対談

【前編】偶然が引き寄せた「継承」の対話──家具と伝統工芸、時を繋ぐ二人の「再会」

大塚久美子×塚原龍雲

2025年11月17日、2冊の著書が同時に発売された。大塚久美子氏の『後継者不足時代の事業承継 当事者の視点で考える』と、塚原龍雲氏の『なぜ日本の手しごとが世界を変えるのか 経年美化の思想』。発売日が同じというだけでなく、二人の縁はそれよりずっと前、ひとつの家具から始まっていた。

構成/井尾淳子 撮影/内藤サトル

大阪南港から始まった「審美眼」のルーツ

──本日は、同じ2025年11月17日に新刊を上梓されたお二人をお迎えしました。実は旧知の仲だったそうですね。

大塚 本当に驚きました。塚原さんとは以前から交流がありましたが、まさか同じタイミングで、同じ出版社から本を出すことになるとは。

塚原 僕もびっくりしました。どこの本屋さんに行っても、久美子さんのご著書と拙著は隣に並んで販売されていて嬉しいです。

大塚 塚原さんのご著書を拝見して、日本のものづくりの思想が、現代の新しい感性で捉え直されていることに非常に勇気づけられました。今回の対談は、単なる本の紹介を超えて、私たちがどうやって「大切なもの」を次世代に繋いでいくべきか、そのヒントを探る時間になればと思っています。

塚原 実を言うと、僕の「ものさし」を作ってくれたのは、大塚家具さんなんです。僕の父が大の大塚家具ファンで、子どもの頃はよく大阪南港の大きなショールームに連れて行かれました。

大塚 そうだったんですか。南港のショールームは広いですから、お子さんには冒険のようだったかもしれませんね。

塚原 まさにそうです。そこで家具にくわしいスタッフの方から、ものづくりの背景や家具のウンチク話をたくさん聞かせてもらいながら、初めて一人で寝るためのベッドを自分で選んだんです。その時の購入体験や、お気に入りのベッドに毎日触れる経験が、僕の美意識に大きく影響しています。その後、アメリカ留学中に気づかされたんですよ。「ベッドがギシギシ言わないのは当たり前じゃないんだ」とか「机の角がささくれないのは、実は凄いことなんだ」と。

大塚 嬉しいですね。私たちが大切にしてきた「使い捨てではないライフスタイル」や、手間を惜しまない接客が、塚原さんのような若い世代の感性に届いていたんですね。

塚原 ソファも絨毯も、僕の実家にある家具の多くが大塚家具です。なので、「こういう家具を扱う大塚家具の方は、どんな人だろう?」と、数年前に思い切って久美子さんにX(旧Twitter)でDMを送らせていただいたんですよね。

大塚 ちょうどコロナ禍で、少し自分のペースで時間が取れる時期でした。時期もちょうどよかったんですが、「元・大塚家具の顧客です」という丁寧なメッセージをいただいて、一度お会いしてみようと思ったのが始まりでした。

塚原 本当にお返事を下さった時は、「返ってきた~!」と、一家で大騒ぎになって(笑)。

ライフスタイルとは「生き方の反映」である

大塚 塚原さんのご著書を読んで印象的だったのは、単に「古いものを守ろう」という話ではなく、それが自分の生き方とどう繋がっているかを問うている点です。

塚原 ありがとうございます 。昨今のブランド志向、例えば「ルイ・ヴィトンだからいい」「エルメスだからいい」といった記号的な価値基準って、どこか自分の「外側に基準がある」ような気がしていて。みんなが評価しているから、高いから、という外の尺度ではなく、自分自身の内側にある「ものさし」や好みを大切にしたいんです。ものと向き合うことで自分自身の価値基準を醸成し、自分の好みに沿ったものと暮らすことこそが本当の豊かさではないでしょうか。

大塚 まさにそうですね。「Lifestyle(ライフスタイル)」のLifeという英語には、「生活」と同時に「人生」という意味もあります。何を選び、何とともに暮らすかは、まさにその人の生き方の反映です。単に高価なものを買って自慢するのではなく、自分が何を大切だと思っているか、その価値観を物に託して共感し合う。それは、日本人が古来持っていた、物と心の幸せな関係性だったはずです。

塚原 大塚家具の接客もそうでした。ブランド名で売るのではなく、「これはこういう作りで、作り手はこんなことを考えている」と理由を教えてくれる。僕が伝統工芸の世界でビジネスをやりたいのも、その「心の豊かさ」の継承なんです。

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関連書籍

後継者不足時代の事業承継 当事者の視点で考える
なぜ日本の手しごとが世界を変えるのか 経年美化の思想

プロフィール

大塚久美子

(おおつか くみこ)
埼玉県生まれ。1991年、一橋大学経済学部卒業。クオリア・コンサルティング代表。94年、大塚家具に入社、96年取締役。経営企画、営業管理、教育研修等の長を歴任。2004年に退職し、翌年、クオリア・コンサルティング設立、代表に。09年、大塚家具社長就任。14年7月に社長職を離れるが、翌年1月に再任。20年の退任後は現職。明治大学グローバル・ビジネス研究科特別招聘教授。著書に『後継者不足時代の事業承継 当事者の視点で考える』(集英社新書)

塚原龍雲

(つかはら りゅううん)
2000年生まれ。高校卒業後、米国の大学に入学。留学先で日本文化の魅力と可能性を再認識したことをきっかけに「KASASAGI」を創業。日本の美意識で世界を魅了することを掲げ、伝統工芸品オンラインショップ「KASASAGIDO」や、伝統技術を建材やアートなどの他分野に応用する「KASASAGI STUDIO」を展開。インド仏教最高指導者佐々井秀嶺上人の許しを得て出家した、インド仏教僧でもある。著書に『なぜ日本の手しごとが世界を変えるのか 経年美化の思想』(集英社新書)。

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