トルコ系伝統スポーツの普及を図るトルコ政府
山本 ソフトパワーといえば、エルドアンの息子のビラール・エルドアンが関わっている「世界民族スポーツ財団」という世界中にある伝統スポーツの保存と援助を目的とした組織があります。レスリングとか、オスマン弓術とか、乗馬の流鏑馬(やぶさめ)とか、世界各国の伝統スポーツ継承者を集めて、トルコで世界スポーツフェスティバルみたいなのを定期的に開催しています。
特にトルコはいまトルコ弓術を世界中にはやらせようとしていて。日本でもユヌス・エムレ・インスティトゥート学院というのが東京・代々木にあって、トルコ文化の紹介をしていますが、そこで弓術のクラスがあったはずです。
内田 中国の孔子学院と同じ戦略ですか。
山本 そうですね。トルコは今、インフレと経済危機ですが、その中でソフトパワー戦略に力を入れるというのは、なかなか根性あるなと思います。
中田 貧しい国のはずなんですけど、物価は今、日本より高い。
内田 そうなんですか。
山本 貧しいわけでは決してないですけど。日本の物価の1.5~2倍ぐらいでしょうか。どんどん上がってますね。
――EUに入ろうという動きはまだある?
山本 いや、もうとっくに諦めてると思います。それをやるぐらいなら、ロシアや中国、中央アジア諸国と商売したほうがいいと思い始めているのではないでしょうか。
ロシア人がトルコに大量移民
中国人もトルコで不動産投資
中田 トルコは、ヨーロッパからは嫌われていますけど、ロシア人には受けがよくて、今ロシア人がいっぱい来ていますね。中国人も。
山本 ロシア人富裕層が、トルコ西岸の高級リゾート地に一軒家を買うケースが増えてますね。トルコは一定の値段以上の一軒家を買うと、トルコ国籍がもらえるそうです。国籍をもらって、トルコ人として悠々自適に暮らしているロシア人裕福層がいます。トルコは二重国籍を認めているので、ロシア国籍とどっちも持っていると思います。
内田 二重国籍オッケーなんですか。それは賢いですねえ。
中田 帝国の一つの商売のやり方ですよね、国籍を売るというのは。大日本帝国もそうでしたね。
内田 中国人も来てますか?
山本 中国人も今、不動産投資をすごくしてるはずです。僕のところにも中国人ビジネスマンから相談が来ました。「うちが買ったアパートや一軒家を日本人に売るために、あなた働いてみませんか」みたいなオファーは、去年内田先生に夏にお会いしてから今日までで3回ぐらいありました。今、一緒に働いている大学院の同僚で中国研究のトルコ人のところにも、中国人不動産業者が連絡してきて「トルコで、こことここの土地を買ったんだけど、他に売り手がいないか」とか聞いてくる。
プロフィール
(うちだ たつる)
1950年東京都生まれ。思想家・武道家。東京大学文学部仏文科卒、東京都立大学人文科学研究科博士課程中退。凱風館館長。神戸女学院大学名誉教授、芸術文化観光専門職大学客員教授。専門はフランス文学・哲学。著書に『寝ながら学べる構造主義』(文春新書)『日本辺境論』(新潮新書)『街場の天皇論』(東洋経済新報社)など。共著に『世界「最終」戦争論 近代の終焉を超えて』『アジア辺境論 これが日本の生きる道』『新世界秩序と日本の未来』(いずれも集英社新書・姜尚中氏との共著)『一神教と国家 イスラーム、キリスト教、ユダヤ教』(集英社新書・中田考氏との共著)等多数。
(なかた・こう)
1960年岡山県生まれ。イスラーム学者。東京大学文学部卒業後、カイロ大学大学院文学部哲学科博士課程修了(哲学博士)。在サウジアラビア日本国大使館専門調査員、山口大学教育学部准教授、日本学術振興会カイロ研究連絡センター所長、同志社大学神学部教授、同志社大学客員教授を経て、イブン・ハルドゥーン大学客員教授。著書に『イスラーム 生と死と聖戦』『イスラーム入門』(集英社新書)、『一神教と国家』(内田樹との共著、集英社新書)、『カリフ制再興』(書肆心水)、『タリバン 復権の真実』 (ベスト新書)、『どうせ死ぬ この世は遊び 人は皆 1日1講義1ヶ月で心が軽くなる考えかた』(実業之日本社)、『神論』(作品社)他多数。
(やまもと なおき)
1989年岡山県生まれ。専門はスーフィズム、トルコ地域研究。広島大学附属福山高等学校、同志社大学神学部卒業、京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科博士課程修了。博士(地域研究)。トルコのイブン・ハルドゥーン大学文明対話研究科助教を経て、国立マルマラ大学大学院トルコ学研究科アジア言語・文化専攻助教。著書に『スーフィズムとは何か イスラーム神秘主義の修行道』(集英社新書)、内田樹、中田考との共著『一神教と帝国』(集英社新書)。主な訳書に『フトゥーワ――イスラームの騎士道精神』(作品社、2017年)、『ナーブルスィー神秘哲学集成』(作品社、2018年)等、世阿弥『風姿花伝』トルコ語訳(Ithaki出版、2023年)、『竹取物語』トルコ語訳(Ketebe出版、2023年)、ドナルド・キーン『古典の愉しみ(The Pleasures of Japanese Literature)』トルコ語訳(ヴァクフ銀行出版、2023年)等がある。