対談

一之輔「売れてる芸人は9割方、目が笑ってない」 宮治「本物と偽物の違い」

春風亭一之輔×桂宮治

売れてる人は9割方、目が笑ってない

宮治 兄さんは、生まれつきそういうことを言っても許されるオーラみたいなものをまとっているんですよ。僕は詐欺師みたいなところがあるんでね。そういうキャラクターを演じているというか。だから、本物と偽物の違い。
一之輔 おまえ、ほんと目が笑ってないもんな。
宮治 兄さん、いつも言いますよね。まあ、みんなに言われますけど。
一之輔 落語家だけでなく、芸人なんて、目が笑ってない人がほとんどでしょう。と、思いますけど。
宮治 (春風亭)昇太師匠も笑ってないな。
一之輔 売れてる人は9割方、目が笑ってない。天然でおもしろい人が人を笑わせようとしても、たかが知れてるでしょう。目が笑ってない人が、必死になって笑かそうとしている。だから、おもしろいんですよ。お客さんって、難しいですから。本当に。かといって、さっきも言ったけど、甘やかし過ぎてもいけない。
宮治 その肝の座り方がすごい。
一之輔 というか、しょうがないんだ。おれはもともと、そういう感じだから。

宮治にはない、一之輔のふてぶてしさ

──(柳家)三三さんが話していたエピソードで、いちばんおもしろかったのは、一之輔さんがまだ前座の頃、ある公演のチラシに印刷されていた日程の曜日が間違っていたことがあって。開口一番(公演のトップバッター)を担当する一之輔さんが訂正告知を頼まれ、お客さんにそのことを3回ぐらい繰り返して、挙句、「これだけ言って間違える人はバカです」と言った、と。
宮治 うわ!
一之輔 さすがに怒った客がいたらしい。「これだけ言って間違える人はバカです。えー、落語のほうに与太郎さんという……」って噺に入ったの。与太郎(愚か者)の枕のつもりで。さすがに兄弟子に怒られた。怒られたというか、楽屋に戻ってたしなめられました。
宮治 柳朝師匠に。
一之輔 柳朝兄さんに。あの温厚な人が「お前、前座で、客に向かってバカはないだろう」って。
──怖いもの知らずというか、いかにもそういうことを言いそうですよね……。
宮治 普通、言えないですよ。
一之輔 今でも言いますよ。それぐらいのことは普通に。
宮治 それなのにお客さんはキャッキャ喜んでるんだからすごいわ。

一之輔 根が甘えん坊なんですよ。先輩に「甘えん坊だね」ってよく言われます。(橘家)圓太郎師匠にも言われたな。「おまえ、末っ子だろ?」「はい」「なんかそんな匂いがするんだ。甘やかされて育ってきたから、人に気を使ったり、取りなしたりするところがない。要は、甘えん坊なんだ」「へい」「俺もだよ」つって。
──いくら共通点があるといっても、一之輔さんのふてぶてしさは、宮治さんにはないところですよね。
宮治 決定的に違う。僕は本当に小心者なんで。
一之輔 本当は怖くて震えてるんです。いつも。
宮治 でも絶対、表には出さないでしょう。
一之輔 ばれてんじゃねえの? もうブルブルだから。震度5強のときのフルーチェぐらい。西田ひかるもびっくり(かつてフルーチェのCMをしていた)。
宮治 ほら。絶対、震えてねえよ。

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プロフィール

春風亭一之輔×桂宮治
春風亭一之輔(しゅんぷうてい いちのすけ)

1978年、千葉県生まれ。落語家。日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。2012年、21人抜きの抜擢で真打昇進。2010年、NHK新人演芸大賞、文化庁芸術祭新人賞を受賞。2012年、2013年に二年連続して国立演芸場花形演芸大賞の大賞を受賞。寄席を中心に、テレビ、ラジオなどでも活躍。

桂宮治(かつら みやじ)

1976年10月7日、東京都品川区出身。2008年2月、桂伸治に入門。2012年3月、二ツ目昇進。同年10月、NHK新人演芸大賞受賞。2021年、5人抜きの抜擢で真打昇進。「成金」メンバーでは三代目柳亭小痴楽、六代目神田伯山に続く、単独での真打昇進披露となる。2022年より日本テレビ系『笑点』の新メンバーに就任。

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