宇都宮直子 スケートを語る 第15回

三日間

宇都宮直子

 大阪府門真市で開催されたグランプリシリーズNHK杯に行ってきた。

 髙橋大輔のアイスダンスデビューを観に行った、そう言ってもいいだろう。

 三原舞依の演技に、胸が熱くなった(ちょっと涙が出た)。坂本花織に手が痛くなるくらい拍手をした。彼女のなんと爽快なことか。ブノワ・リショーのプログラムがとてもよく似合っている。

 鍵山優真に、男子シングルの明日を確信した。佐藤駿はジャンプが入らなかったが、それも「この試合では」である。だいじょうぶ、先は明るい。陽が差している。

 ほかにも、あれこれと思った。

 それでも、やっぱり、私は髙橋大輔を観に行ったのだ。彼のダンスを、ずっと観たいと思っていた。

 

 11月27日、リズムダンス。3組が出場する。

 会場には大勢の観客がいる。席は一つあきで座る。

 マスクの着用はもちろん、入り口での検温、手の消毒等、新型コロナウイルス感染症への配慮が感じられる。

 ただ、席の間隔はもっと取ってもよかったかもしれない。大会前後の状況(増悪)を思えば、少し入りすぎていたように思う。難しいところだ。

 一方、観客はマナーがよかった。歓声は聞こえない。拍手は大きく、温かい。独特の雰囲気がある。

 昨シーズンまでは、ダンスに関心を持つ人は少なかった。日本選手だけの試合は特にそうで、満席になるのを見たことがない。

 それがどうだろう。客席の大部分が埋まり、バナーが振られている。指を組んで、祈る人もいる。

 髙橋大輔、村元哉中組は、1番スタートだった。使用曲は「ザ・マスク(振り付け、マリーナ・ズエワほか)」。

 髙橋が村元と手をつないで、リンクにいるのが新鮮だった。なんとなく不思議な気もする。

 演技の詳しい論評は、ここではしない。識者にきちんと取材をし、いずれと考えている。少し訊いた範囲では、「可能性を感じる」、「華がある」だ。

 まあ、それはある意味、初めからわかっていた。挑戦しているのは髙橋大輔である。勝算がないわけがない。

 私はメモを取る。

「短期間でよくここまで。足が揃っている。びっくり」

 演技後は、スタンディングオベーションに参加した。涙目になりながら、である。

 足元が少し重かったり、「頑張っている感じ」は伝わってきた。たぶん、それらは、月日が解決するのだと思う。「とき」を急がず待ちたい。

 日本のトップ、2019年全日本チャンピオンの小松原美里、コレト・ティム組には「意地」を感じた。

 彼らは勝つべきだったし、勝たなければならなかった。

 結成5季目の小松原組にとっても、この試合は刺激になったろう。新しい風が吹き、ここからまた始まるのだ。

 アイスダンスが終わると、結構な数の観客が席を立った。出口に向かっている。

 驚いて、メモを取る。

「男子ショートの前に観客が帰っている。こんな日が来るなんて」。

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宇都宮直子 スケートを語る

ノンフィクション作家、エッセイストの宇都宮直子が、フィギュアスケートにまつわる様々な問題を取材する。

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プロフィール

宇都宮直子
ノンフィクション作家、エッセイスト。医療、人物、教育、スポーツ、ペットと人間の関わりなど、幅広いジャンルで活動。フィギュアスケートの取材・執筆は20年以上におよび、スポーツ誌、文芸誌などでルポルタージュ、エッセイを発表している。著書に『人間らしい死を迎えるために』『ペットと日本人』『別れの何が悲しいのですかと、三國連太郎は言った』『羽生結弦が生まれるまで 日本男子フィギュアスケート挑戦の歴史』『スケートは人生だ!』『三國連太郎、彷徨う魂へ』ほか多数。2020年1月に『羽生結弦を生んだ男 都築章一郎の道程』を、また2022年12月には『アイスダンスを踊る』(ともに集英社新書)を刊行。
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