宇都宮直子 スケートを語る 第15回

三日間

宇都宮直子
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 11月28日、フリーダンス。

 会場の様子は、昨日と変わらない。静かに、熱を帯びている。

 髙橋、村元組は、「ラ・バヤデール(振り付け、マリーナ・ズエワほか)」で踊る。クラシックなバレエ曲である。

 結果から言う。彼らの成績は3組中3位だった。優勝した小松原組との点差は、20点以上あった。

 プロトコルを見ても、足りないところを突きつけられた形だ。

 髙橋はツイズルで姿勢を崩して、リンクに両手をついた。ほかにも「取りこぼし」はいくつもあった。

 だが、だがである。

 彼らは、ほんとうに綺麗だった。

 流れはまだぎこちないが、濃密な空気感が「ラ・バヤデール」の「愛と死」をよく表現している。日本人同士のカップルでは、なかなか出せない雰囲気だと思う。

 髙橋へ、村元(とても美しかった)へ拍手を送るために、私はまた立ち上がる。ズエワにも拍手を送りたい気分だった。素晴らしいプログラムだ。

 アイスダンスに、「愛と死」は不可欠である。でも、急造のカップルが、溶けるように熱く演じるのは難しい。

 この意味において、髙橋、村元組は、最善のスタートを切ったと言えるのではないだろうか。

 彼ら独自の世界観に、大いに期待している。楽しみだ。

 

 11月29日、エキシビション。

 髙橋大輔は、解放されたような表情でインタビューに答えていた。

「このコロナ禍の中で、皆さんの前で披露することが出来たことが貴重な経験でしたし、このような場に出場することが出来たことを嬉しく思います」

「(目標を記したフリップを示しながら)『目指せ!キングカズ』。

 本当に難しいことですが、それくらいのメンタリティでこれからやっていかないと、目標にはたどり着かないと思うんで。すごく大きすぎる目標を書かせて頂きました。

 年齢制限は決めておりません。できる限りやります」

 エキシビションは、華やかな光に満ちていた。コロナ以前の雰囲気を思い出す。選手が口々に言っていた。

「観客の前で滑ることが出来て幸せだ」。

 

 エキシビションが終了し、選手がリンクを去ると途端に寒さを感じた。

 場内アナウンスはコロナの対策のため、ブロックごとの退場を促している。人々は少しずつ、動き出す。

 NHK杯の三日間が終わった。

 

 

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宇都宮直子 スケートを語る

ノンフィクション作家、エッセイストの宇都宮直子が、フィギュアスケートにまつわる様々な問題を取材する。

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プロフィール

宇都宮直子

ノンフィクション作家、エッセイスト。医療、人物、教育、スポーツ、ペットと人間の関わりなど、幅広いジャンルで活動。フィギュアスケートの取材・執筆は20年以上におよび、スポーツ誌、文芸誌などでルポルタージュ、エッセイを発表している。著書に『人間らしい死を迎えるために』『ペットと日本人』『別れの何が悲しいのですかと、三國連太郎は言った』『羽生結弦が生まれるまで 日本男子フィギュアスケート挑戦の歴史』『スケートは人生だ!』ほか多数。2020年1月に『羽生結弦を生んだ男 都築章一郎の道程』を、また4月には『三國連太郎、彷徨う魂へ』が刊行されている。

 

 
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