フィギュアスケートの今シーズンのフィナーレを飾る世界選手権が、いよいよ開幕します。
3月18日の午後、羽生結弦が帰国したニュースも届きました。空港で、報道陣から右足の状態を尋ねられた羽生は、
「大丈夫です」
と答えました。多くの方々と同じだと思いますが、私はその短い言葉に心から安堵したのです。
羽生結弦は非常に正直な選手だと私は思っています。
物書きの端くれとして、羽生結弦が発する言葉をもっと厳密に表現するなら、
「どんな状況でも、仮に体調がネガティブ寄りであっても、嘘を言えない。試合前、ボルテージを高めていかなくてはいけないタイミングで、体調がネガティブ寄りの場合は、むしろポジティブな言葉でそれを表現しようとする」
という選手だと思っているのです。
私が今回の「大丈夫です」という言葉で思い出したのは、平昌オリンピックの、試合が始まる前のニュースでした。韓国に入国した際、仁川空港で囲み取材を受けたとき、コンディションを尋ねられた羽生は、「えー…そうですね」としばらく考えた後に、
「滑っていないのでわからないです」
と答え、しかしすぐに、
「ただ、どの選手よりも勝ちたいという思いが強くあると思いますし、どの選手よりも、ピークまでもっていける伸びしろがたくさんある選手のひとりだと思っているので、しっかりと、頂点というものを追いながら、頑張っていきたいと思っています」
と続けました。
『羽生結弦は助走をしない』に続き、羽生結弦とフィギュアスケートの世界を語り尽くす『羽生結弦は捧げていく』。本コラムでは『羽生結弦は捧げていく』でも書き切れなかったエッセイをお届けする。
プロフィール
エッセイスト。東京外国語大学外国語学部フランス語学科卒業後、出版社で編集に携わる。著書に『羽生結弦は助走をしない 誰も書かなかったフィギュアの世界』『恋愛がらみ。不器用スパイラルからの脱出法、教えちゃうわ』『愛は毒か 毒が愛か』など。