台灣無事行 イントロ ~路上の声から考える~ 第三回

国家を超える原住民の壮大な価値観

前川仁之

地球の縮図、台湾 

台湾は形状のみならず文化の多様性も地球の縮図のよう。地図作成/MOTHER

 多様な民族が暮らしているおかげで、台湾を旅していると、ひとつの地域からひとつの地域へと、次はどんな「島」かなどんな「国」かなと、世界をまたにかけているような錯覚が得られる。民家のつくりも、人々のバックボーンを反映して多彩で、島全体が日常的な万博会場になっているかのようだ。

 そうした多様さは、効率一辺倒の価値観では支えられないだろう。台湾と言えば、ハイテク産業が強く、またコロナ禍の時に脚光を浴びたオードリー・タン氏の活躍もあって、超情報社会で、スピーディーで、計算と効率が優先されるようになっているのではないか、と一抹の不安があったのだが、まったくそんなことはなかった。だいいち、原住民を尊重する政策が続けられていること自体が、あえて冷たい言い方をすれば非効率的なのだ。一人でも当該民族の生徒が学校にいたらその子のために民族語の授業を行うといった政策は、資本主義経済的にはまったくの無駄だし、社会ダーウィニズム的に見ればまったく不自然ということになるだろう。

 また、私が出会った中でも一人、「原住民と自称する人たち」という呼び方で差別意識をちら見せする青年がいたので、みんながみんな原住民の権利保護に賛成しているというわけでもなさそうだ。

 それでも、私がちょっと旅するだけで三つの民族語の「ありがとう」を覚えてしまえるくらいに、非効率的でそれゆえにゆたかでたのしい多民族社会は実現できている。

 そんな台湾を旅していて、次第にこの島が、地球の縮図のように感じられてきた。

 それも、これからそうあってほしい地球、の。

 これは私がもともと地球を、ほとんど崇拝せんばかりに好きだからそう意識されるせいもあるだろう。地球の愛で方のヒントになればと、せっかくなのでお伝えしたい。

 さきほど述べた文化の多様性のみならず、台湾はそもそもわかりやすく一周旅行のできる丸っこい形状からして、地球に似ているではないか。しかも高山から密林、砂丘、湖までとりそろえた豊かな自然がある。おまけに、北回帰線を陸路でまたげる特典つき!

北回帰線を陸路でまたぐ。

 北回帰線は、人間の都合によるところが大きい数多の国境線とちがって、かたむいて公転するわれらが愛しの地球が太陽との位置関係で自然とひいてくれる線を、人類が観測と計算によってなぞることで得られる、いわば両者の合作。台湾では西側でも東側でも、この線をまたぐ地点に地球愛みなぎるすてきな休憩所や公園が設置されていたものだ。

 半日間、行動をともにした自転車旅行のスイス人カップルに教えたら、いたくよろこんでもらえて、地球愛の伝道師としてはうれしいかぎりだった。

 台湾は地球の縮図、と述べたのはそういうわけだ。ついでに言うと、スクーターが圧倒的に多い都市部の道路を自転車で旅するのははじめ少々おっかなかったが、慣れると彼らのおかげで自動車から守られているように感じられ、安心感さえめばえた。これは私がこれまで走ったスペイン、フランス、モロッコ、韓国、そして日本のどこでも得られない、路上の直接民主主義とでも呼びたくなる発見だった。

 ただし一点、注意がある。犬の放し飼いや野犬の群れは過去一こわかった!

 帰国まもなく、まだ旅の余韻がポリフォニーで体内にめぐっているころ書きなぐったノートには、「転がせば、模様のうつろう万華鏡をはめこんだ、地球の縮図・台湾島」なる文句が読みとれる。素直なオード(ほめ歌)のつもりだ、この魅力的な島にささげよう。

 さて、台湾の原住民族といえば、琉球王国が日本帝国に併合されるきっかけを作った牡丹社事件を忘れるわけにはいかない。次回でじっくり掘り下げたい。

(続く)

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 第二回
台灣無事行 イントロ ~路上の声から考える~

平和を実践するためにスペイン、韓国など世界の大地に自転車を走らせ、亡命者や難民との邂逅を通して思考をめぐらし続ける──。 ノンフィクション作家の前川仁之氏は『逃亡の書 西へ東へ道つなぎ』『人類1万年の歩みに学ぶ 平和道』など、他者との共生と平和の希求をテーマに、独自の世界観を持つ作品を発表してきた。 前川さんが今回赴いたのは、台湾。台湾有事が叫ばれる今、この島の人々は何を思い、暮らしているのだろうか。自らのルーツでもある琉球弧をつたい、台湾の路上の人々の声を集め、その無事の未来を考える短期連載。

関連書籍

プロフィール

前川仁之

まえかわ さねゆき

ノンフィクション作家。1982年、大阪府生まれ。埼玉育ち。東京大学教養学部(理科Ⅰ類)中退。人形劇団員、警備員等を経て、立教大学異文化コミュニケーション学科卒。2014年、スペインの音楽家アントニオ・ホセの故郷を訪ねてその生涯を辿った作品で開高健ノンフィクション賞の最終候補となる。著書に、亡命者や難民の境遇を追った『逃亡の書 西へ東へ道つなぎ』(小学館)、『人類1万年の歩みに学ぶ 平和道』(インターナショナル新書)、『浄土真宗「道場」の四季 北陸・福井に残る真宗信仰の古層』(宗教問題)などがある。

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国家を超える原住民の壮大な価値観

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