その医療情報は本当か 第13回

人生観に合点がいく医療情報を探して行動を変える

田近亜蘭

■「統合医療」「代替療法」…ことばを整理する

患者さんからしばしば受ける質問のひとつに、「統合医療や代替療法は信頼できますか?」ということがあります。

多種のメディアや医療の現場で、「統合医療」「代替療法」「民間療法」「補完治療」などの用語が用いられていますが、まず、それぞれが何を指すのか、ことばの意味について整理しましょう。

日本では、治療の有効性のエビデンスが確立されていて公的医療保険が適用される治療(現代西洋医学が中心)を、「標準治療」と表現しています。「通常治療」や「保険治療」と呼ぶ場合もあります。これらのことばは、がんの治療法の選択のときに使われることが多いようですが、実際にはがんに限ったものではありません。

たとえば、内臓のがんの手術を「標準治療」で実施したあとに、公的医療保険適用外の「健康食品、サプリメント、ヨガ、気功、音楽など」を活用して治療することを「補完治療」といいます。「標準治療」(通常治療・保険治療)に補完した治療という意味合いでこう呼ばれます。

そしてこの場合、「標準治療」と「補完治療」の両方を行っているので、合わせて「統合医療」といいます。

「統合医療」について、厚生労働省は『「統合医療」に係る 情報発信等推進事業』とする公式サイト『eJIM(イージム:evidence-based Japanese Integrative Medicine)』(図1参照)にてこう説明しています。

「いわゆる『統合医療』は、近代西洋医学と相補(補完)・代替療法や伝統医学等とを組み合わせて行う療法であり、多種多様なものが存在します。」

図1 厚生労働省による「統合医療」の情報発信サイト『eJIM』

一方、「代替療法」とは、「標準治療」を行わずに、公的医療保険適用外の方法、たとえばマッサージの施術、健康食品やサプリメントの摂取などだけを行う場合をいいます。

また「標準治療」と「補完治療」をひとつの病気に対して同時に実施する場合は、診療面から「混合診療」と呼ばれます。ただし、日本ではこの標準治療である「保険適用診療」と補完治療である「保険適用外診療(自由診療)」の併用は原則として禁止されています。

もしこれを実施する場合は、「補完治療」だけでなく、「標準治療」のほうも公的医療保険は適用されず、治療のすべてが自由診療(全額患者さんの自己負担)となるわけです。例外はありますが、この点には注意をして、治療法を選択する際に事前に重々に確認してください。

また、西洋医学ではなくても、漢方薬の場合は現在、一部の生薬や処方では公的医療保険が適用されます。鍼灸師による鍼灸治療の場合もいくつかの条件を満たせば、保険の適用となる場合があります。

治療法の選択前に、こうしたことばの意味と、それぞれのシステム、費用を理解しておくと、混乱を少なくすることができるはずです。

治療法について不明点や確信が持てないこと、理解ができないこと、不安なことは、医師をはじめ、総合病院・大学病院に設置されている「相談室」に、またがんの場合は「がん相談支援センター」(第6回参照)で納得がいくまで相談しましょう。

「統合医療」の信頼できる情報を探すには

統合医療について正確な情報を得るには、先述の『eJIM』を活用してください。

統合医療、代替療法、補完療法などは、真偽不明の多くの情報が出回っていることは読者の皆さんも認識しておられるでしょう。『eJIM』には、エビデンスに基づいた情報を「一般の方へ」「医療関係者の方へ」と読者対象を分けて、一般の方向きにはわかりやすく読みやすく、知識がまとめられています。

また、『eJIM』のサイト内には「統合医療エビデンス」というページがあります。「健康食品」「コクラン・レビュー」「構造化抄録」などに分けて、それぞれ、専門家が科学的知見で精査した情報が掲載されています。

前々回(第11回)、国際的に信頼度が高い、世界のエビデンスレベル1の「システマティックレビュー」の文献を集めたサイト『コクラン・ライブラリー』を紹介しました。そこに載っている情報を「コクラン・レビュー」と呼びます。

『eJIM』には、コクラン編集員会が「補完代替医療」のコクラン・レビューを「臓器・疾患別に分類」した情報がわかりやすく掲載されています(図2参照)。

図2 『eJIM』→「統合医療エビデンス」→「コクラン・レビュー」の順にクリックすると、画面中央あたりに「臓器・疾患別分類」の一覧表がある。それぞれをクリックすると、「補完代替医療」の情報一覧→各情報を日本語で読むことができます。

リンクをたどると、「日本語テキスト」は日本語に翻訳された医学論文の抄録(しょうろく。サマリー)ページに、「原文(英語版)」ボタンは英語の同ページにリンクしてあります。英語版といっても、第11回で伝えたとおり、サイト画面の上部にある「日本語」を選択すれば、自動で日本語に翻訳され、無料で読むことができます。

たとえば、「がん(39件)」をクリックすると、39件の補完代替療法に関するコクラン・レビューの抄録が日本語で読めるわけです。現在(2024年04月10日)、たとえば、「癌患者に対するダンス/運動療法」「成人における癌予防のためのビタミンD補充」などのタイトルの抄録を日本語で読むことができます。

一例として、「血液またはリンパ節の癌患者に対する標準ケアに併用するヨガ」を見てみましょう。このページでは、血液またはリンパ節のがん患者が標準治療と合わせてヨガを補完治療で行なった場合に有効かどうかが示されています。

本来なら複数の「ランダム化比較試験」(治療法を検証する試験のうち、もっとも信頼性が高い方法。第4回参照)の結果を統合したものがシステマティックレビューですが、このレビューにはたったひとつの小規模なランダム化比較試験しか含まれていません。これは、「徹底的に研究結果を探してもこれ以外にはなかった」ということを意味します。

そして、このコクラン・レビューでは、がん患者に対するヨガのエビデンスの質は「非常に低い」ため、「どの程度有効であるかを述べる十分なデータはない」と結論づけています。

ほかのテーマについても抄録を読んでみてください。「有効かどうかの結論は得られていない」「有効というエビデンスは得られていない」と書かれたものがたくさんあることに気づくでしょう。

このように、あるテーマに関してコクラン・レビューがあるからといって、すぐにそのことがその治療の「有効性」を示しているわけではありません。「有効性に関するエビデンスがなかった」ということを示すのも、システマティックレビューの重要な役割なのです。

医療情報を見極めるポイント「か・ち・も・な・い」

これまで、医療方法の真偽を確かめる方法、また、真の情報のあり場所などを述べてきました。ネット上にも「医療・健康情報の見極めかた」といったサイトがたくさんあります。しかし、その情報そのものも適切なのかどうかを見極める必要があります。

その見極めかたのポイントについて、聖路加国際大学のヘルスリテラシー学習拠点プロジェクト(※1)の中山和弘教授が提案する「か・ち・も・な・い」という覚えかたを紹介しましょう。

」…書いた人(著者あるいは情報提供者)は誰か? 信頼できる専門家か?

」…違う情報と比べたか? テーマや内容が同じのほかの情報と比較したか?

」…元ネタ(根拠)は何か? 出典や引用、検証されたデータがエビデンスとして示されているか? 情報の出どころは何か?

」…何のために書かれた情報か? 特定の商品やサービスの広告などで、営利目的で書かれたものではないか?

」…いつの情報か? 最新情報なのか? 更新はされているのか?

以上のように、このポイントは「価値もない」という表現と語呂合わせで覚えやすいように示されています。医療関係者の医療リテラシー、情報リテラシーの教育にも活用されています。

■公的機関による一般向けのわかりやすいサイト

公的機関が一般の人を対象にわかりやすいことばで発信・運営し、さらに医療関係者もよく活用するサイトを次に挙げておきます。

・『eヘルスネット』…厚生労働省の公式サイト。「生活習慣病予防」「こころの健康」「歯・口腔」「飲酒」「喫煙」などに関する医療・健康情報を各分野の専門家が解説。

・『こころの耳』…厚生労働省の公式サイト。働く人のメンタルヘルスというテーマで、「5分でできる職場のストレスセルフチェック」「疲労蓄積度セルフチェック」「うつ病」「相談窓口」などを発信。 

・『こころの情報サイト』…国立精神・神経医療研究センターの公式サイト。「こころの病気やメンタルヘルスに関する医学的情報」「医療・福祉・労働・年金など社会的支援に関する情報」を発信。

・『健康寿命を伸ばそう SMART LIFE PROJECT』…厚生労働省が実施する国民の健康づくりのサポートプロジェクトを紹介するサイト。「食事」「運動」「睡眠」「健康診断」「禁煙」など生活習慣改善情報を発信。

・『ヘルスケアラボ』…厚生労働省の公式サイト。女性の健康支援のための、「病気・病院の検索」「セルフチェック」「ライフステージ別健康ガイド」「マタニティトラブル」「漢方」などの情報を発信。

誤った情報を信じ込む心理とは

情報を得る際には分野に関わらず、人によってその「受け取りかた」が違うことについても認識しておきたいものです。

その「受け取りかた」については、心理学で「認知バイアス」が知られています。認知バイアスとはこれまでにも伝えたとおり、考えかたや判断の偏り・思い込み・偏見といった意味合いです。

無意識でも意識的にでも、「自分の願望や期待を裏付けるような情報を追い、重視し、選んでいる」、また、「自分の願望や期待に反する情報は無視し、軽視し、排除している」。そのような心理をいいます。

人には、過去のできごとや経験、環境、感情のありようによってこの心理、認知バイアスが働きます。心理学で立証されているいくつかの現象を次に紹介します。

・ハロー効果…ひとつのことが優れていると、すべてが優れていると思い込む心理。

たとえば、「有名な医学博士、大学教授がこの商品を勧めている」とあれば、エビデンスがわからなくても正しい情報だと思い込む、また、成績優秀な人なら運動もできるし性格もいいと判断することなど。「ハロー」とは「こんにちは」ではなく、英語の「halo」で「後光」の意味。「ミルグラム効果」「権威への服従原理」も同意で用いられる場合がある。

・アンカリング効果…最初に見た数字やデータを基準(アンカー)として記憶し、その後の判断に重要視する心理。

たとえば、「この車は300万円ですが、本日中に現金で購入の場合は250万円にします!」などと、最初の基準の料金からすると安くなったと思いこむこと。

・バンドワゴン効果…多数の人が支持する、選んでいる事象に、いっそうと同調する人が増大していく現象。

たとえば、「いま、〇〇〇〇が大流行中!」といった広告を見ると、それに影響を受ける心理。

・バーナム効果…誰にでも該当するような表現を、「自分だけにあてはまること」としてとらえる心理。

たとえば、「シワやたるみが気になりませんか」「このごろ疲れているでしょう」など、商品の広告のみならず、占いや悩み相談に多用される。

・カリギュラ効果…禁止や制限をされると、逆にそれを行動したくなる心理。

たとえば、「体重が気になる人以外は見ないでください」や、「今週中に限り30%引き!」といった「期間限定」の手法もある。

・ウインザー効果…第三者による「感想」「経験談」を信頼する心理。

たとえば、商品やサービスの「クチコミ」「お客様の声」「医師が使っている」などを広告に利用する例がある。

・スノッブ効果…多くの人と同じものを持つのは嫌だと、人とは違うものを欲しがる心理。

たとえば、高級品のみならず、「日本一の〇〇」「ここでしか買えない」「あなただけのオリジナル商品です」などと広告する例がある。

■人間は容易に認知バイアスに引っかかる

ほかにも多くの心理効果があります。ここで強調しておきたいのは、このような心理を利用した「マーケティング心理学」があり、購買意欲を向上させる広告のテクニックがいくつもあるということです。

その心理を知っておくと、自分の行動に対して「あ、これは多くの人に当てはまるからバーナム効果だな」とか、「特別な気分になったけれど、この商品への興味はスノッブ効果だ」などと冷静になれるでしょう。衝動買いや、トリックが隠れていそうな数字や広告の鵜呑み(うのみ)を回避できるかもしれません。

また近年では、こうした非合理的な人間の心理を見つめて消費行動を分析し、経済を考える「行動経済学」と呼ぶ分野の学問も進展しています。

では、医学の分野に関してはどうでしょうか。

患者さんを惑わすような広告表現は「医療法」という法律で禁止されています。第7回で、医療広告に「患者の体験談」「医療脱毛の回数無制限」「施術前後の写真」などは禁止ということを例を挙げて紹介しました。わたしの周囲でも反響が大きかった記事です。

これは裏を返せば、法律で規制しなければ、人間は容易に認知バイアスに引っかかる恐れがあることを意味します。
とくに、自分や家族が病気で落ち込んでいるときや不安感が強いときは、日ごろよりも影響を受けやすいと意識しておく必要があります。

われわれは2020年以降、コロナ禍という極めて特殊な時期を経験しました。そのときに、専門家や非専門家、有名人のコメント、匿名の第三者の投稿など、さまざまな情報がメディアにあふれたことは記憶に新しいでしょう。このとき、ハロー効果やウインザー効果などが入り込む余地があったはずです。わたし自身も、あの時期に認知バイアスの影響を受けなかったとは、自信を持って言うことができません。

ヒトは感情の動物であり、「自分もこうした種々の心理効果を持ち合わせている」と自覚しておくことこそが、適切な情報の選択のために必要なのです。

わたしも、根拠がよくわからない医療情報に接した際には、その都度、先述の「か・ち・も・な・い」の5つの視点でチェックすることを心がけています。

自らの人生観に合点がいく医療情報を探す

これまでに、たとえば風邪をひいて薬を飲んだら、劇的に効いて楽になった、という経験はあるでしょうか。そういった経験がある人が再び風邪をひいたときに、その薬は毎回同じように「劇的に」効くでしょうか。おそらくそうではないと思います。

少しだけ効いたと感じるときもあれば、まったく効果が感じられないときもあるはずです。平均すると、「薬はまあまあ効く」というあたりに落ち着くのではないでしょうか。

内科や精神科で処方されている薬が、「平均的に」どのくらい効くのかということを調べた研究があります。効果の程度をわかりやすく、「小さい効果」「中ぐらいの効果」「大きい効果」の3つに分けた場合、内科も精神科の薬も、「小さい効果」と「中ぐらいの効果」の間で効くと発表されました(※2)。

もちろんこの結果は、常に大きな効果は期待できないと言っているのではありません。たまに、何らかの機会で劇的な効果を体験することはあるかもしれません。しかし、「平均的にはそんなに大きな効果は期待できない」ということを意味しているのです。

そしてこれは、決して悲観的な事象ではありません。毎回魔法のような効果は期待できなくとも、「平均的に、まあまあ効く」ことが保証されているとも言えるからです。

世の中には、「〇〇療法で病気が治る!」とその有効性を極端にうたう情報があるかと思えば、「〇〇療法のウソ!」などと、真逆の情報も出現し、ともにさまざまにあふれています。

その中で、もし極端に目をひく「面白い」医療情報に接したら、一呼吸して冷静に、これまで紹介した信頼できる情報源にあたり、調べてみてください。

おそらく真実は、「もっとも面白くないあたり(まあまあ効く〜あまり効かない)」に落ち着くでしょう。

そのテーマに関するコクラン・レビューがあったなら、「それほど面白くない結果」が書かれているはずです。

今回で本連載は最終回となりますが、実のところ、わたしがもっとも伝えたいことはこの点にあります。

医学的、社会的に正確で、かつ自分にとって適切な情報、つまり本当のこととは、ドラマや漫画のストーリーのような劇的な内容ではなく、白黒がはっきりしているわけでもなく、探している答えは、あいまいな部分を多分に残したまま、「なんだ、けっきょくそうなのか」と思うところにあるでしょう。

現在の医学において、魔法の薬や治療法はありません。魔法を求めず期待せず、「平均的に、まあまあ効く」治療法をコツコツと継続することが、改善、回復、健康への最短コースなのです。

医療情報を自ら吟味し、自分の治療への価値観や人生観にとって適切で合点がいく情報を得たとき、ヒトは考えかたを変え、意思を持ち、必要に応じて行動を変えるようになるでしょう。

そこへたどりつくまでの医療情報の選びかたが、自分にとって納得がいくものであるほど、その後の人生に後悔が少なくなるのは間違いないとわたしは考えています。

読者の皆さんが、ご自身にとってより充実した豊かな人生を送るための医療情報に出合われることをこころより願っています。最後までお読みいただき、まことにありがとうございました。

参考 

※1 https://university.luke.ac.jp/about/project/healthliteracy.html
https://www.healthliteracy.jp/internet/post_10.html

※2 Leucht S, Hierl S, Kissling W, Dold M, Davis JM. Putting the efficacy of psychiatric and general medicine medication into perspective: review of meta-analyses. Br J Psychiatry. 2012;200(2):97-106.

構成:朝日奈ゆか・藤原 椋・岩田なつき/ユンブル

 第12回
その医療情報は本当か

医療リテラシーの定義は「医療や健康情報を入手・理解・評価・活用するための知識、意欲、能力」とされている。その実践法として、医療の定説やメディアで見聞きする医療情報の読み取りかたを数字、グラフ、情報の質を中心に説明し、また適切な情報を見分ける方法とその活用法を紹介する。

プロフィール

田近亜蘭

たぢか・あらん 京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻 健康増進・行動学分野准教授。医学博士。精神科専門医・指導医。精神保健指定医。京都大学大学院医学研究科博士課程医学専攻修了。関西医科大学精神神経科・医局長、京都大学医学部附属病院精神科神経科・外来医長などを歴任 。

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人生観に合点がいく医療情報を探して行動を変える