宇都宮直子 スケートを語る 第13回

髙橋大輔のダンス

宇都宮直子
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 世界が新型コロナウイルスの第二波に見舞われている。

 人々は、もどかしさを深く抱える。足踏みを強いられるのは、いつまでか。どれほど待つのか。先はまだ見えない。

 フィギュアスケートのシーズンも始まりはしたが、昨年までとは大いに違っている。

 グランプリシリーズはカナダ、フランスが開催中止となり、アメリカ、中国、ロシアの大会にも、日本選手の出場はない。イベントカレンダーには、「派遣なし」がずらりと並んでいる。

 こうした状況下、NHK杯が大阪府門真市で開催される。11月27日から29日までだ。男女シングルには、フレッシュな選手が多く揃う。

 その布陣は、新型コロナウイルスがもたらしたひとつの形である。若い世代が、上を目指して競う試合に期待したい。

 選手の「精一杯」は、観る人の心を温める。温かさは、辛抱の時代にちょうどいい。前を向くための優しい薬だ。

 優しさは、もっと見つかるだろう。この大会には、「三原舞依」が出場する。

 久しぶりのグランプリシリーズだ。三原は昨シーズンを休養(体調不良のため)に充てていた。リンクに戻って来てくれて、とても嬉しい。

 過去、彼女は「シンデレラ」をテーマに美しく踊った。周知の通り、「シンデレラ」のフィナーレには、十全の幸せが用意されている。

 三原に多くの喜びが訪れるよう、願ってやまない。これからだ。

 

 さて、スターの話をする。髙橋大輔の話だ。たぶん、長くなる。三回くらい続けるかもしれない。

 髙橋は、スケート人生をまた新しく始めようとしている。しかも、今度は、男子シングルではない。

 彼はダンスを踊る。村元哉中と組んで、アイスダンスに挑戦するのである。そのデビューがNHK杯だ。

 フィギュアスケートでは、シングルからペア、ダンスに変わるのは非常に難しいとされている。成人してからは、とくにそうだ。

 ただ、アイスダンスがあまり盛んではない国では、シングルから入り、その後ペア、カップルになるケースも少なくない。

「日本も、そんな感じだと思います」

 と話すのは、元アイスダンスの全日本チャンピオンで、現在はコーチを務める都築奈加子である。都築は、アイスダンスのテクニカルスペシャリストの資格を有している。

「私のように、最初からアイスダンスを目指す選手もいるにはいます。

 それでも、やっぱりシングルからの変更のほうが多いと思います。日本ではアイスダンスはメジャーではありませんから。

 髙橋選手は、男子シングルの頂点を極めた上で、まったく違う分野へ挑戦してきました。すごく面白い挑戦になるのではないでしょうか。

 彼はそこにいるだけで、存在感のある選手です。アイスダンスの魅力を伝えてもらえるのを嬉しいと思います。

 まずは、村元選手と一緒にアイスダンスを楽しんでもらいたい。村元さんも、能力のある美しい選手ですし、ふたりの演技を楽しみにしています」

 髙橋、村元組を語る都築は、嬉しそうだ。彼女は、日本のアイスダンスのパイオニアである。競技への注目を歓迎しないわけがない。

 私は訊ねる。34歳という年齢での挑戦をどう捉えていますか? 

 髙橋は、日本のスケート史を描き変え続けている。アイスダンスという舞台で、どう輝くのだろう。

 都築は取材の時点で、まだ髙橋、村元組の演技を目にしていなかった。「(連盟から)そろそろ映像が送ってくるはずですが」と断って、続ける。

「年齢的な壁はあると思いますが、それは選手によって変わります。個々の持つ能力や体力は違うので、それをどう広げていくかということかと……。

 そのあたりは、先生(コーチ)の手腕が問われますね。先生次第だと思います。

 挑戦については、もちろん簡単ではないでしょう。ぜんぜん違う競技なので難しいと思います。

 アイスダンスは、ふたりの時間を重ねて重ねて、ひとつのものを作りあげていきます。彼らが、短い期間でどれだけのものを作り、一緒になっているのか。まだ見ていないので、私にはわかりません」

 イタリアのアイスダンスの選手が、過去、こんなふうに言っている。「大人になってからのアイスダンス変更は、どれだけ相手を許せるかだ」。

 都築は話す。

「そうですね。とくに男性は女性をきれいに見せるということを要求されますので、責任が増します。

 互いが合わせることで、ふたりの『世界』が生まれる。でも、そのためには、技術的に滑れていないといけない。

『世界』を生むには、男性のしっかりしたリードが必要になります。そして、女性はそのリードにきちんと従っていく。

 そういう動作がないと、ひとつの形にはなりません」

 髙橋がどれだけリードできるか。村元がどれだけ従えるか。互いがどれだけ許し合っているか。NHK杯の見所のひとつだ。楽しみでならない。

 

 髙橋大輔はとても謙虚で、自らを否定するのを得意としている。言葉に裏はなく、本心から自分を「不器用」と言う。

 仮に、彼が不器用であったとしても、少しもかまわないと私は思う。氷上の彼は輝いている。それが、すべてだ。

 

 

 

 

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宇都宮直子 スケートを語る

ノンフィクション作家、エッセイストの宇都宮直子が、フィギュアスケートにまつわる様々な問題を取材する。

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プロフィール

宇都宮直子

ノンフィクション作家、エッセイスト。医療、人物、教育、スポーツ、ペットと人間の関わりなど、幅広いジャンルで活動。フィギュアスケートの取材・執筆は20年以上におよび、スポーツ誌、文芸誌などでルポルタージュ、エッセイを発表している。著書に『人間らしい死を迎えるために』『ペットと日本人』『別れの何が悲しいのですかと、三國連太郎は言った』『羽生結弦が生まれるまで 日本男子フィギュアスケート挑戦の歴史』『スケートは人生だ!』ほか多数。2020年1月に『羽生結弦を生んだ男 都築章一郎の道程』を、また4月には『三國連太郎、彷徨う魂へ』が刊行されている。

 

 
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