安倍首相が悲願とする改憲が、いよいよ現実味を帯びてきている。戦後、早い段階から「GHQの“押しつけ憲法”ではなく自主憲法を」といった改憲の声はあったはずだが、社会にはそれにブレーキをかけようとする力も強くあり、現時点まで私たちはこの憲法を守り続けてきた。しかし、それはもはや時代遅れなのか。そもそも憲法とは何で、私たちにとってどんな役割を果たすものなのか。
これからはじめて憲法について考える人にとっても、改めて憲法の意義や改憲について考えたいという人にとってもまさにうってつけの一冊が、本書である。
ユニークなのは、憲法学者の著作でありながら、本書が解説書ではなく「ゼミの記録」スタイルで展開される点である。まずは読売新聞による改憲に関する世論調査の結果を見ながらそれぞれの項目についてディスカッションする。次いで、テーマは「自民党による新憲法草案」に移る。法学部のゼミ生なので問題意識は高いが、自民党案に対して「ヴィジョンを示すこんな憲法があってもよいのでは」などの、率直で自由な発言が飛び交う。「それは危険」とほかの学生が反論してハラハラする箇所もあるが、間一髪で水島教授が憲法の歴史や国際情勢などの話とユーモアでうまく介入。
読みものとしての面白さに目を奪われてページをめくるうちに、私たちは「憲法を守らなければならないのは、国民ではなく国家」「国防軍創設だけでは問題は解決しない」「他国の改憲手続きは日本以上に厳格」「二院制には民主主義のクーリングオフ機能がある」といった憲法の基本、民主主義の基本を学んでいくことになるのだ。
おそらく今後2020年に向けて、「新しい憲法のもとでオリンピックを!」といったスローガンが町中にあふれるだろう。ちょっとでも前向きな気持ちになりたい、とそのトレンドに身をまかせる前に、まずは多くの人に一読してもらいたい。熱烈に歓迎したはずの新憲法で自分の自由や権利が抑圧された、などというカフカ的な悪夢の世界が実現してからではもう遅いのだから。
かやま・りか●精神科医・立教大学教授
青春と読書「本を読む」
2013年「青春と読書」10月号より