現代魔女 第14回

女神とサイボーグ——螺旋の踊り

円香

螺旋の踊り

ここまで本書では、現代魔女たちが展開してきた政治的実践の歴史を辿ってきた。第12回では、W.I.T.C.H.からスターホークの登場に至るフェミニズムと魔術の合流を、そして第13回では、エコロジー思想やグリーナム・コモンの反核運動に見られるような、大地に根ざした霊的アクティビズムの展開を紹介した。

しかし、ここまで読み進めてきた読者の中には、ある種の居心地の悪さを感じている方もいるのではないだろうか。

たとえば、こんな疑問が浮かんでいるかもしれない。「女神」を中心とする霊性運動は、結局のところ女性の役割を母性や自然に結びつける古い考え方に逆戻りしているのではないか。70年代、80年代の政治活動の話は興味深いけれど、女神というのは母性を強調していてなんとも苦手である、あるいはウイッカの神学は男神と女神という両極性を強調し、二柱の神々を中心とするが、このような霊的実践はクィアの人々を排除してこなかったのか。女神を中心に据え置くことは、むしろフェミニズムの目指すものに反するのではないか——。

これらはきわめて真っ当な問いである。そして実際に、フェミニズムと女神運動は80年代に誤解と摩擦も経験してきた。「女神」という言葉にまつわる先入観が多くのフェミニストたちと女神運動、魔女たちとの間に深い葛藤と確執を生んできたのだ。

しかし、まず第一に現代魔女術のコミュニティと女神運動のコミュニティは北米では重なり合っているが、グループによって女神についての捉え方はかなり多様である。北米の魔女のコミュニティには様々なジェンダー、セクシャリティの背景を持つ人々がいた。1980年代にはエイズ被害に苦しむ同性愛者コミュニティを積極的に支援したペイガン魔女たちが存在し、1990年代になるとオンラインのペイガンコミュニティには女神の「乙女、母、老婆」の役割や、既存のウイッカのルールに挑戦するペイガンや魔女たちが現れ活発な議論が生まれてきた。北米のペイガン魔女たちは柔軟に実践を変容させてきたのだが、それらがこれまで十分に外向きに紹介されてきたとは言い難い。

これらウイッカの枠組みに挑戦したクィアな現代魔女たちの具体的な展開については次章であらためて紹介するとして、本章では、魔女の世界における性別二元論と本質主義批判について、フェミニズム科学論の論客ダナ・ハラウェイの「サイボーグ宣言」とスターホークらのスパイラルダンスの関係を通して検討したい。第2回でも少し触れたが、「サイボーグ宣言」の末尾にある「スパイラル・ダンス」をめぐる一文は、長い間、女神とサイボーグの対立の根拠として読まれてきた。しかし実際には、その読みは本質主義/構築主義という対立の枠組みのなかで本質主義批判に終始するものであり、両者の対立を強調するばかりで重要な点を掴みそこなっているのではないか、と私は考えている。ハラウェイとスターホークの関係を辿り直すことで見えてくるのは、単純な対立では捉えられない螺旋の踊り——魔女たちの技芸の核心である。

女神運動と70年代の女性たちの女神アート

スターホークとハラウェイについて触れる前に、ひとつ押さえておきたい流れがある。女神運動はペイガンや現代魔女の世界だけで閉じられた話ではない。1970年代の女性解放運動を背景に、美術の世界からも「女神アート」と呼ばれる潮流が生まれていた。

当時、考古学者マリヤ・ギンブタスの古代ヨーロッパにおける女神崇拝文化の研究や、メアリー・デイリーらのフェミニスト神学、マーリン・ストーンの『神が女性だったとき』(1976年)といった著作が相次いで発表され、フェミニスト・スピリチュアリティ運動を後押しした。さらに、現代美術の世界の女性アーティストたちが政治性を帯びた作品を積極的に発表しはじめ、共鳴していったのが70年代の女神運動であった。

「裸じゃなければ、女性はメトロポリタン美術館に入れない?」というポスターはゴリラのマスクを被ったアーティスト集団「ゲリラ・ガールズ」の有名な作品だ。1989年にゲリラガールズのメンバーたちはメトロポリタン美術館の19世紀と20世紀ギャラリーを実際に訪れ、女性ヌードの数と男性ヌードの数、女性アーティストの作品数と男性アーティストの作品数を数えた。その結果、近現代美術セクションの女性アーティストは全体の5%未満、一方、ヌード作品の85%は女性の裸体であることを突き止めた。このポスターが鋭く暴露するように、美術界の美の基準が白人男性に支配されてきたことを20世紀の女性アーティストたちは暴き始めたのである。そして、美術の世界で最初にこのような政治性を帯びた作品を発表した女性たちの作品群を見てみると「女神」を主題とした作品を多くの女性アーティストが描いてることに気が付く。

モニカ・スジョは1968年に『神が子を産む』という挑発的な作品を展示し、警察による差し押さえという弾圧を受けた。彼女はシーラナ・ギグやマリヤ・ギンブタスの女神像の研究を連想させる幾何学的な風景画などの女神的イメージを描き続け、様々な政治的アクションに自ら参加した先駆的アーティストである。

射撃絵画の手法で知られるニキ・ド・サンファルは60年代後半から『赤い魔女』や『白い女神』といった半立体の絵画作品を制作し、女性の様々な顔を多面的に描こうと試みた。後に彼女の表現はカラフルで巨大な女性像『ナナ』シリーズへと発展する。巨大な『ナナ』は鑑賞者が女性器から内部に入ることのできる没入型の芸術だった。さらに、彼女の創作意欲は留まることを知らず、およそ20年の月日をかけてイタリア・トスカーナ地方の自然の中に、タロットカードの大アルカナに登場するモチーフを通した彼女の霊性探求を巨大な建物、彫刻群として結実させた。

ナンシー・スペロは古代の女神像を現代的文脈でコラージュによって再構成する作品を発表した。メアリー・ベス・エーデルソンは異教的儀式を実際に執り行い、コラージュ写真や異教的なパフォーマンスを通じて女神との関係性を探究する実践的アプローチを取った。ジュディ・シカゴも1985年に『女神の導き』を制作し、女性の霊性と美術の繋がりに関心を寄せているアーティストである。

これらの「女神アート」や「女性の霊性」に関連した美術は、主流のアートの周縁に位置づけられるものだったが、女性の霊性運動、フェミニスト神学や女神運動と並行して展開した。これらはウーマンリブに呼応した美術の世界から出てきた神が女性であることを想像する試みであり、一神教世界の神に対する挑戦でもあった。しかし1980年代に入ると、この女神アートは「本質主義的」であるとして、美術評論やフェミニズム内部から強い批判を受けるようになった。女性と自然を結びつけることが本質主義的で、文化盗用に満ちているとみなされるようになったのである。また、女神信仰は女性を「産む」「育てる」といったステレオタイプを強化している問題も指摘された。本質主義とは、「女性」というカテゴリーに生物学的・心理的に普遍かつ不変の本質が備わっているとする考え方である。出産・養育能力を女性固有の特性として強調し、女性の役割を「産み育てる存在」に還元する傾向をもつ。

これに対し、ポスト構造主義フェミニズムは、ジェンダーが社会的・言説的に構築されたものであるとして本質主義を批判した。また、本質主義は白人中産階級の経験を女性一般に普遍化し、人種・階級・セクシュアリティの差異を不可視化するとして、インターセクショナリティの観点からも厳しく批判されている。

女神運動や女神アートが批判にさらされた理由は明確だ。「女性性」や「母なる大地」「月の女神」といったイメージを繰り返し用いることで、女性の身体経験や自然との親和性を不変の本質として固定化しているように見えたからである。女性の力を称揚するつもりが、かえって「女性とはこういうものだ」という枠を強化してしまうのではないか——この懸念は、決して的外れなものではなかったし、女性解放運動に関わる人々から大変嫌われるのは筆者も理解できる。

しかし、70年代以降に勃興した女性霊性運動、女神運動やフェミニスト魔女たちの実践から発展したその後の系譜は、すべて本質主義に回収されるようなものだったのだろうか。話はそう単純ではない。

これまでの章で詳しく論じたように、現代魔女にとっての「女神」は、そもそもロールモデルや固定化された女性像ではない。フェリの魔女たちは神々を心理学には還元されない、実在性を持つ、生き生きと動くものとして考えている。スターホークは女神を「万物を貫く関係性の網」として説明し、「女神の多くの側面は男性である」とも述べ、女神という語をジェンダー的本質からも解放しようとした。(註1)スピリチュアリティの語源が「息」であり、私たちが生きるのに欠かすことのできない「呼吸」に関わることは示唆に富む。私たちが呼吸をするときに植物が吐き出した酸素を吸い込み、二酸化炭素を吐いて植物たちに送り返すといった絶え間ない関係性の環、生まれたものが必ず還る大地そのものを魔女たちは女神として捉えていた。

筆者が思うに、女神をめぐる様々な表現の内部には、女性たちが長年の一神教からの抑圧に反発する中で自分たちの身体の在り方をもう一度取り戻そうとするがゆえ、本質主義的傾向を強化するように見える側面と、それを内側から開き、解釈を曲げたり解体しようとする力学が同時に存在してきた。この結びとほどきの緊張関係も女神が持つダイナミズムであり、現代魔女術の面白さでもある。

そしてこの緊張関係、魔女たちの「不自然さ」を最も鮮やかに照射した一人が、ダナ・ハラウェイである。

サイボーグと女神——ダナ・ハラウェイと螺旋の踊り

現代魔女文化を初めて知るきっかけがダナ・ハラウェイの「サイボーグ宣言」(1985年)である人が日本では少なからず存在する。筆者もその一人である。

フェミニズム科学論の論客ダナ・ハラウェイの「サイボーグ宣言」は、同論稿の末尾にある「どちらもスパイラル・ダンスのなかに拘束されているが、わたしは女神よりはサイボーグでありたい」という一文で締められており、初めて読む人にミステリアスな印象をあたえる。皮肉っぽい響きのあるこの一文は、女神と踊る魔女たちと先端の科学技術に親和的なサイボーグの対立の根拠として長い間考えられてきた。

女神の霊性運動を牽引し、スパイラル・ダンスを踊るスターホークと、科学技術を研究するアカデミアにいるハラウェイを、本質主義/構築主義といった単純な対立図式で考えてしまえば、まるで真逆の対立する思想を持つ存在であるかのように見えてしまう。日本でもこの一節は長らくそのようにのみ読まれてきたのだと思う。

しかし、2018年に私は実際にスターホークとリクレイミングが主催するスパイラル・ダンスに参加する機会を得た。その渦の中で、スパイラル・ダンスとは何かを、私は言葉ではなく身体を通して知ることになる。ハラウェイは「女神ではなくサイボーグになりたい」と述べた。しかし私がスパイラル・ダンスに魅かれるようになったのは、女神かサイボーグか、科学技術とスピリチュアリティか、精神か身体か、そのようなまやかしの対立のどちらかを選ぶことではない。サイボーグも女神もともにスパイラル・ダンスに巻き込まれ、絡まり合いながら、ぐるぐると踊り続けている——その物語の交差、渦の流れそのものに、私は立ち会い、その意味を知り、飲み込まれたのだった。

「螺旋の踊りに縛られて」——ハラウェイとスターホークの対談

2017年10月18日、カリフォルニア大学サンタクルーズ校で、科学と正義のリサーチセンター客員研究員ジョアン・ハランがモデレーターとなり、ダナ・ハラウェイとスターホークの公開対談『螺旋の踊りに縛られて——アクションへの呼びかけとしての魔術・形象化・思弁的フィクション』が実現した。この対談の中で、ハラウェイはスターホークの活動から自身が影響を受けてきたということを語った。

両者の実践は、フィクションを用いてアクションを誘発するという点で深く共鳴している。スターホークは政治的アクションを詩やダンスといった儀式によって鼓舞する魔女であり、ハラウェイは物語を共に編むという行為を通して新たな知を立ち上げようとする語りの実践者である。その間には、アクションをどの様に編みあげるのか、人々をどのように触発するかという知の芸術的実践、対立では語れない実践的なつながりが存在する。

これまでも紹介してきたように、80年代初頭、スターホークは北カリフォルニアの反核ネットワークであるリヴァモア・アクション・グループ(LAG)に関わっていた。そしてハラウェイ自身もまた、カリフォルニア大学サンタクルーズ校のアフィニティ・グループ(註:2)の一員としてLAGに参加し、スターホークの実践から影響を受けたことを語ったのである。

ハラウェイは「サイボーグ宣言」の中でサイボーグを自然と技術、有機物と無機物を跨ぐメタファーとして導入し、フェミニズムにおける伝統的な二元論に挑戦した。ハラウェイが語るのは、固定されたカテゴリー間の対立ではなく、アフィニティ(親和性)によって生まれる新たな実践、つながりを作る政治である。それはスパイラル・ダンスのように身体をお互いに縛り付けあい、互いがもつれあう関係の中で生まれてくるものだ。

グリーナム・コモンの反核運動に参加した女性たちは、自らの身体を基地に結びつけることで抵抗を行った。彼女たちの戦略は、批判の対象から距離を置くことではなかった。技術から自分たちを引き離すのではなく、むしろ世界最強の軍産複合体に自ら近づき、フェンスに人間の鎖として体を巻きつけ、不純なサイボーグ的ネットワークの一部となることで人々の注目を集めた。核兵器100基が近隣に配備されるという市民の恐怖と怒りをメディアにさらし、国内のみならず世界中へと伝えたのである。

ダナ・ハラウェイは「ウィービング」と呼ばれる魔女たちの編み物運動を不自然なサイボーグ的実践として注目している。グリーナムの女性反核運動は雑多な、カテゴリーに縛られない人々で構成されていたからだ。反核運動と聞くと、左派を思い浮かべる人がいるかもしれないが、この運動は多くの生活保守の女性を巻き込んだ点が画期的だった。当初は子供や家族を核ミサイルから守るという女性達の「母として自然な」動機から始まった女性たちの活動が、気が付けば女性たちが家庭を飛び出していく事態に発展し、ラディカルな「不自然な」存在への変容を促したのである。この様子を当時のマスメディアは「ごついブーツのレズビアン」や「ならずもの」と報道した。しかし、実際にはイギリスの保守の人々も彼女たちを支持していたのだ。

ハラウェイとスターホーク、同じ時代を生き、反核運動に関わった両者が蜘蛛、編み物、あやとりといったモチーフを用いて世界を再編する実践や物語を構想したことは偶然ではないだろう。「女神神話」も「サイボーグ神話」もどちらも「超越的な父なる神」の物語を拒否し、内在的な新たな物語を編み出そうという試みだった。彼らはそれぞれが異なる思想と表現を持ち、違った言葉で語りながらも、同じスパイラルダンスに縛り付けられ、ともに世界を編み直す実践者なのである(註3)。

ハラウェイは2016年の著書『トラブルと共にとどまる』の中で、絶望的な終末をただ待つのではなく、怒りだけではなく、喜びや遊び心を手放さずに、現在も進行する闘争のなかで物語を紡ぎ、具体的な行動と連帯を生み出し続けるための実践について述べている。この著作のなかでハラウェイは「カミーユの物語」という思索的な物語を編んでいる。荒廃した世界で、物語は人間が絶滅危惧種のオオカバマダラと共生関係を結ぶ未来。物語の中でハラウェイはスターホークの傷ついた世界に対して嘆く詩を引用する。


深く息を吸って。その痛みを感じて。
それは、私たちの奥深くに棲みついている。
なぜなら私たちはいまなお、 むき出しの傷のただ中に生きているのだから。
痛みは、私たちの内なる塩。
ひりひりと焼きつく。
それを洗い流して。
その痛みを、ひとつの音へと変えて。
呼吸に乗って流れる、生きた川へと。
声を上げて。
叫んで。
悲鳴をあげて。
嘆き、 この世界が引き裂かれていくことを悼みなさい。

——スターホーク『真実か挑戦か』

ハラウェイが自らの思索的物語を編む中で、未来の世界にスターホークの詩を編みこんだのは、彼女がスターホークの言葉を、未来を開く力として認めていることの証左だろう。科学とスピリチュアリティ、技術と自然はサイボーグのように切り離しがたく、もつれあう。ハラウェイの思考の中で対立するものではなく、ともに傷ついた世界を修復するための糸なのである。

サイバネティックな女神と共に

今回の冒頭で提起した問い——女神運動や現代魔女文化は本質主義に回収されるのではないか——に対して、私たちはハラウェイとスターホークの交差を辿ることで、一つの応答を見出した。

ハラウェイは、自然や女性といったカテゴリーの政治を避け、自らはサイボーグになりたいと語る。しかし同時に、彼女自身も反核運動の渦の中で魔女たちと出会い、スパイラル・ダンスという不純な絡まりあいに縛り付けられていた——そのことが、「サイボーグ宣言」の最後の一文には秘かに刻まれている。

その一文は、女神とサイボーグの単純な対立を意味するのではない。むしろ、魔女の大鍋の中でどろどろにかき混ぜられ、サイバネティックな女神とと共に、どちら終わりなきトラブル、終わりなきスパイラル・ダンスの渦中にある——そこには人間以外の生き物も、虫も、菌も、無機物も、霊も含まれている。

魔術の核心は、矛盾を矛盾のまま抱き続け、その世界の狭間に別の可能性を開くこと、すなわち二項対立で世界を捉えないということである。

海と大地、昼と夜、魂と肉体、拡大と収縮、包含と逸脱、恍惚と悲嘆、主体と客体、こちらの世界とむこうの世界、高等魔術と低級魔術、超越と内在、聖と俗、既知と未知、右手の道と左手の道、白魔術と黒魔術。確かに、このような世界を二項対立で捉える語彙の対は、魔術の世界にも数多く存在する。けれども魔術はそれらを統合していく錬金術だ。

スパイラルダンスのような魔女たちの儀式は、この複数の世界の狭間、境界に開かれた時空で行われる。

マジックアワーはなぜマジックアワーなのか。昼と夜の狭間だからである。なぜ伝統的な民間の魔術にカエルやモグラがよく使用されるのか。二つの世界を跨ぐ特別な能力を持つ存在だからだ。サークル、コンパス、クロスロード——魔女たちはそうした名で呼ばれるリミナルな空間を開く。魔女が箒に乗って飛ぶイメージは、まさにこの境界を跨ぎ、複数の世界を飛び越える行為の比喩でもある(註:4)。

ここで重要なのは、たとえ複数の世界を飛び越え、旅をしたとしても、もといた世界にちゃんと戻ってくるということだ。魔術は夢の世界に行きっぱなしになるような人には向いていない。そして、境界にはさまざまなものがやってくる。だから魔術の世界は安全ではない。でもそこで何が起こるのかを、身をもって試してみる——あわいのなかで自分自身が絶え間なく変容する。こういう奇妙な好奇心に憑りつかれた人だけが実践するのが魔術なのだ。

私がスターホークやフィオ・ゲデ・パルマをはじめ、多くの魔女たちから学んだ重要なことがある。それは、ウィッチクラフトの核心とは、対立した二つの世界の「どちらかを選ぶ」ことではないということだ。光か闇か、善か悪か——そのような二者択一ではない。拮抗するパラドックスを壊さずに抱き続ける技芸。それが魔女達の技芸であり、藝術と呼ばれてきたものでもあり、ハラウェイが「トラブルと共にとどまる」と呼ぶ実践とも共鳴するものである。

矛盾するものを矛盾したまま、その両方を抱き続けること。そのためにいつもユーモアを大切にすること。耳を傾けてよく知ること、意志をもって、あえてやってみること、そして、沈黙すること(註:5)。

(次回へつづく)

(註)

註1:霊的ジェンダーについて

霊的存在のジェンダーは本来曖昧なものである。神々や妖精のような精霊のジェンダーに過度に注目すること自体が、極めて現代的な現象といえる。たとえばギリシャ神話には、ヘルマプロディトスのように男女両性を持つ神格が存在した。日本でもなじみ深い観音菩薩は、インドでは梵名が男性名詞であり、髭をたくわえた男性として表現されていたが、中国や日本に伝わる過程で女性的な姿へと変容した。仏教的にはそもそも性を超えた存在とされ、ジェンダーが固定されない神格の典型である。また、神話の世界では神の体の一部から別の神が生まれる場合もあり、人間や動物のような生殖活動を経ない誕生譚は世界の神話に広く見られた。アテナがゼウスの頭部から、日本神話ではイザナミの死体から複数の神々が誕生したとされるように、こうした例は枚挙にいとまがない。女神運動に大きな影響を与えた考古学者マリヤ・ギンブタスは、新石器時代の女神像の中に頭部が男根状の形をしたものがあることを紹介し、女神が両性具有的な存在だった可能性を論じた。そもそも、神々を人間の姿で想像すること自体が普遍的なわけではない。動物や妖怪、木霊のような形で神々を捉える文化も数多く存在する。

註2:アフィニティ・グループについて
1980年代の反核運動は、冷戦下の核軍拡に対抗する市民運動として拡大し、大規模な直接行動を伴った。その際、参加者は信頼関係に基づく少人数単位であるアフィニティ・グループを形成し、相互の安全確保と迅速な意思決定を可能にした。5~15人程度の顔の見える範囲の親密な規模で構成され、各メンバーは互いを信頼し、ときに励まし、合意形成を通じて行動する。この柔軟で応答性の高い組織形態は、大規模な抗議行動の基礎単位として機能すると同時に、参加者間の情緒的・精神的つながりを育む場としても重要な役割を果たす。この形式は、非暴力行動の実効性を高めると同時に、中央集権的権力への批判としての水平的、非階層的な組織原理を体現するものであった。さらに、国家による監視や弾圧への対抗として、分散的な構造が運動全体の持続性を支えた。

なお、スターホークの共同設立したリクレイミングもLAGの反核運動に参加していたため、組織構造が非階層的で英国伝統派ウイッカのような階層構造を持っていない。魔女たちの行う大きな儀式や合宿では連日感情が動き、精神的に不安定になる場合があるので参加者同志が見守ったり、励まし合うために臨時的なアフィニティ・グループを形成する場合がある。これも元々は反核運動の際に取られたアナーキズム的な組織オーガナイズの手法がリクレイミングの魔女たちの組織術に取り込まれ、発展したもののようだ。

註3:『サイボーグ魔女宣言』

本章で紹介したサイボーグと現代魔女に関する研究については、ダナ・ハラウェイ研究者である逆卷しとねと著者がキメラとして協働した「まどかしとね」のプロジェクトを通じて2023年に行われた2回のトークショーとZINE『サイボーグ魔女宣言』にまとめている。
ダナ・ハラウェイと現代魔女の実践の融合に興味のある方はこちらを参照していただきたい。

註4:ヘッジクロッシング

現代の伝統派ウィッチクラフトには、「ヘッジクロッシング」と呼ばれる「生け垣を越える」実践が存在する。この言葉が指すのは、トランス状態に入り、精神をいわゆる「異界」へと送り出す技法——夢見術、つまりアストラル飛行の実践だ。

かつてのヨーロッパの農村において、生け垣は村と荒野の境界を画するものだった。ヘッジクロッシングは瞑想とは明確に区別される。瞑想やビジュアライゼーションが「心の中」で起きることであるのに対し、ヘッジクロッシングは一種の体外離脱体験として位置づけられる。そこで何を見て、誰と会い、何を学んで戻るか——知恵を得てもとの世界に戻るという実践的な目的を持つ。

註5:エリファス・レヴィの「スフィンクスの力」

エリファス・レヴィの「スフィンクスの力」という概念は多くの魔術の実践者に参照されている。「サンクトゥム・レグヌム、言い換えれば、マギ(魔術師)の知識と力を得るには、4つの不可欠な条件がある――研究によって照らされた知性、何物にも阻まれない勇敢さ、決して砕けない意志、そして何物にも汚されず、何物にも酔わされない慎重さである。「知る」「敢えて行う」「意図する」「沈黙する」――これらが、スフィンクスの4つの象徴的な形に刻まれた魔術師の4つの言葉である。」エリファス・レヴィ『超越魔術』

参考文献)

キャロル・クライスト、ジュディス・プラスカウ 編『女性解放とキリスト教』(奥田暁子・岩田澄江訳、新教出版社、1982年)

アリス・クック、グウィン・カーク『グリーナムの女たち――核のない世界をめざして』(近藤和子訳、八月書館、1984年)

アイリーン・ダイアモンド、グロリア・フェマン・オレンスタイン編『世界を織りなおす――エコフェミニズムの開花』(奥田暁子・近藤和子訳、学芸書林、1994年)

スターホーク『聖魔女術 スパイラル・ダンス』(鏡リュウジ・北川達夫訳、秋端勉監修、国書刊行会、1994年)

ドリーン・ヴァリアンテ『魔女の聖典』(秋端勉訳、国書刊行会、1995年)

マーガレット・マレー『魔女の神』(西村稔訳、人文書院、1995年)

ジル・リディントン『魔女とミサイル――イギリス女性平和運動史』(白石瑞子・清水洋子訳、新評論、1996年)

マリヤ・ギンブタス『古ヨーロッパの神々』新装版(鶴岡真弓訳、言叢社、1998年)

『ユリイカ』第30巻第14号(特集=女神)(青土社、1998年)

ダナ・ハラウェイ『猿と女とサイボーグ——自然の再発明』(高橋さきの訳、青土社、2000年)

ダナ・ハラウェイ、サミュエル・ディレイニー、ジェシカ・アマンダ・サーモンスン『サイボーグ・フェミニズム 増補版』(巽孝之編、巽孝之・小谷真理訳、水声社、2001年)

マーゴット・アドラー『月神降臨』(江口之隆訳、秋端勉監修、国書刊行会、2003年)

河西瑛里子『グラストンベリーの女神たち――イギリスのオルタナティヴ・スピリチュアリティの民族誌』(法藏館、2015年)

梅田拓也・今関裕太 編『メディウム』第2号(メディウム編集部、2021年)

まどかしとね トークイベント「Cyborging, Witchcrafting」(Gallery Soap Online、2023年)

まどかしとね「魔女と蜘蛛とサイボーグ」(ZOZO Fashion Tech News、2023年)

まどかしとね トークイベント「サイボーグ魔女宣言」(Gallery Soap Online、2023年)

まどかしとね「サイボーグ魔女宣言」(BCCKS、2024年)

Ronald Hutton『The Triumph of the Moon: A History of Modern Pagan Witchcraft』(Oxford University Press、1999年)

Aidan A. Kelly『Inventing Witchcraft: A Case Study in the Creation of a New Religion』(Thoth Publications、2008年)

Coleman, Kristy S. Re-riting Woman: Dianic Wicca and the Feminine Divine. AltaMira Press, 2009.

Jason Pitzl-Waters, “Amazon Priestess Tribe ‘Retires’ From Z. Budapest’s Dianic Lineage,” The Wild Hunt, March 8, 2012.

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Cara Schulz, “Overview of the PantheaCon Gender Debate,” Patheos, February 22, 2012.

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Thompson, Sarah, Philip Tanner, Calyxa Omphalos, and Jacobo Polanshek. Gender and Transgender in Modern Paganism. Edited by Gina Pond. Circle of Cerridwen Press, 2012.

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Haraway, Donna J. Staying with the Trouble: Making Kin in the Chthulucene. Duke University Press, 2016.

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Sollee, Kristen J. Witches, Sluts, Feminists: Conjuring the Sex Positive. ThreeL Media, 2017.

Haran, Joan. “Bound in the Spiral Dance: Haraway, Starhawk and Writing Lives in Feminist Community.” a/b: Auto/Biography Studies, 2019.

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Phil Hine. Acts of Magical Resistance. Twisted Trunk, 2023.​​​​​​​​​​​​​​​​

Carla Ionescu. “GODDESS TALKS: Dianic Wicca and Women’s Rites – with Ruth Barrett.” The Goddess Project Podcast, S02 E212, 2023.

Fio Gede Parma. Ecstatic Witchcraft: Magic, Philosophy, & Trance in the Shamanic Craft. Crossed Crow Books, 2024.

Noël Subrina Sucese, Selling The Spell: The Commodification of Feminist Witchcraft PhD dissertation Loyola University Chicago, 2026

 第13回
最終回  
現代魔女

フィクションの世界のなかや、古い歴史のなかにしか存在しないと思われている「魔女」。しかしその実践や精神は現代でも継承されており、私たちの生活や社会、世界の見え方を変えうる力を持っている。本連載ではアメリカ西海岸で「現代魔女術(げんだいまじょじゅつ)」を実践しはじめ、現代魔女文化を研究し、魔術の実践や儀式、執筆活動をおこなっている円香氏が、その歴史や文脈を解説する。

プロフィール

円香

まどか 

現代魔女。アーティスト。留学先のLAでスターホークの共同設立したリクレイミングの魔女達に出会い、クラフトを本格的に学びはじめる。現在はモダンウィッチクラフトの歴史や文化を日本に紹介している。未来魔女会議主宰。『文藝』『エトセトラ』『ムー』『Vogue』『WIRED』などに現代魔女に関するインタビューや記事を掲載。2023年から逆卷しとねとキメラ化し、まどかしとね名義でZINE『サイボーグ魔女宣言』を発売。笠間書院にて『Hello Witches! ! ~21世紀の魔女たちと~』を連載中。

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女神とサイボーグ——螺旋の踊り

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