際にもう変わりつつありますけど、漫画自体についてはそんなに心配していないですね。たぶん、もっと多様化しますよ。アプリケーションもそうですし、読み方や受容のされ方も。漫画全体については心配していません。
もちろん、個々の紙の雑誌とかは、それぞれ心配でしょう。でも、それは個々の課題でしょうね……。ただ、大きな潮流って必ずあるので。例えば、ウェブの方に流れていく潮流とか。紙は必ず生き残るとは思うんですけれども。
現在が大変革期であることには間違いないと思います。これはたぶん、50年に1回くらいのレベルじゃないかな。たとえるならば、映画からテレビに映像の覇権が移った時代に近いんじゃないでしょうか。そんな時代に漫画にかかわるということは、確かに大変かもしれないけど、やりがいがあることなんじゃないかなって思います。
——有り難うございました。
写真:内藤サトル
プロフィール
1957年東京都生まれ。早稲田大学卒。1981年(株)小学館に入社。「少年サンデー」「ヤングサンデー」「ビッグコミック」「ビッグコミックスピリッツ」など、これまで編集として数多くのマンガ誌に携わり、「flowers」「Cheese!」では編集長を務めた。編集としてのキャリアは30年を超える。これまで輩出したミリオンセラー作家は、『健太やります!』の満田拓也、『行け!!南国アイスホッケー部』の久米田康治、安西信行、菊田洋之、きらたかし、なかいま強、『うしおととら』の藤田和日郎、『海猿』の小森陽一・佐藤秀峰、『娚の一生』『姉の結婚』の西炯子、『しろくまカフェ』のヒガアロハなど。2018年5月1日にNHN comicoが運営するマンガ・ノベルアプリ「comico」の編集長に就任。2019年4月1日よりNHN comico株式会社代表取締役社長。