データで読む高校野球 2022 第2回

強豪校を牽引する1年生スラッガーたちと7年ぶりセンバツ出場の浦和学院

ゴジキ

 

浦和学院はなぜ春に強く、夏に弱いのか

 

さて、今大会に7年ぶり11回目のセンバツ出場を果たした浦和学院にもスポットを当ててみたい。

昨年夏で勇退をした「モリシ」こと森士(もり おさむ)氏から息子の森大(もり だい)氏へと監督業がバトンパスされた。この浦和学院は、秋季大会から春季大会のチームの成熟度が非常に高いことで知られる。センバツに関しては、2013年に優勝をしており、2015年にはベスト4にも入っている。さらに遡ると、2012年のセンバツではベスト8に入っており、この年に春夏連覇を果たした大阪桐蔭を、甲子園で一番苦しめたチームといっても過言ではない。

 

その浦和学院だが、前監督の森士氏の時代は、センバツでいい試合をしているのにもかかわらず、夏の甲子園では非常に酷い試合内容で負けることが多かった。

 

 

春夏それぞれの甲子園勝率は下記の通りだ。

 

春出場10回20勝9敗勝率.690

夏出場14回12勝14敗勝率.462

 

夏の甲子園の方が、出場回数が多いのにも関わらず、勝ち数が少ないのである。

ここまで、春夏の強さが異なるチームがあっただろうか。

 

浦和学院はなぜ春に強く、夏に弱いのか。

それは、センバツと夏の甲子園における戦い方の違いを理解していないからである。

 

センバツは秋から本格的なチームビルディングがはじまり、2年生と1年生のみで戦う。そのため、強豪校でも選手が成長しきっていなかったり、チーム全体の方針が固まっていない場合がある。それゆえ、多少采配が粗くともポテンシャルの高い選手が力を発揮できさえすれば強豪校にも勝つことができる。

 

しかし、夏の甲子園はそうはいかない。3年生にとっての「最後の夏」というプレッシャーにくわえ、強豪校は夏にピークを合わせてチームビルディングをおこない、万全の状態で挑んでくる。そうなると、春の戦い方とは異なる、きめ細やかな采配が必要になってくる。

 

浦和学院の場合は、センバツで見つけた勝ちパターンに依存して、夏の甲子園では試合状況を読むことができずに負けてしまうというパターンを繰り返してきたのである。

 

とくに象徴的なのは、「浦和学院黄金期」といわれる2012年から2015年の試合だ。

 

2012年のセンバツ準々決勝、大阪桐蔭戦では、控え投手・山口瑠偉を先発させる。結果的に山口は5回無失点の好投を繰り広げるが、6回にあっさり降ろし、エース佐藤拓也にスイッチした。山口と佐藤の好投に応えて、打線も7回裏の攻撃時に無死満塁のチャンスを作るも、藤浪晋太郎(現阪神)の前に三者連続三振を喫した。その後、藤浪のワイルドピッチで再度勝ち越したが、最終的に9回表に逆転されて、敗戦。この試合自体は2対3というスコアや山口を降板させるタイミングを含めて、非常にいいゲームであった。

ただ、夏の甲子園はセンバツでの戦い方を引きずってしまった。勝てば大阪桐蔭との再戦が見込めた3回戦の天理戦で、佐藤ではなく山口が先発をした。これは、準々決勝(大阪桐蔭戦)を見越した起用法だったのだろう。しかし、この起用法は誤算に終わり、序盤で山口が3失点を喫してしまい、佐藤はリリーフで抑えたものの、敗れてしまった。佐藤を温存するのであれば彼が完投をした初戦の高崎商戦(6-0)と2回戦の聖光学院戦(11-4)で、点差がついた時点で降ろしてよかったのではないだろうか。点差がついた試合で完投をさせたのにもかかわらず、大事な試合でエースを先発させずに敗けては、選手側もやるせない気持ちになるだろう。

 

翌年の2013年のセンバツは1年生エースの小島和哉(現ロッテ)と高田涼太、山根佑太、竹村春樹を中心とした強力打線を擁して初優勝を果たした。全試合がセーフティリード、または大差での試合だったため、選手のポテンシャルだけで優勝できたような大会だった。さらに、センバツは夏の甲子園より、緩やかな日程だったこともあり、控え投手の山口が1イニング投げただけで、あとはエースの小島が全て投げて全国制覇を果たした。夏の予選でも圧倒的な強さを誇り、春夏連覇も夢ではない世代だった。

しかし、また悪夢が訪れる。初戦の仙台育英戦はまさかの乱打戦に。エース小島は、足を攣るなどもあって満身創痍だった。これも、小島が6回ぐらいに限界がきつつあった時点で山口にスイッチすべきだっただろう。結局、山口にスイッチした場面は打たれたらサヨナラの9回裏。プレッシャーがかかる場面で、突然控え投手を登板させる。非常に間が悪い場面での交代だった。ちなみに、この夏の甲子園で優勝を果たした前橋育英が前年の秋から夏までの期間の公式戦で唯一負けた高校は、浦和学院だけだった。それほど強いチームだったため、勿体ない結果だった。

 

2015年は、センバツで高橋奎二(現ヤクルト)を擁する龍谷大平安や、高橋純平(現ソフトバンク)を擁する中京大中京を下してベスト4に輝いた。さらに夏の地区大会の前哨戦である春季大会では、小笠原慎之介(現中日)や吉田凌(現オリックス)を擁する東海大相模に勝利するなど、非常に可能性が高いチームでもあったが、夏の予選で白岡にあっさり敗れてしまった。

 

戦術面で露呈する「勝負弱さ」

さらに森士元監督の采配を遡って見ていくと、夏の甲子園における「勝負弱さ」が浮彫りになってくる。

とくに目立ったのは、継投策や守備における戦術ミスだ。

2002年の夏の甲子園2回戦の川之江との試合をみてみよう。この年の浦和学院は、エースの須永英輝(元日本ハム)を擁し、1回戦でセンバツ覇者の報徳学園に勝利したことで、勢いに乗っていた。2回戦でも7回終了時まで5-1とセーフティリードを奪い、余裕の展開だった。しかし、8回に須永は急に崩れ、同点にまで追いつかれてしまう。捕手を務めた滝沢健太郎は7回から須永が爪を気にしていることに気がついたが、森士監督は動かず、須永を続投させた。結局9回の裏に逆転負けを喫し、浦和学院は2回戦で姿を消した。須永の前兆に配慮をしていれば、左腕の鈴木寛隆にスイッチするのが最善だっただろう。1回戦で春の王者報徳学園に勝利した自信が過信に変わっていたのか、あるいは4点リードの状況に安心したのかはわからないが、明らかな戦術ミスと言わざるを得ない。

 

2004年夏の甲子園2回戦の中京大中京戦も、2002年と同様に先制をしながら終盤に追いつかれ、逆転負けを喫した。この試合では「満塁策」(ピンチの場面であえて敬遠することで満塁にし、ダブルプレーを取りやすくする戦術)が勝敗をわけた。

中京大中京は、8回裏に浦和学院の6番打者を歩かせて下位打線を打ち取るべく、満塁策をとった。

大藤敏行監督は「スクイズで勝ち越し点を取られるのが嫌だったんです。とくに同点に追いついてすぐの回で点を取られると流れも悪い。(9回の攻撃が残っていても)ここで取られたら1点も2点も同じでしょう」と試合後にコメントを残した。

その結果、7番打者を併殺打に打ち取りこのピンチを凌いだ。

 

対して浦和学院は9回表に、中京大中京と同じく満塁策をとったが、満塁の場面で回ってきたのは3番打者の小川だった。その小川が左中間を破るタイムリーで勝負が決まった。高校野球においては、クリーンナップに据えられた打力がある打者が次に控えているのにもかかわらず、満塁策を取るのは愚策といっていい。接戦の場合はなおさらだ。

 

そして森士元監督にとって最後の夏の甲子園での試合となった2021年の日大山形戦でも球数制限に意識するがあまり、エースの宮城誇南を温存したまま初戦敗退した。

 

このような勝負弱さは、監督の動きどころの悪さに起因するものである。動くべきところで動かず、動かなくていいときに動いてしまう。精神論ではあるが、これらの采配ミスは監督の余裕のなさから生まれているものだ。

春夏問わず勝ち切れる強豪校の監督には、精神的な余裕があるようにみえる。たとえば大阪桐蔭の西谷浩一氏や、取手二や常総学院を率いた故・木下幸男氏は、接戦時にもどっしりと構えて、ビハインド時でも笑顔でいた。

浦和学院の夏の甲子園での弱さの原因は、監督の余裕のなさだったのではないだろうか。

 

そんな浦和学院もここ数年はセンバツ出場すらかなわなかった。しかしそのような状況で、昨年夏の予選終了後に就任した森大監督は見事にチームをまとめ上げ、7年ぶりの出場に導いた。新たな浦和学院に期待していきたい。

 

次回は3月23日(水)公開です。

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データで読む高校野球 2022

100年以上にわたり、日本のスポーツにおいてトップクラスの注目度を誇る高校野球。新しいスター選手の登場、胸を熱くする名勝負、ダークホースの快進撃、そして制度に対する是非まで、あらゆる側面において「世間の関心ごと」を生み出してきた。それゆえに、感情論や印象論で語られがちな高校野球を、野球著述家のゴジキ氏がデータや戦略・戦術論、組織論で読み解いていく連載「データで読み解く高校野球 2022」。3月に6回にわたってお届けしたセンバツ編に続いて、8月は「夏の甲子園」の戦い方について様々な側面から分析していく。

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プロフィール

ゴジキ

野球著述家。 「REAL SPORTS」「THE DIGEST(Slugger)」 「本がすき。」「文春野球」等で、巨人軍や国際大会、高校野球の内容を中心に100本以上のコラムを執筆している。週刊プレイボーイやスポーツ報知などメディア取材多数。Yahoo!ニュース公式コメンテーターも担当。著書に『巨人軍解体新書』(光文社新書)、『東京五輪2020 「侍ジャパン」で振り返る奇跡の大会』(インプレスICE新書)、『坂本勇人論』(インプレスICE新書)、『アンチデータベースボール データ至上主義を超えた未来の野球論』(カンゼン)。

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