著者インタビュー

食事中のカロリーを気にするのは時代遅れです

津川友介・UCLA助教授
津川友介

女性医師に診てもらった患者の方が、男性医師に診てもらった患者より死亡率が低い――

2016年、こんな驚きの論文を発表し世界中から注目を集めた、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)助教授で医師の津川友介氏。

津川氏の専攻は「医療政策学」だ。
世界中で発表される膨大な数の医学論文から根拠となっているものを分析し、そこから得られた知見を「医療費の自己負担額は何割が適切なのか」といった実際の政策に結び付けることを研究している。いわば、医療に関するデータ分析のプロだ。

そんな、「ある研究が信頼できるかどうか判断し応用する専門家」の津川氏が、世界中の研究を集めて健康的な食事について一冊にまとめたのが『世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事』だ。

 

津川 友介(つがわ ゆうすけ)
カリフォルニア大学ロサンゼルス校
(UCLA)助教授

──この本を書こうと思ったきっかけは?

日本の書店に行くと、健康的な食事に関する本がズラッと平置きされていますよね。しかし研究者の目から見れば、科学的根拠(エビデンス)に基づいていなかったり、発表されたばかりでまだ検証もされていない学説を、あたかも確定したことであるかのように誇張して一冊になったものがほとんどです。

健康的な食事をすれば病気のリスクを下げることは間違いないし、そのメカニズム解明のために様々な研究が行われています。ならば、そういった研究論文の中から信頼できるものを集めて、「科学的根拠に基づいた正しい食事」をまとめようと作ったのがこの本です。

──科学的根拠に基づいているとはどういうことですか。

医学についての情報は、信頼できるものからできないものまで様々なレベルがあるんですね。

まず、実際に研究が行われて、数字ではっきり結果が出ているものは信じられます。さらに、同じことについて複数の研究が行われ、どれも同じような結果が出ているものは最も信頼できる。このような研究手法は「メタアナリシス」と呼ばれていて、その結果分かったものは最強のエビデンスと言えます。

この本では、メタアナリシスで判明した、現時点で最も「正解に近い」食事法を紹介しています。膨大な数の研究で立証された方法ですから、近い将来に新しい研究結果が1つや2つ出たとしても、この内容が覆る可能性は低いと考えられます。

──本書では、すべての食材を健康に良いかどうかで5つに分類しています。中でも、「赤い肉」や「加工肉」が、「健康に悪いということが、複数の信頼できる研究で報告されているもの」の中に分類されていることに驚きました。

赤い肉とは牛肉、豚肉、羊肉、馬肉のことで、赤身肉だけでなく霜降り肉などの全ての部位が含まれます。加工肉とは、ハムやソーセージのことです。

国際がん研究機構は「加工肉は発がん性があり、赤い肉はおそらく発がん性がある」と発表しました。9つの論文を統合したメタアナリシスによれば、加工肉の摂取量が多くなるほど死亡率が高くなっています。5つの論文をまとめたメタアナリシスでも、1日の加工肉の摂取量が50g増えるごとに脳卒中を起こすリスクが13%増加、赤い肉は100~120g増えるごとに11%上がっています。

──牛肉や豚肉は、体に良くないとはっきり分かっているんですね。鶏肉は大丈夫なんですか。

鶏肉は「白い肉」に分類されているので問題ありません。鶏肉の摂取量が多い人ほど大腸がんのリスクが低いという報告もあります。

私は、赤い肉の代わりに魚を食べることもおすすめしています。合計67万人を対象にした12の観察研究を統合したメタアナリシスによれば、魚の摂取量が多い人ほど死亡率が低くなっています。1日85~170gの魚を摂ると、心筋梗塞で死亡するリスクは36%下がるというメタアナリシスもありますし、他にも、乳がんのリスクを下げたり、大腸がんや肺がん予防に役立つことも報告されています。

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プロフィール

津川友介

カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)助教授。

東北大学医学部卒、ハーバード大学で修士号(MPH)・博士号(PhD)を取得。
聖路加国際病院、世界銀行、ハーバード大学勤務を経て、2017年から現職。
著書に『週刊ダイヤモンド』2017年「ベスト経済書」第1位に選ばれた『「原因と結果」の経済学』(中室牧子氏と共著、ダイヤモンド社)、『世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事』(東洋経済新報社)がある。
ブログ「医療政策学×医療経済学

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