100年以上にわたり、日本のスポーツにおいてトップクラスの注目度を誇る高校野球。新しいスター選手の登場、胸を熱くする名勝負、ダークホースの快進撃、そして制度に対する是非まで、あらゆる側面において「世間の関心ごと」を生み出してきた。それゆえに感情論や印象論で語られがちである。そんな高校野球を、野球著述家のゴジキ氏がデータや戦略・戦術論、組織論で読み解いていく連載「データで読み解く高校野球 2022」。全6回にわたって、3月18日(金)からスタートする「春の甲子園」こと選抜高等学校野球大会(以下 センバツ)について様々な側面から分析していく。
第2回目は、今年のセンバツ注目校と7年ぶり出場の浦和学院の闘い方の特徴について解説する。
安定したチーム力が魅力の広陵と京都国際
今大会は明治神宮大会勢、つまり秋季地区大会を優勝した高校の注目度が非常に高い。その中でも、広陵(中国地区)・花巻東(東北地区)・九州国際大附(九州地区)は前評判が高い。
広陵の真鍋慧は、まだ1年生(新2年生)ながらも今大会の注目選手だ。体格も189cm89kgと大型である。昨年秋の明治神宮大会では本塁打も放ち、チームトップの打率.453 26打点を記録。1年生とは思えない規格外の活躍をしており、打撃センスも非常に高い。
投手陣は森山陽一朗を中心に中谷悠太、岡山優斗、松林幸紀といった好投手が揃い、打撃陣も4割近い打率を残した内海優太が3番打者として真鍋の前を打つ。明治神宮大会では大阪桐蔭に次いで準優勝だったことからもわかるように、チームとしての成熟度は高いといっていいだろう。
しかも、センバツの初戦で広陵と戦うのは明治神宮大会にも出場をした敦賀気比(北信越地区)。1回戦にして今大会最大級の注目カードは見逃せない。
主な選手の秋季大会成績
・真鍋:打率.453 1本塁打 26打点
・内海:打率.393 3本塁打 22打点
・森山:12試合 56回⅓ 防御率2.56
・岡山:10試合 26回 防御率3.12
・中谷:7試合 12回⅓ 防御率2.19
・松林:5試合 7回⅓ 防御率3.68
近畿大会ではベスト4に終わったため明治神宮大会勢ではないものの、京都国際も注目校の一つだ。2022年の京都国際は、昨年夏の甲子園ベスト4に導いたレギュラーが5人残っているため「最強世代」の呼び声が高い。投手は、安定感のある左腕の森下瑠大と最速145キロ右腕の平野順大の2枚看板が揃っている。しかも2人は打撃成績も抜きんでており、投打にわたってチームを支えている。
近年の高校野球は、過密日程や球数制限を見越して投手陣の複数枚化が加速しているが、昨年夏の甲子園に出場した天理や中京大中京のようにエースと2番手の実力差が大きいチームも多い。しかし森下と平野はほとんど実力差がなく、チーム全体として見ても経験値が高いことから、試合運びやトーナメントの勝ち方も計算がしやすいだろう。
主な選手の秋季大会成績
・森下
投:7試合 42回⅔ 防御率1.48
打:打率.346 1本塁打 5打点
・平野
投:3試合 12回⅓ 防御率3.65
打:打率.423 0本塁打 6打点
※3月18日 追記
京都国際は関係者の新型コロナウイルス集団感染により、センバツ出場を辞退すると発表。近畿地区補欠1位校の近江が繰り上げで出場することになった。京都国際を甲子園の舞台で観ることができないのは残念だが、近江は「二刀流」の山田陽翔がケガから復活したばかり。甲子園での躍動を期待したい。
センバツを制すのは強打のチーム?花巻東と九州国際大付
東北勢では花巻東が最注目だ。この花巻東には、1年生ながらも既に高校通算54本塁打を記録している佐々木麟太郎がいる。佐々木は昨年12月に、胸郭出口症候群で両肩の手術を受けたが、リハビリを経て復帰を果たした。手術から時間があまり経っていないことが懸念材料ではあるものの、4番には長打力のある田代旭も控えている。佐々木や田代を中心とした花巻東打線の平均打点は、大会出場校最多の10.50である。
ただし弱点となるのは失策の多さだ(失策数15)。とくに2022年になってから初めての公式戦となるセンバツでは、打線や投手陣のピーキングがズレる(本調子ではない)可能性も高い。守備が粗く失点が増えることによって、相手に先手を取られ、追いかける試合展開が増えることが予想される。ただ、明治神宮大会の広陵戦では、試合自体には負けたものの、一時7点差を追いつく打線の破壊力を見せつけた。粗さは目立つものの、豪快な打線で岩手県史上初の全国制覇を狙う。
主な選手の秋季大会成績
・佐々木:打率.435 6本塁打 23打点
・田代:打率.357 3本塁打 18打点
最後に紹介したいのは、秋季大会で5本塁打25打点を記録した1年生スラッガー、佐倉侠史朗を擁する九州国際大付だ。佐倉は九州大会で2本の満塁弾を記録し、明治神宮大会では大阪桐蔭戦で右中間へ弾丸ライナーの本塁打を放った。1年生とは思えない規格外のパワーに加えて、大舞台での勝負強さも兼ね備えている。秋季大会3本塁打20打点の野田海人を中心とした打線は、昨秋の福岡大会では7試合73得点を記録。九州大会では4試合6発、43得点と、花巻東に負けず劣らずの重量打線の本領を発揮している。センバツの初戦では、プロ野球のスカウトからも注目を集めるクラーク記念国際の辻田旭輝と対戦するが、好投手を重量級打線がどう攻略するのかに期待したい。
さらに注目したいのは、大会出場校最少の失策数だ。14試合で7失策、1試合平均1失策以下と、守備に安定感もある。
ただ懸念材料を挙げるとするならば、投手陣がエース左腕の香西一希一人に頼りがちな点だ。明治神宮大会では香西が2試合連続の完投でチームをベスト4に導いたものの、彼以外の投手陣が底上げされているかが、今大会で勝ち上がれるかの鍵になっていくだろう。
主な選手の秋季大会成績
・佐倉:打率.396 6本塁打 25打点
・野田:打率.396 3本塁打 20打点
・香西:11試合 76回⅓ 防御率1.41
100年以上にわたり、日本のスポーツにおいてトップクラスの注目度を誇る高校野球。新しいスター選手の登場、胸を熱くする名勝負、ダークホースの快進撃、そして制度に対する是非まで、あらゆる側面において「世間の関心ごと」を生み出してきた。それゆえに、感情論や印象論で語られがちな高校野球を、野球著述家のゴジキ氏がデータや戦略・戦術論、組織論で読み解いていく連載「データで読み解く高校野球 2022」。3月に6回にわたってお届けしたセンバツ編に続いて、8月は「夏の甲子園」の戦い方について様々な側面から分析していく。
プロフィール
野球著述家。 「REAL SPORTS」「THE DIGEST(Slugger)」 「本がすき。」「文春野球」等で、巨人軍や国際大会、高校野球の内容を中心に100本以上のコラムを執筆している。週刊プレイボーイやスポーツ報知などメディア取材多数。Yahoo!ニュース公式コメンテーターも担当。著書に『巨人軍解体新書』(光文社新書)、『東京五輪2020 「侍ジャパン」で振り返る奇跡の大会』(インプレスICE新書)、『坂本勇人論』(インプレスICE新書)、『アンチデータベースボール データ至上主義を超えた未来の野球論』(カンゼン)。