ガザの声を聴け! 第41回

2015年5月「どうしていいかわからない」

清田明宏
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生活習慣病等が26%と多いのは意外に思われるかもしれない。ただこれは生活習慣病がもともとパレスチナ難民(そしてシリア人)の間で多いことに起因する。それと共に、長期間の紛争で必要な医療サービスを受けたり薬剤を入手したりできず、きちんとした食事もとれないため、慢性疾患が悪化する場合も少なくない。

 

当日もインシュリンによる治療が必要な糖尿病の患者がいたが、過去6ヶ月インシュリンを入手できず、足の感染症が悪化していた。足趾の一部が壊死を起こしており、足趾の切断を含め早急の処置を取る必要がある。その旨を伝えると、医師に診てもらい、ようやくインシュリンが手に入ったホッとした顔と、今後の処置を考えとても悲しそうな顔が交互に現れた。

 

医師に診てもらうのが久しぶり、という患者が多く、質問が多く出る。医師はそれに一つ一つ丁寧に答えながら、診療を進めていく。薬剤師も医師の指示に従い次から次に薬を渡して行く。休む暇は全くない。私が現地にいたのは実質3時間ぐらいだったが、医師は200人ぐらいの患者さんを診ていた。

 

私も栄養失調の子供達を診た。母親によると2ヶ月の乳児だそうだ。ともかく非常に細い。本来なら乳児の顔はふくよかなはずだ。子供は大人と違って体内の水分が多く、文字通り瑞々しいはずだ。それが全くない。顔は痩せて細い。泣き声もか弱い。母親はとても心配そうだ。話を聞くと少し微笑んでくれたが、その顔は暗い。とても暗い。

 

次の写真の子供は11ヶ月だ。非常に小さく、腕がとても細い。明らかな栄養失調だ。医師が心配し母親と子供に話しかける。看護師もとても心配し、通常は一人1袋渡す高栄養のビスケットを2袋渡し、そのあとでさらに追加を渡していた。もっと持って行きなさい、と母親に押し付けるように強く渡す。本来ならば、そのようなことをすると必要な人すべてに高栄養ビスケットが行き渡らない恐れがある。しかし、ひどい栄養失調の子供の前では、なんとかしてあげたいという思いが全てを圧倒する。

 

 

この子の母親に話を聞いた。彼女の夫は紛争で死亡し、彼女一人で子供3人を育てているそうだ。

いろいろ話を聞いていると、診療室の中で突然泣き崩れた。生活が本当に厳しい、毎日が大変だ、と涙ながらに話される。何度も「これからどうしていいかわからない」と言って、涙を流した。

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ガザの声を聴け!

1961年福岡県生まれ。国際連合パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA=ウンルワ)の保健局長で医師。高知医科大学(現・高知大学医学部)卒業。世界保健機関(WHO)で約15年間、中東など22カ国の結核やエイズ対策に携わった。2010年から現職。中東の結核対策では、患者の服薬を直接確認する療法「DOTS」を導入し、高い治癒率を達成。その功績が認められ、第18回秩父宮妃記念結核予防国際協力功労賞を受賞した。

プロフィール

清田明宏
1961年福岡県生まれ。国際連合パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA=ウンルワ)の保健局長で医師。高知医科大学(現・高知大学医学部)卒業。世界保健機関(WHO)で約15年間、中東など22カ国の結核やエイズ対策に携わった。2010年から現職。中東の結核対策では、患者の服薬を直接確認する療法「DOTS」を導入し、高い治癒率を達成。その功績が認められ、第18回秩父宮妃記念結核予防国際協力功労賞を受賞した。
 
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2015年5月「どうしていいかわからない」

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