今日のわたしの行動だけが、この先のわたしを救ってくれるだろう
ある日、いきなり大腸がんと診断され、オストメイトになった39歳のライターが綴る日々。笑いながら泣けて、泣きながら学べる新感覚の闘病エッセイ。
本日退院。会社の産業医とオンライン面談をして、来週から復職できることになった。
大腸がんで倒れてから、なんだかんだ1ヶ月以上も休職してしまっている。それでも、定職があるだけ本当にありがたい。休職前は1日8時間の基本出社だった働き方が、復職して抗がん剤治療が終わるまでは、1日6時間のフルリモート勤務になる。診断書が存分に効力を発揮してくれている。
フルリモートにはなるものの、たまには会社に行けたらいいな、とは思う。そもそもわたしは4月入社で働き始めたばかりで、各種ルールに照らし合わせれば、雇用契約が終了していた未来は十分すぎるほどにあり得たはずだ。成果を出すどころか、オンボーディングもろくに終えていないわたしが退職に至らなかったのは、ほうぼうに手を回してくれた上司や、わたしがやるはずだった仕事を手分けしてくれたみんなのおかげでしかない。顔を見てありがとうを伝えたい。もちろん、契約の継続を決めてくれた社長へも。
入院する直前、ちょうどゴールデンウィーク中日の平日、特に急ぎの業務もなかったので、会社の採用サイトに掲載する記事を1本書いた。入社に至った経緯や仕事への思い、どんな会社か、どんな人に向いているかなどについて触れた記事だった。その数日後にわたしは倒れて、3週間入院、1ヶ月以上休職することになる。
会社がわたしの雇用契約について判断を迷っていたときに、社長がわたしの書いた記事を読んで、契約の継続を決めたと聞いた。「ぶっちゃけ、わたしクビになるパターンありましたよね?」と直属の上司に尋ねたときに、実は、とそのことを教えてもらった。嬉しかった。こんなに嬉しいことはないと思った。わたしの書いたものが、わたしを救ってくれた。その事実だけで、なんだかこれからもやっていけるような気がした。
今回の入院代は8万円を超えた。これからの半年間は、3週間に1回ペースで3万円超の抗がん剤治療費が飛んでいくし、内服薬やストーマ用品にかかるお金だってチリツモで馬鹿にならないだろう。稼ごう、そして自炊をしよう。近くの高級スーパーではなく、できれば西友まで行こう。ちゃんと友だちに弱音を吐こう。家でできることを趣味とし、気が向いたら何かを書こう。まずは半年。半年乗り越えたら大丈夫。もし再発や転移をしたとて、そのときはそのときだ。先のことを心配している暇はない。そんな暇を作ってはならない。
今日は家の拭き掃除をして、洗濯をし、植物に水をやって、抗がん剤の副作用対策の予行演習でゴム手袋をして皿を洗った。これからシャワーを浴びたら、夕食はスープで済ませ、退院の帰りしなに買ったTHE BIG ISSUEの坂本龍一の号を読もうと思う。1週間ぶりの家はそこそこ綺麗で、わたしは1週間前の自分に感謝した。今日のわたしの行動だけが、この先のわたしを救ってくれるだろう。
(毎週金曜更新♡次回は12月27日公開)
ある日、いきなり大腸がんと診断され、オストメイトになった39歳のライターが綴る日々。笑いながら泣けて、泣きながら学べる新感覚の闘病エッセイ。
プロフィール
ライター
1985年生、都内在住。2024年5月にステージⅢcの大腸がん(S状結腸がん)が判明し、現在は標準治療にて抗がん剤治療中。また、一時的ストーマを有するオストメイトとして生活している。日本酒と寿司とマクドナルドのポテトが好き。早くこのあたりに著書を書き連ねたい。