そんな内村航平が、2月10日にフジテレビ系で放送された「S-PARK」というスポーツ番組で、「平成の名勝負」というテーマでインタビューに答えていました。
内村が選んだのは、平昌オリンピックの羽生結弦のショートプログラムでした。
2017年の秋、内村は左足、羽生は右足の靭帯を損傷していました。それを踏まえて、内村は番組内で、
「(負傷した場所は)同じ場所くらいなんだろうと思って、これはたぶんすぐには治らないだろうから『ヤバいんじゃないか』と思ったんですよ」
と、当時の思いを語っていました。
そして、羽生の見事なショートプログラム(2018 Olympics SP)を見て、
「意味が分かんなかったです。フツーにやってますやん! っていう一言目ですよね」
と衝撃を受けたことを率直に語っていました。
この番組内で、私が何よりも印象に残った内村の言葉は、
「(羽生は)まとってらっしゃいました、何かを。『(この日のために)練習を積んできました』というオーラではなく『金メダル獲るためのオーラ』をまとってきました、という演技だったんですよ」
というものでした。ショートプログラムを見た段階で、羽生結弦が金メダルを獲ることを確信したという内村航平ですが、この言葉が内村航平の口から出てくることの説得力たるや。どちらの競技も大好きで、どちらの選手のファンでもある私としては、凡庸極まりないのですが、「本物は、本物を瞬時に、かつ正確に感じ取るんだなあ」という感想を持つのが精いっぱい。ただただ圧倒されるばかりの放送でした。
『羽生結弦は助走をしない』に続き、羽生結弦とフィギュアスケートの世界を語り尽くす『羽生結弦は捧げていく』。本コラムでは『羽生結弦は捧げていく』でも書き切れなかったエッセイをお届けする。
プロフィール
エッセイスト。東京外国語大学外国語学部フランス語学科卒業後、出版社で編集に携わる。著書に『羽生結弦は助走をしない 誰も書かなかったフィギュアの世界』『恋愛がらみ。不器用スパイラルからの脱出法、教えちゃうわ』『愛は毒か 毒が愛か』など。