高額療養費制度〈見直し〉案凍結から4ヶ月。いよいよ解凍に着手した政府の動きと、専門委員の妄言を検証する

「秋まで」と時限を切る政府側に超党派議連は対抗できるか!?
この2点の「論点整理」は、一読するかぎりでは内容が漠然として具体性が欠けているようにも見えるが、要するに、5月に設立された専門委員会で制度利用当事者や医療現場等の声をしっかりと聞いて意見を尊重し、現行制度の利用実態や制度変更の影響に関してはデータを用いて客観的な検証をしてほしい、と申し入れる内容だと要約できるだろう。
ただ、気になるのは、「2025年秋までに方針を検討し、決定する」という姿勢を頑として崩さない政府に対して、「そのような短期間ではたして密度の濃い充分な議論をできるのか」と牽制する言葉が文章内に含まれていないところだ。
この点について、野党議員からは秋までという期限を除外するように求める文言を盛り込むべしという主張があった一方で、与党側議員からはそこまで踏み込んだ内容にすることをよしとしない意見もあり、その調整に苦慮した結果、ひとまず今回は期限に言及する文言を盛り込まなかった、ということが内幕のようだ。超党派議連は、党や会派の垣根を越えた共通の主張という大きな看板を掲げることができる一方で、その党や会派ごとに異なる立場や意見を調整して妥協点を見いだす難しさがこの「論点整理」ではからずも露呈した、ともいえるだろう。
超党派議連の中島克仁事務局長(立民)は、第1回の設立総会の際に「少なくとも1年くらいは時間をかけて議論するべきではないか」と発言していたので、上記「論点整理」の内容で、はたして政府側の主張する期限に対応して十分な議論を尽くせると考えているのか、と訊ねてみたところ、「秋までに何かを決定するのは難しいと思います」という言葉が返ってきた。
「要するに、今日、我々が論点整理した内容や衆議院厚生労働委員会の決議(※政府が新たに制度を見直すに際して長期療養患者の家計に与える影響の分析や専門委員会の当事者参加などを求め、全会一致で採択した4月16日の決議)をちゃんとやっていけば、これはもう『秋までに』というのは、実質難しいでしょう。逆に言えば、じゃあ1年かければ丁寧にやったことになるのかということにもなりますから、あくまでも(超党派議連の)理念とすれば、1年は据え置けという期限的なことではなく、我々が論点整理した内容をしっかりやれ、ということを重視しています」
秋までという政府側の期限を牽制する文言を記載しなかった理由を以上のように説明した中島事務局長は、「超党派でまとめた論点整理ですから、これは非常に重いものだと考えています。これがちゃんと果たされているかどうかを議連として厚労省に目配せし、釘を刺していくことを重視したい」とも述べた。また、「たとえば付加給付や多数回該当、外来特例など、いろんな論点がありますが、各党各会派で様々な考えかたがあるなかで横串を刺して共通項を見出した結果が今回(の論点整理)、ということなので、今、個別具体的なことを詰めるよりも、このような取りまとめにしておいて、専門委員会が議論の俎上に上げようとすることを我々がちゃんと打ち返していけるようにしたい、ということです」と、専門委員会の動きを注視しながら議連として反応できるようにしたい、と話した。
この超党派議連が今後どこまで機敏かつ的確に反応できるのか、また彼らが目指す今後の方針や政府側〈見直し〉案への対応策などについては、近日内に中島事務局長に単独インタビューを行い、そこでさらに明らかにしてゆきたい。
議連が論点を整理した要望書は6月25日に厚労省の大臣室で福岡資麿厚労相へ手交されたが、じつはその2日前の6月23日には、内閣府の全世代型社会保障構築会議(第21回)が開催され、そこで高額療養費制度の見直しについて議論が行われている。この全世代型社会保障構築会議は、昨年11月15日に行われた第19回で、会議に参加する複数の審議委員が、当初の議題になかった高額療養費制度の上限額引き上げについて自発的に口火を切って課題を指摘し、この論点が翌週の厚労省社会保障審議会医療保険部会へ引き継がれていった、という経緯がある。
このような行政間の巧みな連係プレーを考えたとき、この時期に開催された全世代型社会保障構築会議で高額療養費制度の見直しが議題のひとつに上がっているという事実は、やはり気になるところだ。この会議の議事録はまだ公開されていないため、現段階ではこのときに行われた議論の詳細はまだ判然としないが、内閣府ウェブサイトにアップロードされている参考資料を読む限りでは、とくに何か目新しい内容はなさそうにも見える。一方で、この会議に欠席した審議委員が書面で提出した意見書も参考資料として公開されているが、文意を把握しにくいこの資料を読む限りでは、現行の高額療養費制度とその基盤となる窓口3割負担という日本の保険制度を根本的に問い直す指摘が含まれているようにも理解できる。

話を6月25日の要望書手交に戻すと、福岡厚労相との面会後に超党派議連武見敬三会長(自民)は「多くの患者の方々の家計負担などの課題については、より丁寧にきちんと審議をし、高額療養費制度をしっかりと持続可能な形で社会保障制度の中のひとつの柱として維持する、という観点も常に考えてください、ということを申し入れた。このような課題について超党派でしっかりとした議論ができ、社会保障について多くの視点で共通の考え方や枠組みを作ることがいかに大切かということを会長としてしみじみと感じ取った」と簡潔に話し、次の予定があると述べてメディアとの質疑応答には対応せず足早に去った。
一方、手交に同行した他の議連メンバーは囲み取材に対応し、長妻昭会長代行(立民)は、「保険は大きいリスクをカバーするもの。最も大きいリスク(に対応する手段)の高額療養費制度は自己負担を上げることがないように、国民医療費は1年間で50兆円近くの金が動いているのだから、リスクが小さい部分の医療費見直しは我々も超党派で協力するので、そういうところを中心に深掘りする必要があるのではないか、と福岡大臣に申し上げた。さらに、(方針決定を)秋にこだわる必要がないということと、予想外の結論が出た場合は、国会でまた徹底的に追及しますよ、ということも併せて申し上げた」と述べた。
この福岡厚労相への要望書手交には、3月の〈見直し〉案凍結と超党派議連設立に最も大きく貢献した全日本がん患者団体連合会(全がん連)から4名と日本難病・疾病団体協議会(JPA)から2名が同席。全がん連理事長天野慎介氏は
「100名を超える超党派議連の議員の方々が与野党で結集して、高額療養費問題について関心を持っていただき、このようなとりまとめを提出していただいたことをあらためて感謝申し上げたい。本日の面会でも、大臣からプロセスに丁寧さを欠いたということ、今後は(制度の)持続可能性にも留意しなければいけないと言いつつも、丁寧な議論を心がけたいと改めて強調いただいたので、引き続き専門委員会を通じて、議連の力添えもいただきながら、我々の考えや要望を伝えてまいりたい」
と話し、JPA代表理事大黒宏司氏は
「医療費が高くなっているのは事実だが、それを誰が負担するかということについて、(病気の罹患は)自己責任ではないので、すべてが患者の自己負担にならないようにもっときちんと考えてもらい、私たちが希望を持てる制度が成り立つようになってほしい」
と、政府・厚労相側の姿勢に対して、制度を利用する当事者視点からの意見を述べた。
全がん連天野氏とJPA大黒氏は、ともに制度を利用する当事者の代表として、この5月に設置された「高額療養費制度の在り方に関する専門委員会」に委員として加わっているが、彼らが参加する第2回専門委員会は6月30日に行われた。
プロフィール

西村章(にしむら あきら)
1964年、兵庫県生まれ。大阪大学卒業後、雑誌編集者を経て、1990年代から二輪ロードレースの取材を始め、2002年、MotoGPへ。主な著書に第17回小学館ノンフィクション大賞優秀賞、第22回ミズノスポーツライター賞優秀賞受賞作『最後の王者MotoGPライダー・青山博一の軌跡』(小学館)、『再起せよ スズキMotoGPの一七五二日』(三栄)などがある。