ガザの声を聴け! 第29回

「誰にでもできる国際協力」

清田明宏
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 私は「誰にでもできる国際協力」は3段階あると考えている。

 まず、第1段階は「感じる」ことだ。

 人間が本当に感動するのは人間の心だけだと思っている。心を動かされる。揺さぶられる。それが大事だ。ガイダさんの話に感動する。祖母が亡くなったにもかかわらず頑張るラワンさんの話に心が動く。モハメドくんの「電気がついている」の話に心が揺さぶられる。相手の心を感じる。それが国際協力の第一歩だ。

 何を単純なことを、と思われるかもしれない。でも、この一歩が重要なのだ。

 第2段階は「考える」ことだ。

 なぜガイダさんが、生まれて初めて恐怖を感じることなく遊べる、と言ったのか。なぜ、モハメドくんの日本についての最初の感想が「電気がついている」だったのか。その奥にあるものは深い。それを考えることが大事だ。

 考えるためには、情報を「知る」必要がある。例えばガザであれば、ガザの地理的場所という単純な事実から始まり、その歴史的背景、そして現在の地政学的状況を知る必要がある。

 これは一見とても大変だ。ガザの場合、イスラエル、パレスチナ自治政府、ハマス政権、エジプト政府、米国等、様々な国や機関が絡む。専門家でさえ様々な見方をするのだ。わからないことも多い。

 でもそれで良いのである。我々はその道の専門家になるのではない。そこで何が起こっているか、情報を集めて想像することから始めれば良いのだ。基本的な知識はインターネットでも得られる。グーグルとユーチューブがあれば必要な知識は手に入る時代なのだ。

 例えば、グーグルで「ガザ」と「発電所」で検索すると3万5300件のヒットがあった(2017年9月2日)。もちろんネットの情報は玉石混淆だ。それでもガザに発電所が一つあること、2014年の戦争では攻撃を受けたこと、2017年の4月には発電所の燃料不足で停電が起こっていることがわかる。その気になって探せば、もっと詳しく知ることができる。

 ただ、「知る」ことと「考える」ことはまったく違う。

 パレスチナ自治政府、ガザのハマス政権、そしてイスラエルでは言い分が違う。どれが正しいか間違っているか、それも立場によって判断が異なる。誰にもわからない場合もある。それでも良いのだ。なぜその状況になっているか、それを考えることが大事なのだ。 深く知りたければ専門家に聞けば良いし、専門書を読めば良い。

 私が尊敬する中東の専門家が、最近次のようなことを言っていた。「今の中東の状況は非常に複雑で、利権・思惑、そして私欲が渦巻き、予測が非常に難しい。今後中東がこうなる、と明言する人が今いれば、それは確実に間違いだ。その人は嘘つきといっても良い。大事なことは状況を知り、正しい質問が何かを考え、正しい質問をすることだ」と。

 どうなっているのだろうか、なぜそうなっているのだろうか。現地の方の思いを感じながら考える。それが本格的な国際協力の始まりだ。

 誰にでもできる国際協力の第3段階は「道を広げる」ことだ。

 相手の心を感じ、相手の場所とその状況を知り、そして、なぜそうなっているかを考える。こうやっていくと、次に多くの選択肢が見えてくる。

 例えば、現地で活動している多くの団体・機関のことがわかってくる。それはNGOであったり、国連機関であったり、会社であったり、個人であったりする。団体・機関がどのような活動をしているか、なぜそれをしているか、もし、あなたの心に響く団体・機関があればそれをさらに調べれば良い。日本に事務所があれば訪ねても良い。もしその団体がSNSをやっていれば、それにアクセスしても良いだろう。別に現地に行かなくて良い。自分で組織を作る必要もないのだ。

 団体を支援する方法は、資金(寄付)だけではない。話を聞くだけでも良いのだ。彼らの心を感じることが国際協力なのだから。彼らに質問するだけでも良い。考えることも国際協力だ。そして彼らの話が心に響けば、それを知り合いに広げることも良い。同じ心を持つ人が広がることは最高の国際協力だ。可能性は、それこそ無限大にある。

 国際協力は問題山積みだ。答えがいつもあるわけではない。
しかし、すべては「共感」から始まる。

 では、実際に自分で活動をしたい方の場合はどうであろうか。誰にでもできる国際協力の専門家版を少し補足したい。

「誰にでもできる国際協力」専門家版

 国際協力の対象分野は様々だ。私の仕事もそれに含まれるのだろう。私の場合は国際保健という医療・公衆衛生の分野だが、その中でも保健政策の作成から末端での医療サービスの提供にまでおよぶ。

 では、実際に仕事として何ができるだろうか。国際協力をしたいという希望者からこの質問をよく受けるのだが、質問した方の職種、年齢、経験で私の答えは変わる。

 質問してくださった方に必ずお聞きするのは、「何に一番興味があるか」だ。何をする時が一番楽しいか、やる気が出るか尋ねる。それを知るのが大事だ。そして、それを元に、次に5年後にはどうなっていたいかを尋ねる。どこで、どのような仕事をしているイメージが湧くかを質問する。そして、今後5年間でどうやってそこに到達するかを一緒に考える。10年後でも良いのだが、少し遠すぎて考えづらい。5カ年計画作成がちょうど良いことが多い。

 若い方で、「国際的な協力をしたいが、具体的には何をやりたいか、まだわからない」という方も多い。大丈夫だ。問題ない。焦る必要はない。人生、今80年を超えている。20代はその3分の一にも達していない。折り返し地点は40歳だ。自分のやりたいことを見つけ、進めていく。人生、何度でもやりなおせる。それで良いのだ。

 履歴書のこともよく聞かれる。もちろんきちんと書くこと、応募した仕事の内容によって毎回書き換えることは大事だ。ただ雇う方は、その人がどういう人か、という事を最後には見る。華やかな履歴書で判断することはない。

 国連機関に興味を持たれる方は多い。「国連機関に入りたいのだが、どうしたら良いか」と聞かれることがある。でも、その際、毎回こう申し上げる。「この質問は間違っている、それも非常に」と。

 そう聞かれたら、私は「なぜ国連に入りたいのですか?」と聞き返すようにしている。言ってしまえば、国連機関もお役所だ。それも非常に巨大で、硬直し、必ずしも世の役に立っていないこともある。もちろん国連機関の中にも素晴らしい方は多くいるが、一般的な組織同様、国連にだって問題はある。決して理想郷ではない。

 国連に入りたいと思う時の正しい質問は「私はこういう仕事をしたい。それをするために国連に入りたいが、どうしたら良いか」だ。この仕事をしたい、が大前提で、そのために、国連に入りたい。そうであれば国連は面白い。役所は、その仕組みがわかれば大きな仕事ができ、世の中を動かすことが可能だ。

 誰にでもできる国際協力の専門編を最後に書いてみた。一番大事なことは変わらない。自分が何をしたいか、だ。そしてそれができる能力・知力があるか、だ。

 誤解を恐れずに言えば、私は自分のために仕事をしている。自分が満足するために仕事をしている。それは、他人がどうなるか気にせず仕事をする、ということではない。私の手がける分野はとくに弱者への支援が基本となる。

 相手の状況を十分考え、どういった支援をすれば一番良いかを考える。そして実施できる方法を探す。それが仕事だ。その仕事がうまくいけば、私は満足する。私が満足するということは、理論的に言えば、相手への支援もうまくいっている、ということだ。

 もちろん、国際協力をめぐる状況はそんなに単純ではない。魑魅魍魎が跋扈する複雑な世界だ。次回は、ガザを巡り、様々な複雑な状況から私が学んだ、最も大事なこと「平和」について書こう。

 

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1961年福岡県生まれ。国際連合パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA=ウンルワ)の保健局長で医師。高知医科大学(現・高知大学医学部)卒業。世界保健機関(WHO)で約15年間、中東など22カ国の結核やエイズ対策に携わった。2010年から現職。中東の結核対策では、患者の服薬を直接確認する療法「DOTS」を導入し、高い治癒率を達成。その功績が認められ、第18回秩父宮妃記念結核予防国際協力功労賞を受賞した。

プロフィール

清田明宏
1961年福岡県生まれ。国際連合パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA=ウンルワ)の保健局長で医師。高知医科大学(現・高知大学医学部)卒業。世界保健機関(WHO)で約15年間、中東など22カ国の結核やエイズ対策に携わった。2010年から現職。中東の結核対策では、患者の服薬を直接確認する療法「DOTS」を導入し、高い治癒率を達成。その功績が認められ、第18回秩父宮妃記念結核予防国際協力功労賞を受賞した。
 
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