オレに死ねと言ってんのか? ━検証!高額療養費制度改悪━ 第10回

「高額療養費制度と社会保障を考える議員連盟」事務局長・中島克仁氏に〈政府案〉の問題点を直撃!

西村章

高額療養費制度を利用している当事者が送る、この制度〈改悪〉の問題点と、それをゴリ押しする官僚・政治家のおかしさ、そして同じ国民の窮状に対して想像力が働かない日本人について考える連載第10回。

 今年(2025年)3月にいったん凍結された高額療養費制度の〈見直し〉は、7月20日の参議院議員選挙を終えていよいよ動きが本格化しはじめる。今後の議論に関わる様々なステークホルダーのなかで、キープレーヤーのひとつと目されているのが、衆参議員合わせて120名以上からなる超党派議連「高額療養費制度と社会保障を考える議員連盟」だ。その議連事務局長を務める中島克仁氏(衆・立民)に、彼らが目指す高額療養費制度の議論のありかたや今後の活動方針などについて、じっくりと話を訊いた。

──この議連は、昨年(2024年)冬の政府〈見直し〉案発表から3月の凍結に至るまでの過程で、全日本がん患者団体連合会(全がん連)や日本難病・疾病団体協議会(JPA)の方々が要望活動を続けてきたことに国会議員の側が反応して出来上がった組織、という理解でいいのでしょうか。

中島 全がん連の天野(慎介)さんはじめ患者さん団体は、政府の〈見直し〉案発表以降、当事者の方々の声や悲痛な思いを国会に届ける活動を熱心に続けていました。各党はヒアリングをして一定程度の問題意識を共有していたものの、政府案は衆議院を通過して参議院に送られました。それに危機感を持った全がん連とJPAが「理解してくださっている各党の議員にお集まりいただけないか」と呼びかけ、「これから予算案は参議院に回るけれども、今後も党派を超えて諦めずに頑張ってほしい」という要望に対して、集まった議員側から「これだけ集まるのであれば、議連を作って高額療養費制度のありかたを超党派で考えていこうじゃないか」という声が出たことがきっかけです。

 そもそものはじまりは、昨年末に、中間年薬価改定(※1)と高額療養費制度の見直しが、厚労省と財務省の大臣合意として発表されたことでした。

(※1:2年ごとに見直される診療報酬改定の狭間になる年に行われる薬価改定)

中島克仁氏。1967年甲府市生まれ、帝京大学医学部卒。2012年に衆議院選挙初当選、2021年衆議院選挙で4選、立憲民主党所属。今年3月に設立された超党派議連「高額療養費制度と社会保障制度を考える議員連盟」事務局長。医師としては山梨大学病院や韮崎市立病院勤務を経て、現在ほくと診療所院長を務める。

──加藤財務相と福岡(資麿)厚労相の間で合意が交わされて12月25日に発表された、いわゆる「クリスマス合意」?

中島 そうです。当時の私たち(立憲民主党)は、慢性的な医薬品不足を解消したいという思いから「中間年薬価改定廃止法案」を提出していたので、目線はどちらかというとそちらのほうへ向いていたのですが、厚労省からの説明は、「(高額療養費制度見直しの)メインは〈外来特例〉(※2)です」というものでした。要するに「高齢者の負担を一定程度、応能負担にさせていただく。一方で現役世代については、これまで年収要件の幅が広かったので、それを細分化します」というシンプルな説明でした。与党も他の野党も、おそらく皆が同じような説明を受けていたと思います。

(※2: 年間所得が一定額以下になる70歳以上の高齢者は、外来診療で支払う1年間の自己負担限度額を低く抑えられる制度)

 ただ、天野さんが年末に発信したSNSの情報を見て、「おや、これは自分たちが厚労省から聞いていたものと違うな……」と思ったので、正月が明けた時期に「ちょっと詳しく教えてもらえませんか」と連絡を取りました。天野さんたちから(党内で)ヒアリングを行うと、現役世代の保険料負担軽減を謳っているにもかかわらず自己負担上限額が一気に上がる、しかも社会保障審議会医療保険部会では当事者の意見をまったく聞いていないということもわかり、「これでは本末転倒ではないか。働きながら子育てをする世代で治療を諦めてしまう人たちが出てきてしまう……」という話になりました。天野さんたちは、全党の皆さんに対して同様の活動を続けていて、あれは本当に頭の下がる思いでした。

──中島さんは天野さんたちと以前から面識があった、ということですか。

中島 ゲノム基本法(※3)ができて2年が経ちますが、その際にゲノム議連(※4)で患者さんの立場として話を聞いたり、がん対策基本法改正でも私は議連に入っているので団体を統括する立場として天野さんから意見を聞いたり、そういったいろんなところで面識があって、よく知っていました。

(※3:良質かつ適切なゲノム医療を国民が安心して受けられるようにするための施策の総合的かつ計画的な推進に関する法律。ゲノム医療法、ゲノム医療推進法とも呼称される)
(※4:適切な遺伝医療を進めるための社会的環境の整備を目指す議員連盟)

──中島さんはこの高額療養費制度の〈見直し〉案問題に初期から関わっていた経緯もあって、議連ができた際には事務局長に就いた、ということでしょうか。

中島 私が立憲民主党の中で全がん連さんやJPAさんの窓口になっていたという事情もありますが、過去には他の超党派議連を作った経験もあってノウハウが少し分かっていたということもあります。まずは、会長を自民党の誰かにやってもらいたいということで、武見(敬三)さんにお願いに行きました。福岡さんの前に厚労大臣だったのは武見さんです。今回の問題は前大臣にもある意味で責任があるともいえるので、高額療養費制度のあり方にちゃんと責任を持ってもらう、という意味も含めて「会長をやってくれないか」と言いに行きました。武見さんの厚労大臣時代に私は厚労委員会でキツい質問をよくしていたのですが、気心の知れた関係でもあるので、「お前が事務局長をやるなら受ける」と言われ、「じゃあ、私もやります」みたいなことで第一歩が踏み出された、という感じです。

──中島さんはもともと医師という職業柄、当事者でも理解が難しいこの制度について、他の議員諸氏よりもおそらく理解があったことも、事務局長に就いた理由のひとつだろうと推測していたのですが。

中島 もちろんそれもあります。私は国会議員になって今年で14年目ですが、今も毎週土曜日は外来を担当し、制度利用者の方の診察もしています。その前は外科や在宅緩和ケアの医者だったので、高額療養費制度が医療における重要なセーフティーネットの役割を果たしているという認識は、おそらく他の議員よりも深かったと思います。

──超党派議連会長の武見敬三さんとは一対一で話をしたことがないのでよく分からないのですが、武見氏のこの制度に対する考え方やスタンスはどのようなものなんでしょうか。

中島 先日の論点整理(※5)では、1と2の項目(※6)に続く文章で「本議員連盟は、高コスト化する高度先進医療をどのようにして国民一人一人が持続可能な形でアクセスできるようにするか」というくだりがあります。この部分は、武見さんがこだわった表現なんです。

(※5:超党派議連第4回総会で整理した、厚労省に対する要望をまとめた文章。詳細は当連載第7回の1ページ目を参照)
(※6:上記の要望書内で論点としてまとめられたふたつの項目。文言の詳細は上記連載第7回の1ページ目を参照)

 高度先進医療が高コスト化している、という言い方に違和感のある方もいるかもしれませんが、我が国は医療先進国としてゲノム分野でも微生物でも分子化学でも、もっとリーダーシップを発揮しなければならない。一方で、少子高齢化や人口減少でコストのかかる高度医療がなかなか国民の皆さんに行き届かない、という現状もある。この現状に対して、高コスト化した医療を必要な方が享受できる仕組みをどうやって作っていくことができるのか。

 たとえば私が外科医としてスタートした頃は、がん治療であれば手術という大イベントがまずあって、その後に化学療法を補助的に行っていくことが多かったのですが、近年ではステージ4でも本当に良い治療ができるようになっていて、エンドレスケモ(ケモセラピーこと化学療法が長く続くことの通称)と言われる状況にもなっています。これは我が国の医療が発展したからこそなんですが、そのように高コスト化する医療や患者さん方の治療方針の変化、疾病構造の変化などに高額療養費制度が追いつけていない、という認識を武見さんは持ってらっしゃると思います。

──政府案が凍結された理由のひとつでもある、当事者を置き去りにした議論プロセスは当然ながら大きな問題なのですが、自己負担上限額のあまりに大きな引き上げ幅もたくさんの批判を受けました。議連の中では、武見さんはじめ自民党の方々もこれらの問題意識は共有しているんですか?

中島 ほぼ一致しています。

──「ほぼ」というのは?

中島 議論のプロセスがずさんだったことについては、どの党も意見が一致しています。(自己負担上限額を)一気に上げすぎだということに関しては、たとえば共産党さんやれいわ新選組さんの「本来はタダにしなければいけないじゃないか」という主張も含め様々な意見がありますが、この上げ幅は問題だろうということは議連内で一致していると思います。

──自己負担上限額を引き上げるなという人たちがいる一方で、ある程度の引き上げは仕方ないという考え方の人もいる、ということでしょうか?

中島 ええと……、ある程度はしようがない、という考え方の人はいます。

──どちらかというと議連内でも自民党・公明党の与党側に、ある程度の引き上げはやむなし、という姿勢が多いのでしょうか。

中島 そういう意見を持っていらっしゃる方はいます。ただ、(高額療養費制度の見直しは)政府の改革工程表に入っていて、閣議決定された“骨太”(経済財政運営と改革の基本方針2025)にも盛り込まれているから、(上限額引き上げに対して反対の)意見を持っていても「そうだそうだ」と言うわけにはなかなかいかない、という立場もあるかもしれません。

 野党では、たとえば維新さんは「最後のセーフティーネットに手を突っ込むのであれば、OTC類似薬の保険適用を除外したほうがいい」という意見ですし、私の場合だと、かかりつけ医を制度化して高齢者の重複疾病は包括報酬にし、予防医療にインセンティブを働かせれば財源は充分に確保できる、という立場です。だから、社会保障費全体の中で最後のセーフティーネットである高額療養費制度をどう守るか、という観点は、野党のほうが強いです。一方で、(与党側議員が)「政府は何もやってないわけではない。ただ、高額療養制度についてはプロセスの問題と上げ幅は問題だ」という立場になってしまうのは、ある程度しようがないとも思うんですよ。

 今回の高額療養費制度の問題は、患者団体の方々が非常に粘り強く頑張ったおかげで凍結になって社会に一石を投じましたが、政治の世界にも大きな一石を投じたと感じています。我が国における医療は、国民皆保険制度と必要な医療を誰でもいつでも受けることができるフリーアクセスを謳いながら、コロナや今回の高額療養費(問題で明らかになった患者の受診抑制など)を見ても「必要な人が必要な時に必要な医療を受けられていない、という現実がやっぱりあるじゃないか」という実態との乖離に対して、政治はやはり何かをしなければいけないだろうと思います。

 その意味で、各党に様々な意見があるなかで論点整理として一致点を見いだしてここまで合意できたのは、本当に大きなことです。マスコミの皆さんからは「何がしたいのかよくわからない」と言われてしまうかもしれませんが、特に高額療養費制度の問題は政争の具にしてはいけないものなので、まずは超党派で社会保障の問題を話し合う場所を作ったことは非常に重要だと思います。

──ただ、自民党でこの議連に参加している議員数はすごく少ないですね。ということは、自民党や公明党の与党の人々は、政府の改革工程にならって医療費削減を粛々と進めていけばいいという考えの人が多数派である、ということでしょうか。

中島 これは厚生労働委員会に14年関わってきた私の感覚ですが、厚生労働分野に関わる議員は同じ問題意識を持っています。ただ、(与党議員は)政府が言っていることを大上段から「それではダメだ」とは言いづらいと思うし、どう思っているのか細かいところまではよくわからないですけれども、与党の中にも、「改革工程表のフレームは一度見直さないと、こういうことが起こってしまうよね」という問題意識を持っている人は確実にいると思います。それがどのくらいの割合なのかは私には分かりませんが、「我々だってやっていないわけではないけれども、本音を言えば、改革工程表のフレームは一度見直して、高額療養費制度を守るためにどうするのか党内で議論をしなければならない」、と問題意識を吐露してくれる人もいます。ただ、そのような正直な意見交換は、マスコミに対してオープンの場ではなかなか吐露してくれないのも事実です。

──意見交換の場をオープンにできないという話ですが、言葉に責任を持つという意味では、それくらいのことは公にしていいのではないかと思うのですが。

中島 私は全然構わないんですよ。でも、それぞれの党の考え方をできるだけ尊重するようにもしています。大事なことは、まず議論に参加してもらうこと、その中心として高額療養費をいかに守るかということをテーマに(議連を)続けていくこと。それが重要ですから、ここでハレーションを起こして「そんなことなら自分たちは抜ける」と言って議連から出て行かれて議論ができなくなってしまうといけない、というのが現状です。

 最初の超党派議連総会は、フルオープンだったんですよ。その後、「意見交換や役所に話を聞くときは、できればクローズドにしてもらわないと困る」ということを、特に与党の議員さんから言われました。意見交換をしやすくするのも私の事務局としての仕事なので、「検討します」と持ち帰って、2回目の総会以降では意見交換の時間をクローズドにして、終了後に、そこで交わされた内容を私から記者の皆さんにお話しする、という方法にしました。

──それでもやはり、我々としては意見交換の場もフルオープンにしてもらいたいと思います。

中島 もちろん、それは(メディア側の要求として)当然ですよね。

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プロフィール

西村章

西村章(にしむら あきら)

1964年、兵庫県生まれ。大阪大学卒業後、雑誌編集者を経て、1990年代から二輪ロードレースの取材を始め、2002年、MotoGPへ。主な著書に第17回小学館ノンフィクション大賞優秀賞、第22回ミズノスポーツライター賞優秀賞受賞作『最後の王者MotoGPライダー・青山博一の軌跡』(小学館)、『再起せよ スズキMotoGPの一七五二日』(三栄)などがある。

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