『ラ・マンチャの男』は、スペインを舞台にしたミュージカル作品ですが、それをダンス作品に仕立て直したかのような躍動感がありました。コレオシークエンスからダイレクトに続く、足替えのシットスピンの回転速度と音楽の同調性にも目を見張ります。
プログラム後半は、ラテン男性の強さと優しさ、その裏にある哀愁を、なめらかで大きなエッジワークで表現しきったと私は感じています。平昌オリンピックの会場で、この目で見られたことが一生の思い出になるような演技はたくさんありますが、ハビエルのフリーも間違いなくそのひとつです。
そして、ハビエルの現役最後の試合となった、今年1月のヨーロッパ選手権。ハビエルが選んだのは、ショートプログラムが『マラゲーニャ』、フリーが『ラ・マンチャの男』でした。いまお話ししたように私が大好きな作品ですが、それ以上に、
「ああ、ハビエルは『スペイン人としての誇り』を胸に、最後を飾りたいんだ」
という感慨で、胸が熱くなったのです。
2018年10月、まだ去就を明らかにしていなかったハビエルは、それでも来日し、ジャパンオープンで『ラ・マンチャの男』を披露してくれました。そして今回のヨーロッパ選手権で、ハビエルはジャパンオープンのときよりはるかに密度の高い演技を見せてくれたと私は感じています。
誤解していただきたくないのは、私はジャパンオープンの演技にも大きな感銘を受けていた、ということ。
「オリンピック後、『明確な目標を持っていた』とは言えなかったかもしれないのに、ここまでの演技を披露してくれたなんて」
と思いながら客席から拍手を送っていたのです。
ハビエルは、ジャパンオープンからさらに集中のギアを上げ、自分のスケートを研ぎ澄ましてきた。その軌跡を、ヨーロッパ選手権という最後の舞台で見せてくれたのです。ハビエル・フェルナンデス、ヨーロッパ選手権7連覇。見事な花道でした。
『羽生結弦は助走をしない』に続き、羽生結弦とフィギュアスケートの世界を語り尽くす『羽生結弦は捧げていく』。本コラムでは『羽生結弦は捧げていく』でも書き切れなかったエッセイをお届けする。
プロフィール
エッセイスト。東京外国語大学外国語学部フランス語学科卒業後、出版社で編集に携わる。著書に『羽生結弦は助走をしない 誰も書かなかったフィギュアの世界』『恋愛がらみ。不器用スパイラルからの脱出法、教えちゃうわ』『愛は毒か 毒が愛か』など。