著者インタビュー

現代に正統は復権しうるか

『異端の時代』著者・森本あんり氏インタビュー

森本あんり
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前著『反知性主義』(新潮選書)で反知性主義的風潮に鋭く斬り込んだ神学・宗教学者が、「正統と異端」をキーワードに反知性主義の背景とその行く末を展望したのが『異端の時代――正統のかたちを求めて』(岩波新書)である。

『異端の時代――正統のかたちを求めて』(岩波新書/写真:伊豆倉守一)

本書は、政治学者・丸山眞男の正統論の読み直しから始まる。丸山は正統のあり方を「L正統」と「O正統」に分けた。L正統とは、いわば「血統による正統性」。O正統とは「教義・世界観を中核とするようなオーソドクシー問題」のことで、「規範的な正統性」である。

「丸山は政治と宗教の絡みをよく理解した人です。図式化もとても上手で『L正統』と『O正統』は考える道具としてよい発明だと思います。ただし、歴史をよく見ていくと、そんなに単純な図式ではうまくいかない。特にキリスト教における正統と異端は、丸山の想定とは違う成立過程を辿りました」

本書の著者・森本あんり氏はこのように語る。

丸山の図式の難点を超える視点として森本氏が示すのは、「正統と異端の生態学」である。本書の前半はキリスト教史を題材に異端が正統を生み出すダイナミズムを描き出す。マルキオン、オリゲネス、ペラギウスといった、門外漢には怪獣の名前としか思えない人名が次々と登場して面食らうが、実はこの歴史叙述こそ著者のいう「正統と異端の生態学」の実例となっている。それは異端によって生じた不均衡状態からバランスを取り戻す歴史なのである。

「普通の考え方だと、まず正統派が権力を握り、批判者や少数派に異端のラベルを貼って弾圧するというイメージだろうと思います。ベストセラーになった『ダ・ヴィンチ・コード』(ダン・ブラウン著、邦訳角川書店)は、まさにそうした、カトリック正統派が陰謀をめぐらせて、教会に不都合な信仰を持つ者を弾圧する話でした。

でもそれは、中世以降の権力機構化した時代のことで、少なくとも成立の歴史を見る限り、史実とは違います。そのことを前半部で、歴史に即して裏付けたつもりです」

国際基督教大学(ICU)学務副学長・森本あんり氏 (撮影:内藤サトル)

では、現代人の多くがこうした政治や宗教の陰謀論に魅せられてしまうのはなぜか。

「人間は金だけでは動かない。金だけで自分の人生が満たされるとは誰も思っていません。では、何が欲しいのか。自分のいる世界をわかりやすく理解したい。つまり『納得感』です。

陰謀論は世界を極めてわかりやすく説明してくれます。我々はいろいろな問題を抱えている。それらは見たところは別々の問題であるように見える。『どうしてこんなことになるんだ』と思っているところに、陰謀論は『実は、あれとこれとは繋がっていて、密かな陰謀でこうなっているんだ』というわかりやすい世界観を提供してくれる。そういう『世界認識の方法』は、すごく魅力的なんです」

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関連書籍

『異端の時代―正統のかたちを求めて』

プロフィール

森本あんり

神学・宗教学者。1956年、神奈川県生まれ。国際基督教大学(ICU)学務副学長、同教授(神学、宗教学)。プリンストン神学大学院博士課程修了(Ph.D.)後、国際基督教大学教授を経て現職。著書に『反知性主義』(新潮選書)、『宗教国家アメリカのふしぎな論理』(NHK出版新書)など。

 

 
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