台灣無事行 イントロ ~路上の声から考える~ 第二回

等身大の両岸問題

前川仁之

それでもつながりは求められる

台北の国父記念館の庭に立つ孫文像。

 富岡の教会で出会った二人の例を見ると、台湾の人々の多くは中国と縁を切りたがっている、と思われるかもしれない。なるほど、他にも「中国との最良の関係は、関係を持たないことだ」といった回答が3人、「距離をとりたい」という回答が1人いた。しかしである。

 もう少し台湾の人々の肉声を拾ってゆきたい。

 台湾の町では、お酒を飲める店は思いのほか少なく、その代わりといわんばかりにお茶のお店が多く感じる。豊富な果物を活かした様々なメニューがあり、注文するとその場で淹れて、こぼれないようビニールの蓋を貼ったうえで出してくれるので、コップ片手に散歩する人々が多い。私も、その日の目的地についたら冷たいフルーツティーでゆっくり喉をうるおしながら日記を書くようになった。

 新竹の南隣、大甲の町の「十二韻(Tea Melody)」というチェーン店でお茶を頼み、テラス席でノートをとっていたら、店員の女性がおずおずと「日本人ですか?」と訊いてきた。そうだと答えるとなぜか色めき立っている。聞けば、日本に憧れているとか。その17歳のバイト学生にもアンケートを頼んだ。彼女は両岸関係の質問に「むこうの人が親切に(なってほしい、の意)」と記した。むこうの人、とは要するに中国の、政権側の人々を指すのだろう。ほんと、頼むからもっとやさしくなってほしい。

 日本に憧れているというわりに、「日本でいちばん好きな物事は?」という問いには「道路が清潔なこと」というありがちな答えしか出されなかった。

 ちなみに彼女の尊敬する人物は「孫中山」こと孫文で、かわいい王冠マークのイラストつきで「国父」と書いてくれた。孫文は最終的に10票を集め、蔡英文前総統と同率3位の健闘を見せた。そのうち10代が2票、20代が4票、30代が2票、40代と50代が1票ずつと、若い世代に票が固まる傾向が見られたのは興味深い。

 さて、お茶もおいしいが常夏の台湾でビールを飲まない手はない。台北を発って7日目には斗六の町に着き、小さな食堂でWBC
ワールド・ベースボール・クラシック
の日本対台湾(現地のテレビでは「中華」と表記されていた)の試合を見ながら炒飯を食べ、高層ホテルの屋上に店を構えるバーに乗り込んだ。オープンテラスで、旅してきた大地の夜景を見ながらビールを飲むのは最高の気分だ。

 このバーで働く30代前半の女性は両岸関係についての質問に、次のように答えた。

「民間交流が増えることで、むこうとこっちの間でのすれ違いや無理解から生じる衝突が減るのではないでしょうか」

 とても冷静な提案であり、願いでもあるのだろう。

「台湾で誇りに思うことは?」の問いには「私たちはフレンドリーで、親切で、他人を手助けするのが好きです」と記す。まったく、旅を通じて日々実感される美点そのものだ。

 そして「日本でいちばん好きな物事は?」という質問には意外な答えが返ってきた。

「日本人は友好的で、異なった人や物事に対しても、受け入れ、理解しようとします」

 そういう日本人もいるにちがいない。けれども、一般論としてはどうなのだろうかと、わが身も顧みて気恥ずかしかった。

 自身の職能から両岸関係を考える人もいる。嘉義市で幸運にも出会えた台湾布袋戯(伝統的な人形劇)の木偶(人形)工房「三味堂」の団長・厳仁鴻さんは両岸関係に関する質問に「文化交流」と回答した上で、「文化こそもっとも平和的な外交である」と記した。その通り! 厳さんにとっての台湾の誇りはもちろん「世界でも唯一の布袋戯の文化」なのだった。

 三味堂の方々との交流のように、この旅では伝統文化・芸能にふれる機会も時々あり、台湾の奥深さをかいま見ることができた。リピーターを誘う資源が豊富な「国」である。

現代布袋戯の人形たち。
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 第一回
台灣無事行 イントロ ~路上の声から考える~

平和を実践するためにスペイン、韓国など世界の大地に自転車を走らせ、亡命者や難民との邂逅を通して思考をめぐらし続ける──。 ノンフィクション作家の前川仁之氏は『逃亡の書 西へ東へ道つなぎ』『人類1万年の歩みに学ぶ 平和道』など、他者との共生と平和の希求をテーマに、独自の世界観を持つ作品を発表してきた。 前川さんが今回赴いたのは、台湾。台湾有事が叫ばれる今、この島の人々は何を思い、暮らしているのだろうか。自らのルーツでもある琉球弧をつたい、台湾の路上の人々の声を集め、その無事の未来を考える短期連載。

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プロフィール

前川仁之

まえかわ さねゆき

ノンフィクション作家。1982年、大阪府生まれ。埼玉育ち。東京大学教養学部(理科Ⅰ類)中退。人形劇団員、警備員等を経て、立教大学異文化コミュニケーション学科卒。2014年、スペインの音楽家アントニオ・ホセの故郷を訪ねてその生涯を辿った作品で開高健ノンフィクション賞の最終候補となる。著書に、亡命者や難民の境遇を追った『逃亡の書 西へ東へ道つなぎ』(小学館)、『人類1万年の歩みに学ぶ 平和道』(インターナショナル新書)、『浄土真宗「道場」の四季 北陸・福井に残る真宗信仰の古層』(宗教問題)などがある。

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等身大の両岸問題

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