ライブハウスや飲食店などの休業補償を求める「#Save Our Space」、黒川元検事長定年延長に抗議する「#検察庁法改正案に抗議します」、「#GoToキャンペーンに反対します」などのタグがTwitter上で作られ、署名サイトChange org.でも各業界に休業補償を求める署名フォームが作られたりと、インターネット上の政治アクションはこれまでにないほどに活発化している。
2000年代後半から2010年代初頭にかけて、FacebookやTwitterが広まりを見せたころは「アラブの春」の成功などもあり、SNSによって政治を変える「動員の革命」の時代がやってきた。しかし近年ではSNSでの過剰な意見対立の結果、政治はむしろ分断されているという言説も出てきた。そんな最中、新型コロナウィルスの感染拡大によってインターネットを通した政治への働きかけは再注目されているのである。
そうした状況下において、ウェブを通して国会議員の政策立案支援を行っているのが政策提言プラットフォームPoliPoliだ。ここでは現在、新型コロナウィルス対策関連の政策を議員が投稿し、市民のユーザーがコメントをつけていくキャンペーンを行っている。新型コロナウィルスの流行により生活が変わり、困っている人の声をきくことで、政策をより有効性のあるものにするのが狙いだ。
このインタビューでは、株式会社PoliPoliの若きCEOである伊藤和真さん(22)にウェブを通して政治を変えることの新たな可能性についてお聞きした。
PoliPoliは現在、コロナ禍に対応した政策を投稿するキャンペーンを行っております。まず、PoliPoliのシステムについて教えていただけますでしょうか。
僕たちが運営するサービスは、ひと言で言うと「人々と政治家を繋ぐプラットフォーム」です。まずサービスに登録した国会議員の方々が、実現したい政策を投稿します。そしてその投稿に対して、ユーザーがコメントをすることで、政策をブラッシュアップし、実現性を高めていく。投稿された政策が現在どのように進んでいるかは、投稿を見れば一目でわかるようになっていますし、政治家がユーザーに向けて意見交換会を呼びかけることもできます。
投稿された政策は、PoliPoliを使っている国会議員が自発的に出しているのか、それともPoliPoli側からアプローチをかけて政策を集めていたのか、どちらでしょうか。
前者ですね。のプラットフォームを使っている21名の国会議員の方々は、投稿した政策に対してユーザーがコメントして、それをもとに政策を改善していくというコンセプトに共感してくれています。今までの制度では、陳情やロビイストによるロビイング、あとは講演会や演説を聞きにくる人の意見しか、国会議員の耳に入ってこなかった。つまり、このサービスを利用する議員たちは、市民の声を聞いて、いま必要な提案をするということに能動的なんです。そうした考えをもっているという意味では、自民党も、立憲民主党、国民民主党、少数政党の議員も党派を超えてPoliPoliに協力しています。
PoliPoliを国会議員に使ってもらうために、どのようなアプローチをかけたのでしょうか。
このサービスを始めた2年前は議員の知り合いがいなかったので、とりあえず100人にFacebookのメッセンジャーとかでメッセージを送っていました。その甲斐あって今は知り合いが増えたので、そうした方々の繋がりから登録する方を増やしています。今は21人の議員が政策を投稿し、それに対してコメントがつくことで、政策がブラッシュアップされて実現するというサイクルを確立することが重要だと思っているため、その理念に共感した人が政策の投稿をできる方式を採用しているんです。ただ現段階ではサービスを広げるフェーズではないと思っているので、あえて国会議員の方々は簡単に登録できないようになっています。
新型コロナウィルス対策のキャンペーンでは、どのような提案がされているのでしょうか。
まず前提として、コロナ禍において人々の政治への関心が高まっている実感があります。今までは政治に不満があっても伝えられなかった人たちが声をあげている。そうした状況を受けて新型コロナウィルス政策に対して意見を伝えやすくするべく、4月にPoliPoli内で特設ページを作らせて頂きました。
やはり普段から政策を投稿されている国会議員の方々も新しい政策の必要性を感じていることもあってか、リリースしてから3ヶ月ですが多くの政策が提案されて、すでに実現しているものもあります。例えば、自由民主党の木村弥生議員が提案した看護師に対する危険手当を求める政策は、プラットフォームを通して一般の方々とともに意見交換を行いながら進めたものです。その結果、市民の生の声を反映させた政策へとブラッシュアップされ、先日可決された二次補正予算に組み込まれています。
また、国民民主党の矢田わか子議員が提案した働く妊婦の方々に対する配慮や休業補償を求める政策は、政策実現に向けた活動報告が1カ月で17回更新され、意見交換会も活発に行われました。国民民主党の玉木代表は10万円給付政策についての投稿をし、有権者から意見を集めています。
このように、投稿された政策に対して有権者がコメントをして声を届けたり、逆に国会議員が意見交換会を告知するということが現在活発に行われています。今までのPoliPoliで投稿される政策よりも、実現する事例も増えてきているので、政治への関心の高まりとコロナ禍での政策の進みやすさを実感しています。
たしかにこの数カ月で、Twitterを中心に政治に対して声を上げることが盛んになっているように感じます。しかしそれぞれの意見がぶつかり合うことによって、より分断も深まっている状況ですが、インターネットのプラットフォームを運営するうえで分断を起こさないためにはどうしたらいいのでしょうか。
僕もそれは大きな課題だと思っています。確かにSNSで声を上げることで政治が変わることもありますし、理念としても正しいと思います。それこそが、みんなが国作りに参加してる状況ですよね。でも感情論とかで政治が動いてしまう危うさも同時に感じますし、そのことによって分断も起こってしまっている。
そういうことも加味して、PoliPoliでは「政策を応援する」ことをメインにおいてプラットフォームを運営しています。賛成か反対かを議論するのではなくて、出された政策に対して支持をして、政策を改良していくことを目的に置いているんです。イメージとしては、クラウドファンディングで応援したいプロジェクトにお金を出したり、メッセージを送ったりすることに近い感覚だと思います。
もし、ある政策を応援できないんだったら、反対している投稿を応援できるようにもなっています。批判をするというより、政治家をユーザーたちが応援して、政策を共創していくことを意識してプラットフォームを作りました。
もちろん批判は大事だと思うんですよ。ただ、批判をするためのコミュニティは飽和していて、もう作る必要がないように感じます。だからこそPoliPoliは応援して政治を動かすプラットフォームを目指しています。要は批判も応援もコミュニケーションの方法が違うだけで、目指す場所は一緒なんです。とくに僕と近い世代の人たちは、批判よりも応援に興味があるように感じているので10代・20代のユーザーが共感してもらいやすい印象があります。
プロフィール
起業家。1998年生まれ。慶應義塾大学商学部在学中。18歳で俳句アプリ『俳句てふてふ』を開発したのち、毎日新聞社に売却。2018年2月に株式会社Poli Poliを起業。同社が開発した「Poli Poli」は、ユーザーが直接政治家に政策提言や、政策評価を行えるプラットフォームとして注目されている。