「疎外感」の精神病理 第1回

現代日本人の心理を読み解く重要なキーワード「疎外感」

和田秀樹

中高年以降にも広がり続ける「引きこもり」

 

多くの患者さんだけでなく、世の中全般の人たちを精神科医の立場からみると、この手の素直に人に頼ることができないでなんらかの形で苦しんでいる人はとても多いように思えます。

人とうまくつながれない、そのように安心してつながっている感覚がもてないので、なんとなく疎外感を覚えているというような気がします。

実は、この疎外感こそが日本人の心の問題の中心テーマだと私は考えるようになりました。

引きこもりが社会問題になってから30年以上経ち、8050問題という言葉が話題になりました。

子どもの頃に引きこもりになった人が50歳まで引きこもりを続け、親が80歳になり面倒がみられなくなってしまうという悲惨な状況ですが、確かに、人間というのはいちど引きこもってしまうとかえって人と接することがこわくなり、また疎外感を膨らませていくので、引きこもり状態がズルズルと長くなってしまうのです。

実は、内閣府の実態調査によれば、初めてひきこもり状態になった年齢が19歳までの人はわずか2.1%にすぎず、4割近くの人は50歳を過ぎてから引きこもりになったとされています。

「引きこもり状態になったきっかけ」の1位が退職でした。

会社をやめてしまうと人間関係がもてず、そのまま引きこもりになってしまうということですが、退職をきっかけに強い疎外感をもち、もう人間関係にかかわれないという絶望が生じてしまう人が少なくないというのは、精神科医の目からみても確かなことです。

大阪の精神科クリニックの放火事件も、私自身がカウンセリングのクリニックも自営しているので、ショッキングな事件でしたが、自らも火の中に飛び込み死亡した容疑者は40代の後半に離婚、退職が立て続き、その後は引きこもり生活を送っていたとのことです。

人を巻き添えにして死のうという考え方は特殊なものであっても、このような形で疎外感をつのらせている人が少なくないのは確かなことでしょう。

私も高齢者の精神科医を本業としているのですが、引きこもりは若い人の問題というより中高年以降の重大な問題だと考えるようになりました。

さらにいうと、若いころの引きこもりと違って、声をかけてくれる家族がいなくなってしまうという深刻な問題もあります。

それを福祉とつないで、人とのつながりを復活させていくというのも精神科医の重要な仕事となってきたのですが、そういうスタッフになかなか心を開いてくれず、疎外感が収まらないというのは、悩みの種といえるものです。

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「疎外感」の精神病理

コロナ孤独、つながり願望、スクールカースト、引きこもり、8050問題……「疎外感」が原因で生じる、さまざまな日本の病理を論じる!

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プロフィール

和田秀樹

1960年大阪府生まれ。和田秀樹こころと体のクリニック院長。1985年東京大学医学部卒業後、東京大学医学部付属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェローなどを経て、現職。主な著書に『受験学力』『70歳が老化の分かれ道』『80歳の壁』『70代で死ぬ人、80代でも元気な人』『70歳からの老けない生き方』『40歳から一気に老化する人、しない人』など多数。

 

 

 
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