【短期連載】ある音楽家の "ステイホーム" 第6回

ステイホーム ~外の世界~

「弾き籠る」生活の日常と非日常に思いを馳せる

黒田映李
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新型コロナウイルスが猛威を振るうなか、その最初期から影響を被った職業のひとつが、芸術を生業とする人たちであった。音楽、絵画、演劇……。あらゆる創作活動は極めて個人的な営みである一方で、大衆の歓心を獲得することができぬ限りは生活の糧として成立し得ない。そんな根源的とも言える「矛盾」が今、コロナ禍によって白日の下に晒されている。

地域密着を旨とし、独自の音楽活動を続けてきたあるピアニストもまた、この「非日常」と向き合っている。実践の日々を綴った短期連載。

 

「3、目に見えるリスクマーク “ウィーン”」

 

 〇買い物かごの掟 → お互いの距離をかご(カート)の長さ分だけ保つこと

 〇マスクをすること

 〇カード払いにすること

 〇調子の悪い人は入店しないこと

 〇迅速に買い物をすること

 〇距離を保つための場ミリシールに気をつけること

 

 スーパーの入り口には、分かりやすいイラスト付きの注意書き看板と、消毒液が置かれている。

 レジの前には木枠付きのアクリル板のシールドが即席で建てられていて、飛沫が飛び交わないように処置がなされている。

 ヨーロッパでは、テロ犯と間違えられることと、医療従事者がつけるものこそマスクだという認識があった為、街ゆく人がマスクをするという光景はこれまでなかった。高すぎる鼻はマスクからはみ出てしまうし、トラム(路面電車)でくしゃみのとまらないおじいさんに「マスクをして下さい」と言うことには、躊躇いが生じてしまう。「マスクをつける」という新しい習慣は、その土地の人々にとって不慣れなものであるようだ。

 スーパーなどの小売店では、初めの頃は、入店時にお店からマスクを貰うことができた。今は少し変化して、3ユーロほどで、パッケージされた3枚の紙製のものを購入できるシステムが敷かれている。日本と同じように布で自作する派も多く、また、新しくマスク専門店ができて、人々が購入できる順番を待って並んでいる光景もあるという。

 

 日本人である友人は、ハンカチマスクの時は、口元とマスクの間にキッチンペーパーを挟んで装着し、帰ってきたらゴムを持って外し、キッチンペーパーは捨てて、即、マスクの洗濯をしている。

 

 しかし、その認識をオーストリアの人々に同じように望むことは、以下の慣習からも恐らく簡単ではない。ヨーロッパで売られているティッシュは厚手で頑丈だが、それは一度鼻をかんだら捨てるものではない。使った部分を内側に折り込みポッケにいれて、二度も三度も繰り返し使う。それがティッシュなのである。

 

 

 

「街中の防御策に政府からの情報と、諸々、目に見える制限をかけた物、策を投じている点。そこから、”ウイルスはそこにいる、警戒を怠るな”という意識を住民に特別促しているように、オーストリアという国では感じることができる」

 

 そう語る友人は、ウィーンのとある大学に籍をおき、今もずっとウィーンに暮らしている。

 彼女自身もまた、外国にて、“ステイホーム”の日々を過ごしている。

 未知のウイルスに戸惑っているのは日本もオーストリアも諸外国も同じで、ただ、取り組み方や受け入れ方が少しずつ、ある部分では大きく異なっている。

 

 私は6月初旬に渡欧予定でいたが、この状況下、コンサートも、渡欧すること自体もキャンセルすることとなってしまった。

 

 続く章に、友人が語ってくれたウィーンの今、ここ数カ月の変化を、記録したいと思う。

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新型コロナウイルスが猛威を振るうなか、その最初期から影響を被った職業のひとつが、芸術を生業とする人たちであった。音楽、絵画、演劇……。あらゆる創作活動は極めて個人的な営みである一方で、大衆の関心を獲得することができぬ限りは生活の糧として成立し得ない。そんな根源的とも言える「矛盾」が今、コロナ禍によって白日の下に晒されている。地域密着を旨とし、独自の音楽活動を続けてきたあるピアニストもまた、この「非日常」と向き合っている。実践の日々を綴った短期連載。

プロフィール

黒田映李

愛媛県、松山市に生まれる。

愛媛県立松山東高等学校、桐朋学園大学音楽学部演奏学科ピアノ科を卒業後、渡独。ヴォルフガング・マンツ教授の下、2006年・ニュルンベルク音楽大学を首席で卒業、続いてマイスターディプロムを取得する。その後オーストリアへ渡り更なる研鑽を積み、2014年帰国。

現在は関東を拠点に、ソロの他、NHK交響楽団、読売交響楽団メンバーとの室内楽、ピアニスト・高雄有希氏とのピアノデュオ等、国内外で演奏活動を行っている。

2018年、東京文化会館にてソロリサイタルを開催。2019年よりサロンコンサートシリーズを始め、いずれも好評を博す。

故郷のまちづくり・教育に音楽で携わる活動を継続的に行っている。

日本最古の温泉がある「道後」では、一遍上人生誕地・宝厳寺にて「再建チャリティーコンサート」、「落慶記念コンサート」、子規記念博物館にて「正岡子規・夏目漱石・柳原極堂・生誕150周年」、「明治維新から150年」等、各テーマを元に、地域の方々と作り上げる企画・公演を重ねている。 

2019年秋より、愛媛・伊予観光大使。また、愛媛新聞・コラム「四季録」、土曜日の執筆を半年間担当する。

これまでにピアノを上田和子、大空佳穂里、川島伸達、山本光世、ヴォルフガング・マンツ、ゴットフリード・へメッツベルガー、クリストファー・ヒンターフ―バ―、ミラーナ・チェルニャフスカ各氏に師事。室内楽を山口裕之、藤井一興、マリアレナ・フェルナンデス、テレーザ・レオポルト各氏、歌曲伴奏をシュテファン・マティアス・ラ―デマン氏に師事。

2009-2010ロータリー国際親善奨学生、よんでん海外留学奨学生。

ホームページ http://erikuroda.com

 

 

 
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