腹から金玉 39歳、目が覚めたらオストメイト ep.04

浴室にて

2024年5月18日(土)の記録
かわむらまみ

ある日、いきなり大腸がんと診断され、オストメイトになった39歳のライターが綴る日々。笑いながら泣けて、泣きながら学べる新感覚の闘病エッセイ。

入院して2週間弱、お腹に刺さっていたチューブがすべて外れたので、ようやくシャワーを浴びられることになった。今回はストーマ装具を交換する練習も兼ねているので、看護師さんの付き添いのもと、入院着を脱いで浴室へ入る。わたしに与えられた入浴時間は30分。その間に、ストーマについている装具を外して、髪と身体を洗って、また装具をつけ、服を着て、髪を乾かさなければならない。

浴室には全身を映す鏡があって、わたしは本当に久しぶりに、自分の身体をまじまじと見た。ずいぶんと痩せこけていた。あばらは胸の上下に浮き出て、傷だらけのお腹は筋肉を使っていないせいか締まりがない上に、へその横には金玉のような訳のわからないピンク色をした内蔵が飛び出ている。脚の筋肉は、数日でここまで? というほど失われていた。醜かった。裸を見せる相手がいないことに安堵した。こんな身体では恋愛どころか、一晩限りの関係に至ることすらないだろう。わたしに触りたい人なんて誰もいないと思った。

素っ裸のままで上手上手と褒められながら、はくり材を使って、お腹からストーマ装具をペリペリと引き剥がす。腸には筋肉がないため、オストメイトは自分の意思で排泄をコントロールすることができない。しかし、それでは生活がままならないので、ストーマを覆うようにパウチ状の装具をつけて、排泄物をそのパウチ内に溜め置く必要がある。排泄物は、パウチの先のキャップを開けて、お手洗いで定期的に排出する。ストーマを覆う口の部分は特殊なシールでお腹に貼りつけられるようになっていて、一度貼ったら3、4日は貼りっぱなしにするタイプの装具が多いらしい。昨日、装具のカタログを見せてもらったけれど、本当にいろんな種類があった。メーカーも複数社あるという。とはいえ、カタログを見たところで何が自分に合っているのかは到底わからず、看護師さんの見立てに頼った。39歳にもなって、自分が身に着けるものすら満足に選べないでいる。

シャワーのお湯の勢いを手のひらで弱めながらストーマに恐る恐る当ててみると、ストーマは水を得た魚のようにうねうねと豪快に動き出し、わたしはかなり引いてしまった。外した装具を捨てるために看護師さんが離れている間に、髪と身体もささっと洗った。爪が伸びていて、頭皮を傷つけないように洗うのが難しい。髪はベタベタで、シャンプーはまったく泡立たなかった。

さて身体を拭こうかというタイミングで、ストーマが唐突に排泄を始めた。浴室の床と、洗ったばかりの脚が汚れる。ちょうど看護師さんが戻ってきて「そのままでいいですよ」と声をかけてくれた。なんだかすべてが馬鹿馬鹿しくなって、なんかすみません〜と笑いながら、濡れた髪に隠れて少し泣いた。

(毎週金曜更新♡次回は11月1日公開)

 ep.03
腹から金玉 39歳、目が覚めたらオストメイト

ある日、いきなり大腸がんと診断され、オストメイトになった39歳のライターが綴る日々。笑いながら泣けて、泣きながら学べる新感覚の闘病エッセイ。

プロフィール

かわむらまみ

ライター

1985年生、都内在住。2024年5月にステージⅢcの大腸がん(S状結腸がん)が判明し、現在は標準治療にて抗がん剤治療中。また、一時的ストーマを有するオストメイトとして生活している。日本酒と寿司とマクドナルドのポテトが好き。早くこのあたりに著書を書き連ねたい。

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浴室にて