大阪府門真市で開催されたグランプリシリーズNHK杯に行ってきた。
髙橋大輔のアイスダンスデビューを観に行った、そう言ってもいいだろう。
三原舞依の演技に、胸が熱くなった(ちょっと涙が出た)。坂本花織に手が痛くなるくらい拍手をした。彼女のなんと爽快なことか。ブノワ・リショーのプログラムがとてもよく似合っている。
鍵山優真に、男子シングルの明日を確信した。佐藤駿はジャンプが入らなかったが、それも「この試合では」である。だいじょうぶ、先は明るい。陽が差している。
ほかにも、あれこれと思った。
それでも、やっぱり、私は髙橋大輔を観に行ったのだ。彼のダンスを、ずっと観たいと思っていた。
11月27日、リズムダンス。3組が出場する。
会場には大勢の観客がいる。席は一つあきで座る。
マスクの着用はもちろん、入り口での検温、手の消毒等、新型コロナウイルス感染症への配慮が感じられる。
ただ、席の間隔はもっと取ってもよかったかもしれない。大会前後の状況(増悪)を思えば、少し入りすぎていたように思う。難しいところだ。
一方、観客はマナーがよかった。歓声は聞こえない。拍手は大きく、温かい。独特の雰囲気がある。
昨シーズンまでは、ダンスに関心を持つ人は少なかった。日本選手だけの試合は特にそうで、満席になるのを見たことがない。
それがどうだろう。客席の大部分が埋まり、バナーが振られている。指を組んで、祈る人もいる。
髙橋大輔、村元哉中組は、1番スタートだった。使用曲は「ザ・マスク(振り付け、マリーナ・ズエワほか)」。
髙橋が村元と手をつないで、リンクにいるのが新鮮だった。なんとなく不思議な気もする。
演技の詳しい論評は、ここではしない。識者にきちんと取材をし、いずれと考えている。少し訊いた範囲では、「可能性を感じる」、「華がある」だ。
まあ、それはある意味、初めからわかっていた。挑戦しているのは髙橋大輔である。勝算がないわけがない。
私はメモを取る。
「短期間でよくここまで。足が揃っている。びっくり」
演技後は、スタンディングオベーションに参加した。涙目になりながら、である。
足元が少し重かったり、「頑張っている感じ」は伝わってきた。たぶん、それらは、月日が解決するのだと思う。「とき」を急がず待ちたい。
日本のトップ、2019年全日本チャンピオンの小松原美里、コレト・ティム組には「意地」を感じた。
彼らは勝つべきだったし、勝たなければならなかった。
結成5季目の小松原組にとっても、この試合は刺激になったろう。新しい風が吹き、ここからまた始まるのだ。
アイスダンスが終わると、結構な数の観客が席を立った。出口に向かっている。
驚いて、メモを取る。
「男子ショートの前に観客が帰っている。こんな日が来るなんて」。
ノンフィクション作家、エッセイストの宇都宮直子が、フィギュアスケートにまつわる様々な問題を取材する。