初公判開廷
面会から3カ月後の9月30日、JR立川駅から多摩都市モノレールで1駅、さらに歩いて数分の場所にある東京地裁立川支部で、白石被告の初公判は始まった。
1階にある101号法廷の傍聴席には各報道機関の記者と抽選で当たった一般の傍聴人、計38人が座った。この法廷は立川支部で最も広く、本来なら傍聴席は98席あるが、新型コロナウイルス感染対策のため、間隔を空けて座ることになり、さらに傍聴席の3分の1程度を遺族の席としてパーティションで区切られたため、傍聴席は38人で満席となった。
最前列に座った記者のすぐ目の前、法廷の向かって左側の弁護人席の片隅に、被告は座っていた。面会時と同じ黄緑色の拘置所の服を着ている。黒い眼鏡に白いマスク姿で、外から表情を読み取るのは難しいが、猫背で面会時よりさらに伸びたぼさぼさの髪、気だるげに椅子にもたれる様子を見た記者は「なんか、だらしないな」という印象を持った。
初公判では普通、裁判員に良い印象を持ってもらうため、スーツ姿になり、こざっぱりした格好になる被告が多いが、白石被告はそうしたことにはまったく無頓着らしい。
座間事件の捜査に関わっていたある捜査関係者の言葉を思い出した。「白石は生への執着がない、すべてがめんどくさい」。目の前の男は、まさにこの言葉どおりの感じだ。
裁判長に促された検察官が、白石被告が犯した罪を簡潔にまとめた起訴状を読み上げ始める。罪とは、9人を殺害し、うち8人の女性には性的暴行も加え、それぞれの遺体を解体して遺棄したこと。遺族の強い希望もあり、検察官は被害者の名前は読み上げず、代わりに「Aさん」「Bさん」と順番に振ったアルファベットで呼んだ。
起訴状を読み終わったタイミングで、裁判長が被告に起訴状の内容に間違いがあるかを尋ねる。
白石被告は「えー、起訴状の通り、間違いありません」と答えた。声は張り上げるような感じではなく、かといって小さくもない。感情のこもっていないような、抑揚のない声だった。
裁判長が「18個の起訴事実があるが、いずれも間違いないか」と再度尋ねると、被告は「はい、いずれについても間違っていません」と淡々と答え、席に着いた。
ここからいよいよ、本格的に審理が始まる。
(つづく)
※この連載は、2020年9~12月の座間事件公判を取材した共同通信社会部の記者らによる記録です。新聞を始め、テレビ、ラジオなどに記事を配信している共同通信は、事件に関連する地域の各地方紙の要請に応えるべく、他のメディアと比較しても多くの記者の手で詳細に報道してきました。記者は多い時で7人、通常は3人が交代で記録し、その都度記事化してニュース配信をしました。配信記事には裁判で判明した重要なエッセンスを盛り込みましたが、紙面には限りがあります。記者がとり続けた膨大で詳細な記録をここに残すことで、この事件についてより考えていただければと思い、今回の連載を思い立ちました。担当するのは社会部記者の武知司、鈴木拓野、平林未彩、デスクの斉藤友彦です。
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※この連載は、2020年9~12月の座間事件公判を取材した共同通信社会部の記者らによる記録です。新聞を始め、テレビ、ラジオなどに記事を配信している共同通信は、事件に関連する地域の各地方紙の要請に応えるべく、他のメディアと比較しても多くの記者の手で詳細に報道してきました。記者は多い時で7人、通常は3人が交代で記録し、その都度記事化してニュース配信をしました。配信記事には裁判で判明した重要なエッセンスを盛り込みましたが、紙面には限りがあります。記者がとり続けた膨大で詳細な記録をここに残すことで、この事件についてより考えていただければと思い、今回の連載を思い立ちました。担当するのは社会部記者の武知司、鈴木拓野、平林未彩、デスクの斉藤友彦です。