3年ぶりに開催されたMotoGP日本GPは、欧州メーカー勢が表彰台を独占した。
優勝はジャック・ミラー(Ducati Lenovo Team)、2位はブラッド・ビンダー(Red Bull KTM Factory Racing)、3位にホルヘ・マルティン(Prima Pramac Racing / Ducati)。前週のアラゴンGPで右腕手術後の休養から復活したマルク・マルケス(Repsol Honda Team)は4位に入った。
一方で、チャンピオンを争うファビオ・クアルタラロ(Monster Energy Yamaha MotoGP)は8位。フランチェスコ・バニャイア(Ducati Lenovo Team)は悪癖が出て転倒で終わり、アレイシ・エスパルガロ(Aprilia Racing)はチームのミスでスタートが最後尾になってノーポイント、といずれも冴えない結果に終わった。
総じて、ドゥカティを筆頭に意気軒昂な欧州勢に対して低迷する日本陣営、という今年の趨勢をみごとに象徴する結果だ。ただ、このMotoGPクラス決勝レースに先だって行われた中排気量のMoto2では小椋藍が力強い走りで優勝を飾り、小排気量のMoto3では、序盤からレースを引っ張った佐々木歩夢が3位表彰台を獲得、と若い日本人選手たちが鮮烈な印象を残した。そのため、最高峰で苦戦する日本車勢の印象がやや薄まった感もある。が、事実はあくまで事実である。
じつは今週末の走行が始まる前の木曜に、日本企業が軒並み欧州企業に対して苦戦を強いられている現状について、マルケスに質問を投げかけてみた。すると、以下のような言葉が返ってきた。
「この2年少々はパンデミックの影響で、たしかに日本メーカー勢は総じて苦戦を強いられてきた。技術者や日本人スタッフたちはレースの期間中ずっとヨーロッパに滞在して仕事を続けなければならず、日本と緊密に連携を取るのが難しくなっていた。(後手に回りがちな日本企業に対して)欧州メーカーは精力的にバイクを改良してレベルを上げていった。でも、日本メーカー、とくにホンダには生来の器用さがある。昨日はHRCの研究所を訪問したけれども、復活してトップに返り咲き、ふたたびチャンピオン争いをするだけの大きなポテンシャルがあることを実感した。それが自分たちの目標だし、ホンダにはそれができると信じている。なんといってもホンダはホンダ、世界最強のファクトリーなのだから」
パンデミックの影響は、たしかにあっただろう。前回も記したように、新型コロナウイルス感染症の世界的流行で大陸間移動のハードルが高かったことは事実だ。テストチームの活動やマシン開発の進捗、部品供給等、多くの面で日本メーカーは欧州勢よりも不利を強いられてきた。だが、2020年にタイトルを獲得したのはスズキのジョアン・ミルで、2021年の王者クアルタラロはヤマハファクトリーのエースである。
じっさい、昨年末にこれらのメーカー技術開発陣に話を聞いた際には、プロジェクトリーダーたちはいずれも「欧州滞在組と、日本側で開発を進めるスタッフとの間で最大限に緊密な連携を取り、IT技術等も駆使して、レース現場の要求に日本側が迅速に対応しながら開発を進めていった」と振り返っている。それらのマネージメントがうまく進んだからこそ、スズキとヤマハは彼らのライダーが最大の能力を発揮して、2020年と2021年に世界チャンピオンの座を獲得したのだろう。
つまり、今年になって特に顕在化している欧日間の〈格差〉は、パンデミックの影響という表面的な事象のさらにもっと深いところに問題の根がある、ということが想像できる。そして、それを探るヒントは、やはり、マルケスの言葉のなかにあった。
プロフィール
西村章(にしむら あきら)
1964年、兵庫県生まれ。大阪大学卒業後、雑誌編集者を経て、1990年代から二輪ロードレースの取材を始め、2002年、MotoGPへ。主な著書に第17回小学館ノンフィクション大賞優秀賞、第22回ミズノスポーツライター賞優秀賞受賞作『最後の王者MotoGPライダー・青山博一の軌跡』(小学館)、『再起せよ スズキMotoGPの一七五二日』(三栄)などがある。