2018年12月下旬に開催された全日本選手権、友人知人のチケット運にあやかって、男子のショートプログラムとフリー、そして女子のフリーを、会場で観ることができました。
友人知人の強運と厚意に心から感謝しつつ、また、大阪に泊りがけで行っても病状的にも体力的にも問題ないレベルにまで回復してくれた自分の体(そして担当医のケア)にも感謝しつつ、選手たちの演技を手に汗握って観戦しました。
ずっと語りたくなるような、そんな演技を披露してくれた選手は、それこそ数えきれないほどいます。そんな思いをグッとこらえて、今回は山本草太のことを語らせてください。
私にとって、今回の全日本選手権のもっとも大きな記憶のひとつが、「山本草太が4回転ジャンプに挑み、成功した」ことなのです。
フリー(2018 Nationals FS)、6分間練習の残り時間ギリギリのタイミングだったと思うのですが、山本草太は、トランジションがほとんどない状態で、大きく余裕のある単独のトリプルトウを、見事な着氷で成功させました。
山本草太にとってトリプルトウは、複雑なトランジションを入れて跳ぶか、あるいはコンビネーションのふたつめのジャンプとして跳ぶ技だと思います。ですから私は、6分間練習をしめくくるようなタイミングで実施された「シンプル」なトリプルトウに、ある種の期待感を抑えられませんでした。
山本草太は、演技冒頭で、その期待にこれ以上ない形で応えてくれました。最初のジャンプの4回転トウは、高さも幅も、空中の回転軸の確かさも、着氷後の流れも、一級品と呼べるもの。周りのお客様に迷惑だったかもしれませんが、私は思わず叫んでしまいました。
『羽生結弦は助走をしない』に続き、羽生結弦とフィギュアスケートの世界を語り尽くす『羽生結弦は捧げていく』。本コラムでは『羽生結弦は捧げていく』でも書き切れなかったエッセイをお届けする。
プロフィール
エッセイスト。東京外国語大学外国語学部フランス語学科卒業後、出版社で編集に携わる。著書に『羽生結弦は助走をしない 誰も書かなかったフィギュアの世界』『恋愛がらみ。不器用スパイラルからの脱出法、教えちゃうわ』『愛は毒か 毒が愛か』など。