『はじめての日本国債』 服部孝洋著

日本経済の未来を考えるための基礎知識

福室光生

発売から半年以上経ち、いまだに版を重ね続ける『はじめての日本国債』(集英社新書)。「国債」の入り口に金利についての知識をまとめた本書を、債券ファンドの運用に携わり『投資は金利が9割 運用歴30年のプロが教える「儲ける技術」』(KADOKAWA)を上梓した福室光生氏が解説する。

『はじめての日本国債』(集英社新書)

2025年の参院選の一番の争点は、インフレ対策でした。政府が膨大な財政赤字を抱えるなかで、減税や給付金のような政策を進めるべきなのか。財政赤字を拡大させることに、本当に問題はないのか。残念ながら経済や財政の専門家でも、この問いに対するクリアな回答を提示することはできません。

なぜなら、日本が財政赤字のフロントランナーであるため、経済の歴史や他国の叡智に倣うという解決法が通用しないからです。それにもかかわらず、XなどのSNSでは、専門家やそうでない人からも驚くほど多くの自説や解説策が発信されています。こうした論争はたいてい収集する兆しはないものですが、大前提として議論をするためには、まず現状をきちんと認識することが必要です。

『はじめての日本国債』の著者である服部孝洋氏は、国債や金利についての基本的な「現状認識のための知識」を書籍やSNS、マスメディアなどで発信している経済学者です。媒筆者自身、長年金融の世界に関わっており現在は債券ファンドの運用に携わっていますが、債券についての知識は一歩一歩手探りで仕組みや制度についての知識を得るものでした。しかし、服部氏の書籍での解説は、国債をはじめとした債券の仕組みを包括てきにつたえるものでした。その圧倒的なクオリティの高さは、大げさに聞こえるかもしれませんが広く金融にかかわる人間にとって、まさに「天啓」とも呼べるものです。本書が金融の専門家・実務家だけではなく、投資や資産形成、経済動向に関心がある一般の方にまで届くものであることも、そう呼びたくなる一因です。

とりわけ、市場がどのようなプロセスで形成されているのか。あるいは、政府が発行した国債がどのようなプロセスを経て民間に吸収されているのかについての具体的なイメージを持つことができるのがこの本の魅力です。国債についての基本的な知識を知ることは、世界一の借金大国である日本で暮らすうえでさまざまな意思決定の材料になることは間違いありません。

なにより、本書が含意しているメッセージは経済については誰か特定の人の意見を信じるのではなく、基礎的な知識を材料に自分で判断することが大事ということです。経済の一般書においては、読者の関心を惹くような極端な主張や政治的なイデオロギーを用いることが多々ありますが、本書はあくまでも「読者が自分で考える」ことを促している。そこに服部氏の誠実さを感じます。

最後に筆者が本書を読んだうえで国債についてなにか述べるとするならば、実、国の債務をめぐるシステムは不思議なほどうまくできていて、国債の借り換えが上手くいかなくなるとか政府が破綻するといったことはそう簡単には起きないということです。そのために日銀が国債を買う必要もないのです。『はじめての日本国債』の書評のなかで宣伝するのもまことに恐縮ですが、実務家の立場から投資における債券の考え方を『投資は金利が9割』(KADOKAWA)で提示しました。本書とともにお手に取っていただければ幸いです。

『投資は金利が9割 運用歴30年のプロが教える「儲ける技術」』(KADKAWA)

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プロフィール

福室光生

レオス・キャピタルワークス 債券戦略部長、グローバル債券ファンドの運用を担当。東京大学工学部計数工学科を1994年に卒業後、三菱商事を経てCSファーストボストン証券で金融キャリアをスタート。その後、JPモルガン証券、UBS証券などにて金利デリバティブズや国債の自己勘定・対顧客トレーディング業務に従事。UBS証券では永年にわたりマネージング・ディレクターを務めた。2020年より現職に至る。

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