平和を実践するためにスペイン、韓国など世界の大地に自転車を走らせ、亡命者や難民との邂逅を通して思考をめぐらし続ける──。
ノンフィクション作家の前川仁之氏は『逃亡の書 西へ東へ道つなぎ』『人類1万年の歩みに学ぶ 平和道』など、他者との共生と平和の希求をテーマに、独自の世界観を持つ作品を発表してきた。
前川さんが今回赴いたのは、台湾。台湾有事が叫ばれる今、この島の人々は何を思い、暮らしているのだろうか。自らのルーツでもある琉球弧をつたい、台湾の路上の人々の声を集め、その無事の未来を考える短期連載。
文・写真/前川仁之
外省人第一世代の男性と、若い女性たち

「あなたが考える、中国との最良の関係は?」
この第5問は私が用意していた100人アンケートの中でいちばん神経を使う問いだった。自由記述にしたのは、相手の心理になるべく負荷をかけたくないからだ。
台北市内で最初にアンケートに答えてくれた3人の回答はそれぞれ「平和共存」「台湾は独立民族」「平和共存を経て、いずれ自然に大陸へ帰還」というものだった。はじめの2人は70代後半の女性、3人目は80歳の外省人男性だ。
3人目の男性は、私が大安森林公園でジョギング未満の速度で自転車にまたがっていたら「おい、公園内で走るな」と注意してきた。自転車に対する四角四面の注意ははっきり言って好きじゃない。めんどうくさいじいさんだなと思いながらも素直に降り、ついでに取材をしかけたのだった。石のベンチに腰かけて二種類の新聞を読んでいたので、社会・政治への関心が高そうだ、と期待して。
その人、沈さんは大陸の広東省生まれで、国民党が内戦に敗れる直前の1948年に台湾に連れてこられた。若いころにアメリカで働いていたこともあると言うから(英語はだいぶ忘れているようだったが)、外省人のエリートではないかと思われる。
私はちょうど台湾の道路地図帳を探しに書店めぐりをしていて、ドナルド・トランプ関連書籍が大々的に置かれているのが気になっていたところなので、「台湾ではトランプが人気なのですか?」と訊ねると、「トランプは狂人だ。世界を悪く悪く、混乱にもってゆくばかりだ」と舌鋒鋭く批判する。異議なし。私は一歩踏みこんで「中国の習近平はいかがですか?」ときいてみた。
「彼になにか問題があるかね? 半年前に上海へ行ったが、インフラもなにもかも見事なもので、台湾より発展してるんじゃないかと思ったよ」と評価する。では大陸との統一に賛成かといえば、「いまはまだ」で、いずれ時が来たら自然に、という展望を持っているようだ。
ちなみに沈さんが「台湾の歴史上、あなたが最も尊敬する人物は誰ですか?」(第一回参照)の質問にあげたのは「愛と平和の指導者・黄帝」だった。古代中国の伝説上の人物だ。日本ではもはやユンケル黄帝液のイメージくらいしかないかもしれない。
その夜、てんぷら屋台のカウンター席で会話がめばえた二人の若い女性は新竹市出身のOLで、1杯飲んで舌がまわるようになった私が調子にのって両岸問題に話をふると「台湾は中国の一部ではありません」と特に力むでもなく答えた。
「ぼくはまだ台湾に来たばかりですが、話を聞いているとどうも、若い人ほど台湾は独立国だと考えるようですね」
「そうあるべきですよ」と彼女たちはうなずいていた。
私はビールが大好きで、足りない中国語力を底上げするためにも、いわゆる飲みニケーション(死語か?)ができると非常に助かる。この時はまさにそうだった。
こうしてはじまった台北発、西回りの台湾一周旅行。親切でノリのいい台湾の方々に助けられ、3週間・100人のアンケートを無事に終えることになるのだが、今回は両岸関係を考える上で印象深い回答者を選んで紹介する。

平和を実践するためにスペイン、韓国など世界の大地に自転車を走らせ、亡命者や難民との邂逅を通して思考をめぐらし続ける──。 ノンフィクション作家の前川仁之氏は『逃亡の書 西へ東へ道つなぎ』『人類1万年の歩みに学ぶ 平和道』など、他者との共生と平和の希求をテーマに、独自の世界観を持つ作品を発表してきた。 前川さんが今回赴いたのは、台湾。台湾有事が叫ばれる今、この島の人々は何を思い、暮らしているのだろうか。自らのルーツでもある琉球弧をつたい、台湾の路上の人々の声を集め、その無事の未来を考える短期連載。
プロフィール

まえかわ さねゆき
ノンフィクション作家。1982年、大阪府生まれ。埼玉育ち。東京大学教養学部(理科Ⅰ類)中退。人形劇団員、警備員等を経て、立教大学異文化コミュニケーション学科卒。2014年、スペインの音楽家アントニオ・ホセの故郷を訪ねてその生涯を辿った作品で開高健ノンフィクション賞の最終候補となる。著書に、亡命者や難民の境遇を追った『逃亡の書 西へ東へ道つなぎ』(小学館)、『人類1万年の歩みに学ぶ 平和道』(インターナショナル新書)、『浄土真宗「道場」の四季 北陸・福井に残る真宗信仰の古層』(宗教問題)などがある。
前川仁之





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