フィギュアスケートファンとして、もうひとつ嬉しいのは、ブライアン・オーサー氏のもとで切磋琢磨していた羽生結弦とともに、ライバル同士でありながら厚い友情を交わし続ける姿を、ずっとずっと見せてくれたことです。
ハビエル・フェルナンデスが引退の決意を最初に伝えた相手は、羽生結弦。平昌オリンピックのフリーが終わり、メダリストがフラワーセレモニーのためにリンクサイドで待機しているときのことだったそうです。先日NHK BSプレミアムで放送された『アナザーストーリーズ 運命の分岐点』という番組で、ハビエル自身がそう明かしていました。
強敵でありながら、お互いにリスペクトを忘れず、いい友人同士でいること……。私が実際にやっていたスポーツはテニスですので、クリス・エバートとマルチナ・ナブラチロワという二人の女王が、現役時代のみならず現在でもそうした関係をずっと続けていることを知っています。現在男子テニスを牽引しているロジャー・フェデラーとラファエル・ナダルもそんな関係かもしれない、と思っています。
私が大好きなフィギュアスケートというスポーツにおいても、そうした友情がある。そういうふうに感じられることが、どれほど大きな喜びか。
「世界には、いたるところに希望がある」
と信じられる、ということでもあるのですから。
いまはただ、素晴らしい演技を見せてくれたこと、素晴らしい世界を見せてくれたことを、ハビエル・フェルナンデスに感謝するばかりです。選手たちが全身全霊で挑んでいるスポーツを、好きでいられてよかった。そう感じられることは、観客である私にとって、もっとも大きな幸せです。
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『羽生結弦は助走をしない』に続き、羽生結弦とフィギュアスケートの世界を語り尽くす『羽生結弦は捧げていく』。本コラムでは『羽生結弦は捧げていく』でも書き切れなかったエッセイをお届けする。
プロフィール
エッセイスト。東京外国語大学外国語学部フランス語学科卒業後、出版社で編集に携わる。著書に『羽生結弦は助走をしない 誰も書かなかったフィギュアの世界』『恋愛がらみ。不器用スパイラルからの脱出法、教えちゃうわ』『愛は毒か 毒が愛か』など。