ガザの声を聴け! 第37回

なぜフェンスを目指すのか

清田明宏
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アマルさんの知人たちにも会った。

 

一人はアラさんという32歳の男性。職業は映画製作者。もう一人はドーアさんで36歳の女性。新聞記者だ。

 

二人とも今まで全てのデモに参加したのだそうだ。アラさんはデモの様子をビデオに撮っており、仕事半分の参加だ。ドーアさんの仕事は新聞記者だが、今回は仕事とは全く関係ない参加だ。二人ともパレスチナ難民だ。

 

二人にも“八方塞がりの絶望”を感じるか、聞いてみた。

 

ドーアさんはこう言う。

 

「誰でも自分が生まれ育った場所に帰る権利がある。我々の場合、ナクバ(大惨事)から70年もたっている。あまりに長い。もう我々が元いた場所に帰るときだ。デモに参加した人はそのような志を持っている人が多い」

 

ナクバとはアラビア語で大惨事の意味だ。1948年の第一次中東戦争で当事のパレスチナの地を80万人を越えるパレスチナ人が逃れ、故郷を失った大惨事のことをさす。パレスチナ難民の苦悩が始まったときだ。

 

アラさんが続ける。

 

「国境沿いの緊急医療室で負傷した人にインタビューをした。重傷の人は病院に運ばれていったが、軽い怪我の人はそこで治療され、医師から『もう大丈夫だから家に帰りなさい』と言われていた。ただそう言われたほとんどの人は、『国境以外に私が行くところはない』と言ってデモに戻っていった」

 

 

私が「家族はいるの?」と聞くと、ドーアさんは「10歳と8歳の男の子が二人いると、笑顔で答えた。でも夫はヨルダン川西岸のラマラにいるそうだ。「なぜ?」と聞くと、二人はカイロの大学で勉強しているときに出会い、その後結婚。当初一緒にガザに住んでいたが、いろいろな事情で主人は2年前からラマラにいる、とのことだ。

 

デモに参加するとき子供たちはどうしていたのか、聞いてみた。

 

「子供たちと話し合った。二人とも泣いていた。『行かないで』と言っていた。でも彼らに、『私はこれ(デモに参加)をしなければならない。あなたたちの為に私はやらないといけない』と話した。最後まで泣いていたが、子供たちを預けて、私はデモに参加した」

 

アラさんが続ける。

 

「我々は人生を探しに国境に行ったのだ。デモに参加したのだ。死にに行ったのではない」

 

「我々の生活は封鎖で完全にコントロールされている。空も海も。ガザの外に出ることができない。自殺という解決法もあるかもしれない。そうしている人もいる。でも私はそれはしない。国境に行き、新たな人生を見つけたい」

 

探していた人生は国境にあったのか、と聞いてみた。

 

「まだ探している」とアラさんは言う。「エジプトとの国境にあるラファの検問所が開いた。それがひとつの答えだったかもしれない」と言って笑った。

 

エジプト政府は今年のラマダン月(5月17日から1か月)はガザとの国境のラファの検問所を開くとアナウンスしたのだ。この検問所を通ってどれだけの人がエジプトに行くかはわからない。今回のデモとラファの検問所が開いたこととの関連は全くわからない。しかし、良いニュースであったことは確かだ。

 

このあと二人といろいろな話をした。ガザの生活のこと、二人の家庭のこと。アラさんは8歳、6歳、2歳の女の子3人の父だ。写真を見せてもらったが、3人ともとてもかわいい。最後に皆で写真を撮り、お礼を言って握手した。

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ガザの声を聴け!

1961年福岡県生まれ。国際連合パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA=ウンルワ)の保健局長で医師。高知医科大学(現・高知大学医学部)卒業。世界保健機関(WHO)で約15年間、中東など22カ国の結核やエイズ対策に携わった。2010年から現職。中東の結核対策では、患者の服薬を直接確認する療法「DOTS」を導入し、高い治癒率を達成。その功績が認められ、第18回秩父宮妃記念結核予防国際協力功労賞を受賞した。

プロフィール

清田明宏
1961年福岡県生まれ。国際連合パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA=ウンルワ)の保健局長で医師。高知医科大学(現・高知大学医学部)卒業。世界保健機関(WHO)で約15年間、中東など22カ国の結核やエイズ対策に携わった。2010年から現職。中東の結核対策では、患者の服薬を直接確認する療法「DOTS」を導入し、高い治癒率を達成。その功績が認められ、第18回秩父宮妃記念結核予防国際協力功労賞を受賞した。
 
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