北海道（１）夕張

ハードが消えて、ソフトが残る

「限界集落」ならぬ「限界都市」の様相をたたえる夕張には、日本の地方が抱える問題が凝縮されています。これは日本に限ったことではなく、世界の過疎地に共通する現実です。

　大変残念で悲しいことですが、都市やまち、地域、そしてそこに暮らす人々は、時に歴史の波の被害者になることがあります。炭鉱で栄えたまちは、イギリスでもアメリカでも、夕張と同じ運命をたどっていて、歴史の歯車が一度回り始めると、元の栄華に戻ることはありません。その時にムリをして栄華の象徴のような“観光の館”を建設してもどうにもならず、むしろそれにかかったお金が、住人にとって後々の大きな負担になっていきます。

　救急医療の世界に「トリアージ」という言葉があります。事故や災害などの非常事態で一人でも多くの人命を救うために、救命可能な人と、そうでない人を分けて、救命可能な人に手当を施していく方策です。残酷な言葉ではありますが、衰退したまちや地域にもトリアージの概念をあてはめることは可能で、これからの過疎地の再建は、救えるまちと、手遅れのまちを区分けして、救えるまちに資源を集約させていくことが必要です。

　夕張がかつての栄華を取り戻すことは、難しいことではありますが、その中で一筋の希望が持てる話として、「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭」と、「夕張メロン」という農産物ブランドがあります。

　1990年に始まった「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭」は、財政破綻後の2008年から民間団体が再スタートに取り組み、現在まで市民の力で頑張って開催しています。23年にはコロナ後、４年ぶりにリアルな映画祭が開かれ、映画ファンとともに内外で活躍中の映画監督や出演者がこの地に集まりました。

　参加者は近隣の宿泊施設をはじめ、映画祭の会場である「合宿の宿ひまわり」に泊まることができ、隣接するグラウンドには、テントを張ったキャンプサイトも用意されています。屋台も出店してお祭り感のあるイベントには、手作りの温かさが感じられ、根強いファンは多いと思われます。資金調達などの困難はこの先も続くことと思いますが、夕張の町に貼られたポスターにはレトロな魅力があり、道か国が積極的な支援を行って内容をブラッシュアップしていけば、北海道の一大文化イベントになりうるとも思います。

　もう一つの夕張メロンは、鈴木元市長の進めたブランディング戦略によって、以前よりも知名度があがり、高級な農産物ブランドになりました。夕張の町の周囲にはメロンを育てるビニールハウスが整然と並ぶメロン畑が広がっていました。そのような農地は、人がいなくても寂しい雰囲気にはなりません。人通りのない町の中で唯一、夕張メロンの販売所だけは明るい色の旗が立ち、エプロンをかけた女性たちが「メロン、いかがですか～」と声を上げていて、そこだけが現世スポットでした。

　ただ、夕張メロンという特産品があっても人口減少の影響は深刻で、メロンを生産する農家戸数、生産量は1990年の半分以下に減っています。メロンは売れても、農家の跡継ぎが見つかりません。

　夕張の中の資源をトリアージする場合は、映画祭と農業の二つが資源集中の対象になると私は考えます。「炭鉱から観光へ」のスローガン自体は正しいものでしたが、その時点でハコ物建設というハードよりも、ソフトが何より大事だったことを気付けなかったことが悔やまれます。

　夕張の厳しい現実は、日本の地方の存続を考える際の先駆例であり、その意味でもここは「聖地」といえるかもしれません。日本で地域再生を目指す人たちは、行政も民間も個人もみな、夕張に巡礼してから、勉強を始めたらいいと思います。私も今回の再々訪で、歴史の波とまちの関係を、複雑な感情とともに学び直しました。

（つづく）

構成・清野由美　撮影・大島淳之

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