減量の科学 第11回

「腹やせ」のための9つの運動習慣…科学的減量法③ 

福田正博

 これまでにも触れたように、わたしは減量の基本として、内臓脂肪を減らすための「腹やせ」を提唱しています。第9回第10回では食事編を紹介しました。今回は「運動法」について医学的に、してはいけないことを含めて紹介します。

 内臓脂肪は、「健康に害をもたらす悪玉ホルモンを分泌している」こと、また「皮下脂肪に比べて、つきやすいけれど行動次第で落ちやすい」と述べました。内臓脂肪は血流が多く、代謝が活発でホルモンの影響を受けやすいため、食事による調整や運動による刺激で減少しやすいのです。

 おなかまわりのサイズが1cmダウンすると、内臓脂肪は1キログラム減ったことに、またそのカロリーは約7,000kcalに匹敵します。おなかまわりと体重はもちろん、連動しています。おなかまわりに着目し、「目標:1カ月で1cmダウン」として、食事法と併行して運動を実践していきましょう。

■運動で「腹やせ」がかなう理由

 運動をすると内臓脂肪が減っておなかがへこむメカニズムには、主に次のようなことがわかっています。

内蔵脂肪がエネルギーとして優先的に使われるから……運動すると真っ先に使われるのが内臓脂肪で、減り始めるのも早い。

・筋肉から分泌されるホルモン「マイオカイン」が働くから……マイオカインは、筋肉が運動の刺激を受けて分泌する生理活性物質の総称。インターロイキン6やインターロイキン15、アイリシン、ミオネクチンなどがあり、これらが炎症を抑えて脂肪を分解するように働く。

血糖や脂質の調整が効率よくなるから……運動をすると筋肉が多くのエネルギーを必要とするため、血液中のブドウ糖(血糖)や脂質(脂肪酸)が使われる。これによってインスリンを使わなくても筋肉が血糖を取り込めるようになって、血糖値が下がりやすくなり、脂質も分解・利用されやすくなる。

中性脂肪(トリグリセリド)の分解(放出)と再合成(取り込み)の回転速度が上がるから……脂肪酸が筋肉で効率よく燃料として使われて、脂肪の代謝が活性化される。

 とくに有酸素運動後では、脂肪酸の利用が増えて、内臓脂肪の消費が促進されることがわかっています。それに、インスリン感受性の改善や炎症の抑制によって、脂肪の蓄積が抑えられるのです。どうですか、やる気になってきたのではないですか。

■各医学会が推奨する「運動の種類・時間・強度」は

「肥満症治療ガイドライン2022」(日本肥満症学会)では、減量や生活習慣病の予防と改善のための「運動療法プログラム」として、日本動脈硬化学会、日本高血圧学会、日本糖尿病学会、日本老年医学会がそれぞれに推奨する具体的な方法がまとめられています。

 その各方法は、WHO(世界保健機構)やACSM(アメリカスポーツ医学会)のガイドラインも含めて共通事項が多くあり、国内外の専門学会によるコンセンサスといえます。

 そこで、これらをもとに、わたしが整理した情報を次に簡潔に紹介します。どれも知られていることかもしれませんが、健康への有効性が立証されている事実情報や実践法だと確認すると、腹やせへの意欲のアップ、もしくは意欲がダウンしたときの再トライのきっかけとなるでしょう。

種類>

ウォーキングや水泳、サイクリングなどの「有酸素運動」を中心に、「レジスタンス運動」(軽度の筋トレ)と「ストレッチ」を併用する。

<時間

有酸素運動は1回30〜60分を週5回程度(週150〜300分)。レジスタンス運動やストレッチは週2~3回。

強度>

個人差が大きいため、客観的な測定ではなく、医療や介護の現場で使われるボルグスケール(スウェーデンの心理学者グンナー・ボルグが開発)という「主観的な運動強度」を指標とする。同スケールは6~20の数値(RPE:Rating of Perceived Exertion)で表される。

6(非常に楽。安静時)、9(かなり楽)、11~13(少しきつい・息が上がるが会話はできる程度)、15~17(かなりきつい。汗が出て話すのは大変)、20(非常にきつい。これ以上は無理)が指標。

導入期は9・10程度、慣れてきたら11~13程度で行う。なお、13程度の運動を継続することが減量にはちょうど良いとされる。

心拍数の目安は、自分の最大心拍数(220−年齢)の60〜75%程度(60歳なら100~120ぐらい)だが個人差が大きいので、こだわらずに主観的な運動強度を参考にする。

<その他>

・座位行動(座ったまま)を減らすことが運動療法となる。30分に1回、長くても1時間に1回は立ち上がる、歩く、運動をすること。

・ウォーキングをはじめ、どの運動も1回5分ごとの「細切れ」でもよい。

・現時点より1日に10分(約1000歩)多く歩く

■「腹やせウォーキング」を実践する

 有酸素運動の中でも、わたしがもっとも勧めるのはウォーキングです。その理由は周知のように、ウォーキングは内臓のみならず、脳、筋肉、関節、骨への負荷が軽い一方で、各臓器や器官、血管、脳への健康効果が世界中の医療界で認められていること、また患者さんのウォーキングの実践による心身の変化を日々目の当たりにしていること、さらにわたし自身、ウォーキングで減量して体重や腹囲をキープできている経験(後述)などからです。

 そこでわたしは、「腹やせウォーキング」「糖尿病ウォーキング」と呼んで、内臓脂肪減少を目指した運動を提案し続けています。

 腹やせのためのウォーキングは、特別なスキルは不要です。腰から背中を伸ばして姿勢をできるだけまっすぐにして、歩くだけです。そうすると、無意識にだらだらと歩いているときよりも、腹筋に自然に力は入っています。肩の力は抜きましょう。

 また、おなかに力を入れて息を軽く吐きながら歩くと、姿勢はよくなり、腹やせ運動として有用になります。「ドローイン」という、息を吐きながらおなかをへこませ、浅い呼吸を続ける方法を意識して歩きます。すると背筋が伸びて、おなかから全身への負荷もそれなりにかかり、運動量はやや高くなります。

 歩き疲れると猫背になってくるので、早めに休憩やストレッチをはさんで、姿勢よく、またはおなかに力を入れて歩ける状態をキープするように意識してください。

 また先ほど、「ウォーキングをはじめ、どの運動も1回5分ごとの細切れでもよい」と述べました。これは運動実践にあたってのカギと言えます。

 細切れ運動でもよい理由は、合計の運動量こそが重要だからです。例えば、1日30分のウォーキングを「5分×6回」に分けても、心肺機能の改善や血糖・脂質の調整、カロリー消費といった健康効果はほぼ同じだと、多くの研究で示されています。

 また、食後の短時間歩行でも血糖の急上昇を抑えられることがわかっています。それに、疲れにくいので習慣化しやすい、忙しくても続けやすいというメリットがたくさんあります。

 短時間でも体を動かすことを積み重ねると、健康効果は十分に得られることを覚えておいてください。

■続々と報告される「座り過ぎは危険」の科学

 ここで強調しておきたいのは、近年、複数の研究で「座っている時間が長いと危険」だと指摘されていることです。これまで、長時間の飛行機、バス、自動車などじっと座ったままによるエコノミークラス症候群(血栓が血管を流れ、肺に詰まって肺塞栓を誘発する)は知られていました。しかしいまは、座位による弊害はそれ以外にも続々と報告されています。

 WHOは2020年11月に「身体活動および座位行動に関するガイドライン」を発表し、座りすぎ(座位行動)が心血管疾患、2型糖尿病、がん、死亡リスクの増加と関連していると明示しました。その日本語版ガイドラインがネット上で公開されています(※1)。

 オーストラリアの大規模コホート研究では、テレビ視聴時間(座位時間の代表的指標)が長いほど死亡リスクが高まることや、1日4時間以上テレビを観る人は、2時間未満の人に比べて死亡リスクが約1.46倍に上昇したとし、座位行動の健康リスクが喫煙や飲酒と並ぶ重要な問題であると警告しています(※2)。

「コホート研究」とは、特定の条件の集団を長期間追跡し、健康や生活状態の変化を調査する研究法です。

 日本の6万人を超える日本多施設共同コホート研究(J-MICC Study)でも、日中の座位時間が2時間増えるごとに死亡リスクが15%増加すると報告しています(※3)。

 また、2023年に発表された同コホート研究では、35〜69歳の女性36,023人を対象に、平均8.8年間追跡調査を行った結果、1日7時間以上座っている女性は、7時間未満の女性に比べて乳がん発症リスクが36%高いことが示されました。さらに、座位時間が長いと、たとえ運動習慣や日常の歩行時間が多くても、乳がんリスクの上昇を完全には打ち消せないことが報告されています(※4)。

 世界の複数の同様の研究を統合して全体の傾向などを分析する「メタアナリシス」(エビデンスレベルは高い)でも、座位行動が長い場合の乳がんのリスクが高いことを示しています。

 したがって、日常生活ではこまめに立ち上がる、ストレッチや軽い運動をする、立ち上がれないときは座ったままで足を揺らす(俗にいう「びんぼうゆすり」)、ふともも上げ、かかとやつま先の上げ下げ、肩まわし、上体や下半身ひねり、ふともも・ひざの裏・アキレス腱を伸ばすなどを行いましょう。

 座りすぎを避ける工夫が、心血管疾患や乳がんのリスクの低減に役立ちます。「非座位行動」を意識的、積極的に取り入れましょう。とにかく、立ち上がることを優先してください。

■危険! 運動をしてはいけないタイミングは

 ウォーキングの効能は、多くの医療機関、研究機関、厚生労働省など公的機関でも推奨されています。もちろん、その効果の科学的根拠は世界中にたくさん存在します。

 ただし、肥満や糖尿病、高血圧、脂質異常症など生活習慣病を予防、改善するためのウォーキングをはじめとする有酸素運動の実践法として、ひとつ注意点があります。

 それは、起床後すぐに、何も飲まず食わずで散歩やジョギング、ランニング、ゴルフなどの運動に出かけるのはよくない、ということです。とくに早朝の空腹時の高強度や長時間の運動、また、高齢者・糖尿病・低血糖、高血圧の傾向がある人のリスクは、多くの研究で指摘されています。

 睡眠中は血糖値や体温が下がっている、また汗をかいているので、起床直後は低血糖、低体温、軽い脱水状態にあります。さらに朝は気温が低いので血管が縮んでいること、交感神経が急に優位になるので血圧も不安定であり、つまり、エネルギー不足であり、運動にはもっとも適していないと考えられる状態です。

 いきなり運動をすると、低血糖による意識障害、血圧や心拍数の急上昇、頭痛、筋肉のけいれん、めまい、動悸、不整脈、心臓発作の危険性が高まる可能性があります。

 美容ダイエットを目的とする場合やアスリートの運動では、空腹時のほうが脂肪燃焼率が高いからと、朝いちばんにランニングなど、強度の高い運動をする人は多いようです。しかし、それはいわば、ガソリンを補給していない車で急発進するのと同じです。必ずエンコします。早朝ゴルフに出かけてグリーン上で心臓発作で突然死、という症例はいくつもあり、耳にしたことがある人も多いでしょう。

 運動前には必ず水分補給をし、最低でもヨーグルトやバナナなど、消化のよいものを食べてください。運動中も、のどが渇く前に水を飲みながら行いましょう。とくに暑い時期は注意が必要です。

ウォーキングで血糖値が下がりやすい時間帯は

 では、いつウォーキングを行うと効率的なのでしょうか。

 それは、朝食後、20分~2時間の間です。なぜならば、1日のうちでもっとも血糖値が上がりやすいタイミングは、朝食後だからです。

 朝は、ヒトの体のメカニズムとしてさまざまなホルモンが分泌されて血糖が上がりやすい時間です。朝食は少なめという人でも、朝食後は血糖が急上昇します。

 そして血糖値の1日の変動を考えると、朝食後の血糖値のピークが低いときは、昼食後のピークも低くなり、夕食後もまたピークが低くなることがわかっています(※5)。

 そのため、朝食後の血糖のピークを抑えるために、朝食後にウォーキングをすることが有用です。

 さらに、朝食後に運動するグループは、夕方の時間帯に運動するグループよりも体重減少効果が高かったという報告もあります(※6)。

 朝はちょうど仕事などに出かける時間帯でもあり、毎日の通勤タイムを利用して、駅が近い人はひとつ先の駅までウォーキングをしましょう。

 駅や会社、出先では、エレベーターやエスカレーターは使わずに階段の昇り降りを行います。街や駅、オフィス、自宅はスポーツジムのように利用できること、逆に言えば、スポーツジムに通わなくても日常の場所で細切れ運動ができるということです。

■わたしは通勤ウォーキングで減量した

 腹やせウォーキングの効果として、わたしの実体験を話します。わたしは40代のとき、BMIは26・腹囲は88cmで、メタボ診断寸前でした。これではいけないと思い、自宅の引っ越しをきっかけに、自動車での通勤をやめて、最寄りの駅までウォーキングをすることにしました。

 これにて、引っ越し前までは通勤時のウォーキングが5分だったのが、往復で40分に増えたのです。しかも坂が多いので、けっこうな運動量だなあと思いながら、腹やせウォーキングを心がけていました。

 すると、1日40分の通勤ウォーキングの開始から3ヵ月で体重が3㎏ダウンしたのです。それで気をよくして、これを毎日2年間続けたところ、当初より体重は合計10㎏も減量、BMIは22に、腹囲は6㎝ダウンとなりました。もちろん、第9回、第10回で述べた食事法は併行して実践していました。

 徐々におなかまわりが軽くなり、体の動きが軽快になっていったことがとても快適に思えたものです。それからすでに25年が経ちますが、これを機に、休日や出張でも、常に腹やせウォーキングを楽しむようになりました。リバウンドすることはなく、20年前のスラックスがまだはけます。

 また、運動療法を習慣にするには「楽しさ」や「仲間の存在」が大きな力になることも複数の研究で明らかになっています。

 当院では、クリニックのスタッフと患者さんがいっしょに、半日かけて約6〜8kmを歩くウォーキングイベントを年に1~2回、20年にわたって開催しています。大阪市内の中之島や大阪城のほか、少し足を伸ばして京都、奈良、さらに琵琶湖にまで遠征することもあります。単なるイベントではなく、自然や街の風景を楽しみながら無理のないペースで歩くことで、運動へのハードルを下げ、「歩くことの気持ちよさ」を体感してもらうこと、また、患者さんとスタッフが信頼関係を深めることを目的としています。

 患者さんの参加率も高く、「ひとりでは続かなかったウォーキングも、先生たちと話しながら歩くと、あっという間に時間が過ぎました」(60代・男性)、「糖尿病と言われてから生活が後ろ向きになっていたけれど、歩こう会に思い切って参加してから前向きになれました。次回が楽しみ」(50代・女性)、「景色を見ながら仲間と歩いて心も体もリフレッシュできました。HbA1cも下がってきてうれしい」(70代・女性)などと話されています。

 ウォーキングイベントは各地で開催されています。誰かといっしょに歩く機会を持ってみることも推奨されます。

■腹やせ筋トレ「カルユルスクワット」実践法

 レジスタンス運動とは軽めの筋トレのことです。いろいろな方法がメディアで紹介されていますが、年齢に限らず、自宅で誰もが安全にできる方法で、かつ腹やせに効率的な種類は「スクワット」です。

「スクワットがいいとよく聞くけど、きついし~」と言われることもありますが、わたしは「カルユルスクワット」(わたしが使っている呼称で、一般的な名称ではありません)を勧めています。「カルイ負荷で、ユルイ動作のスクワット」の略です。

 イスの背もたれや、自分にとって高さが適しているテーブルやキッチン台などを両手で持って、ゆっくりと腰を降ろします。太ももからおなかに力が入っていることに意識を向けましょう。ひざをつま先より前へ出さないように注意し、呼吸をとめないで肩の力を抜いてください。

 軽くゆるい動作がポイントで、1往復に数十秒をかけて行います。3~10往復を1セットとして、自分のペースでいつでも行ってください。

 実は、シットアップという、あお向けになってひざを曲げ、上半身を起こす動作は推奨できません。腰を痛めやすいのと、苦しいわりにはあまり効果が認められないからです。

 スクワットはおなかからふとももの筋肉を広く使うので、効率的であることがわかっています。

 それに「カルユルスクワット」なら、テレビを観ながらや歯磨きをしながら、洗濯物を干しながらなど、「ながら運動」として取り入れやすいでしょう。

「いつでも・どこでも・だれでも」カルユル運動療法5選

 次に、わたしが選んだ「カルユル」のレジスタンス運動を紹介しましょう。もちろん、各方法とも、健康や減量への効果のエビデンスは確立されていて、患者さんや一般の人たちに常に勧めています。軽くゆるい運動の積み重ねが、内臓脂肪を減少させるのです。

 いずれも、「猫背にならない」「肩の力を抜く」「呼吸を止めない」で行ってください。

1.ふともも上げ運動(その場マーチ)

方法:その場で足踏み。ひざを腰の高さくらいまで引き上げるイメージで、ゆっくり。ひじを軽く曲げて後ろに振る。もしくは、体の前で合わせた手にひざが付くように脚を上げる。椅子に座って行うのもOK。

場所:リビング、キッチンほか、家事や仕事の合間でも可能。

効能:下肢の筋力、バランス力の向上、内臓脂肪の燃焼促進。

エビデンス:有酸素性活動と同等の心拍上昇を示すとの報告あり。

2. 壁ドン・プッシュアップ(壁腕立て伏せ)

方法:壁に両手をついて腕立て伏せを行う。ひじをゆっくり曲げて戻す。10回×2セット。

強度を上げるときは、テーブルや机、キッチン台、洗面台を使う。

場所:壁、テーブル、机、キッチン台、洗面台など、動かない強固なものがあればどこでも。

効能:上半身の筋力強化、血糖値改善(筋グリコーゲン利用の増加)。

適応:高齢者や体力に不安のある方にも安全。

3.ペットボトルダンベル体操

方法:500ml~1Lのペットボトルに水を入れて手に持ち、腕の上げ下げ、左右の開閉、肩まわし運動など。

場所:椅子に座ってでも可。

効能:肩こり、血流改善、けんこう骨まわりの筋肉強化。

4. 足首回し・かかと上げ(着座中足運動)

方法:つま先を床につけたまま足首を回す(10回×2方向)。かかととつまさきを交互に上げ下げ(往復✕10回)。

場所:電車内、仕事中、診察待ち、イベント鑑賞などの座位時。

効能:下肢の血流促進、むくみ予防、静脈血栓(エコノミークラス症候群)予防。

5 立ち座り運動(椅子スクワット)

方法:椅子に座ってから立ち、腰を椅子の座面に向けて落とすが、立ち上がるときも座るときも、途中で腰を浮かしたまま10秒ほどキープする。これをゆっくりと10回くり返す。手は前へ水平に伸ばす、ウエストを持つなどが理想だが、きつい場合はふとももの上に置いてもよい。

場所:リビング、キッチン、オフィスなど椅子があればどこでも。

効能:ふとももや腹筋の強化、転倒予防、代謝促進。

■ストレッチは動脈硬化を予防する

 レジスタンス運動後は、ストレッチを行いましょう。いろいろな方法がネットなどで紹介されているので、自分に合ったものを探して試してください。

 わたしは仕事中でもウォーキング中でも運動後でも、いつでもできる方法として、腰のストレッチを習慣にしています。足を肩幅より少し広く開いて立ち、両方の手のひらをウエスト近くの背中側にあてて、背中をゆっくりそらせて3~10秒ほどキープ。数十秒ずつ休憩しながら、3回ほどくり返します。デスクワーク中なら座っていてもできます。

 最近の研究報告で、ストレッチが血管の柔軟性を改善し、動脈硬化の予防や改善に効果がある可能性が示されています。2020年に発表されたメタアナリシスでは、ストレッチは血管の内側をおおう血管内皮細胞の機能を向上させて、中高年者(middle-aged and older adults)の動脈硬化を有意に改善すると報告されています(※7) 。

 また、2015年の研究では、4週間の定期的な静的ストレッチが中年男性(middle-aged men)の動脈硬化を有意に低下させたことが示されています (※8)。

 これらの研究で興味深いのは、具体的な実践法として、各ストレッチを一定時間(10〜30秒)キープした後に、すぐに次の部位のストレッチを行わないで、「短い休憩(10~20秒)をはさむ」という方法が用いられていることです。

 この休憩中に、筋肉がゆるむことになって血流が促されるから、という理由です。すぐに次の部位のストレッチに移行すると、血流促進にならないといいます。この休憩をはさむアプローチが血管の柔軟性を高め、動脈硬化の予防や改善に関係すると考えられます。試してみてください。

■ウォーキングと筋トレ、効率的な実践の順番は

 内臓脂肪の減少が主目的の場合 は、 筋トレを先に、次にウォーキングなど有酸素運動を行うのが効果的であることがわかっています。

 理由は、筋トレで成長ホルモンやアドレナリンが分泌されて脂肪分解が促され、その後の有酸素運動で、遊離脂肪酸が効率よく燃えるからです。筋トレで「放出」された脂肪酸を、有酸素運動で「燃焼」するという段取りです。

< 効率的な内臓脂肪減少運動順>

・5分程度、軽く準備運動をする(手や足の関節や腰を回すなど)

・10分程度、レジスタンス運動(カルユルスクワット、壁プッシュアップ、ペットボトルダンベル運動など)

・20~40分、有酸素運動(ウォーキングなど)

・5~10分、ストレッチでクールダウン

 今回のタイトルに記した、「9つの運動習慣」をまとめると、紹介した順に、「腹やせウォーキング」「座位から立ち上がる」「カルユルスクワット」「筋トレ5選」「腰ストレッチなど自分でストレッチ」です。

 歩数や運動量と体重、腹囲などを記録するアプリを活用すると習慣化や意欲アップにつながることも多くの研究でわかっています。それについては、次回「行動療法編」で紹介しましょう。 

参考

※1 WHO 身体活動および座位行動に関するガイドライン

https://www.nibn.go.jp/eiken/info/pdf/WHO_undo_guideline2020.pdf?utm_source=chatgpt.com

※2 Dunstan DW, Barr EL, Healy GN, Salmon J, Shaw JE, Balkau B, et al. Television viewing time and mortality: the Australian Diabetes, Obesity and Lifestyle Study (AusDiab). Circulation. 2010;121(3):384-91.

※3 Koyama S, Matsuo K, Tsuji I, Tamakoshi A, Nakamura K, Nakagawa T, et al. Effect of Underlying Cardiometabolic Diseases on the Association Between Sedentary Time and All‐Cause Mortality in a Large Japanese Population: A Cohort Analysis Based on the J‐MICC Study. Journal of the American Heart Association. 2021;10(13)

※4 Koyama S, Matsuo K, Nakamura K, Nakagawa T, Lin Y, Hamajima N, et al.
Sedentary Time and Breast Cancer Risk in Japanese Women: A Large-Scale Population-Based Prospective Study (the J-MICC Study).Cancer Epidemiol Biomarkers Prev. 2023 Dec;32(12):1455–1462.

※5 van Dijk JW, Venema M, van Mechelen W, Stehouwer CD, Hartgens F, van Loon LJ.
Effect of moderate-intensity exercise versus activities of daily living on 24-hour blood glucose homeostasis in male patients with type 2 diabetes. Diabetes Care. 2013;36(11):3448–53.

※6 Willis EA, Creasy SA, Honas JJ, Melanson EL, Donnelly JE.The effects of exercise session timing on weight loss and components of energy balance: midwest exercise trial 2. Int J Obes (Lond). 2019 Jul 9;44(1):114–124.

※7 Yamato Y, Fukuda T, Yoshikawa T, Yamato M, Tanaka H, Yamaguchi T. Effects of stretching on arterial stiffness: A systematic review and meta-analysis. J Sports Med Phys Fitness. 2020 Sep;60(9):1257–1265. doi:10.23736/S0022-4707.20.10424-0.

※8 Nishiwaki M, Kurobe K, Kiuchi A, Nakamura Y, Matsumoto N. Four weeks of regular static stretching reduces arterial stiffness in middle-aged men. SpringerPlus. 2015 May 8;4:555.

構成:阪河朝美/ユンブル

 第10回
減量の科学

現在、世界ではダイエット目的にて、自由診療での「やせ薬」の購入や個人輸入によるニーズが急増している。もちろんそれは、日本も例外ではない。こうした動きを背景に、従来の「食事がまんダイエット」は「薬に頼るダイエット」に変わりつつある。しかし、果たして健康への影響はどうか。人体にとって必要な減量とは何か、どうすれば減量できるのか、減量治療の最前線から、それらを紹介する。

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プロフィール

福田正博

大阪府生まれ。医学博士。日本糖尿病学会専門医。日本臨床内科医会専門医。大阪府内科医会名誉会長。日本臨床内科医会副会長。全国臨床糖尿病医会理事ほか。医療法人弘正会ふくだ内科クリニック院長。滋賀医科大学卒。大阪大学医学部老年医学講座(第四内科)入局後、ハーバード大学・ジョスリン糖尿病センターに留学。所属学会:日本糖尿病学会、日本内科学会、日本臨床内科医会、日本病態栄養学会、日本肥満学会、日本老年病学会、全国臨床糖尿病医会。著書に『糖尿病は自分で治す!』『糖尿病は「腹やせ」で治せ!』『専門医が教える 糖尿病ウォーキング!』『専門医が教える5つの法則 「腹やせ」が糖尿病に効く!』『専門医が教える 糖尿病食で健康ダイエット』ほか。医学会、一般向き講演、テレビ等のメディアでの出演も多数。

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