連載:座間9人殺害事件裁判 第1回

座間9人殺害事件裁判「野菜ジュースの男」

共同通信社会部取材班
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 日本犯罪史上まれに見る猟奇的な大量殺人「座間事件」。白石隆浩被告が死刑判決を受けるまで、計24回の公判をすべて記録した記者たちによる詳細なレポート。

 

 「あの子はここです」。男はそう言って、玄関にあるクーラーボックスを指さした。警察官がふたを開けると、中から人間の頭部が次々と――。日本を震撼させた猟奇的な大量殺人事件が発覚した瞬間だった。

 2017年、神奈川県座間市のアパートの一室から、8人の女性と1人の男性が切断された遺体で発見された、いわゆる「座間事件」。犯人は住人の白石隆浩(被告)という当時27歳の男だった。逮捕され、警察の取り調べには素直に応じ、9人の殺害をあっさり認めた。

2017年11月、東京地検立川支部に入る白石隆浩被告。写真提供 共同通信社/ユニフォトプレス

 語った動機は、誤解を恐れずにごく簡単に言うと「カネと女」だ。ツイッターに「死にたい」などと自殺願望をつぶやいた女性を次々に自室に誘い出し、カネを持っていると判断すれば食事代などを支払わせ、持っていなければ(持っていた女性でも)性的暴行を加え、殺害し、遺体を解体して生ゴミに出すなどしていた。有り金も奪った。頭部が残っていたのは、簡単に処分できなかったからだ。

 猟奇性を帯びたセンセーショナルなこの種の事件は、日本では珍しい。そのせいか、発覚直後からテレビや新聞、雑誌といったメディアやインターネット上では大騒ぎとなり、報道を含めて大量の情報があふれた。私たちが所属する共同通信も事件報道を続けたが、最後までふに落ちなかったのは、動機の短絡さと結果のひどさとの間に横たわる「落差」だ。「飛躍」と言い換えてもいいかもしれない。「カネと女」というありふれた目的で、9人もの人間の首を絞めて殺害し、さらに遺体の解体までする人間がいるだろうか? 人の命を次々に奪う恐ろしさや重大さをとりあえず脇に置いたとしても、遺体の解体や処分に要する多大な労力を使ってまですることだろうか?

 ふに落ちない点は他にもある。この事件の前まで、白石被告に凶悪な犯罪者の面影はなかった。子ども時代の友人、知人に話を聞いても、小中学校時代の被告は目立たず、大人しくて普通、あるいは印象に残らない少年との評だった。その後も暴力的な兆候はまったく表面化していなかったにもかかわらず、いきなり9人もの人間を殺害した。あまりに唐突な豹変に見える。

 9人がなぜ見ず知らずの白石被告の部屋に引き入れられたのかという点もふに落ちない。被告が被害者を次々に部屋に誘い込めなければ、約2カ月という短期間に9人もの大量殺人事件は実現しなかった。被害者はほぼ若い女性で、多くが被告と初対面だった。白石被告は一体、どんな手口で警戒心を取り去ったのか。

 逮捕後に起訴され、容疑者から被告となり、座間事件の報道は次第に消えていったが、私たちの心にはいくつもの疑問が残った。真相を知るため、拘置所で裁判を待つ白石被告への接見取材を申し込んだ。

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プロフィール

共同通信社会部取材班

※この連載は、2020年9~12月の座間事件公判を取材した共同通信社会部の記者らによる記録です。新聞を始め、テレビ、ラジオなどに記事を配信している共同通信は、事件に関連する地域の各地方紙の要請に応えるべく、他のメディアと比較しても多くの記者の手で詳細に報道してきました。記者は多い時で7人、通常は3人が交代で記録し、その都度記事化してニュース配信をしました。配信記事には裁判で判明した重要なエッセンスを盛り込みましたが、紙面には限りがあります。記者がとり続けた膨大で詳細な記録をここに残すことで、この事件についてより考えていただければと思い、今回の連載を思い立ちました。担当するのは社会部記者の武知司、鈴木拓野、平林未彩、デスクの斉藤友彦です。

 
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