連載:座間9人殺害事件裁判 第5回

座間9人殺害事件裁判「口封じ」

共同通信社会部取材班
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日本犯罪史上まれに見る猟奇的な大量殺人「座間事件」。白石隆浩被告が死刑判決を受けるまで、計24回の公判をすべて記録した記者たちによる詳細なレポート。 

白石隆浩被告が凶悪な犯行を繰り返していた間、9人の被害者とは別に、犯行現場の部屋に出入りしていた2人の女性の存在が明らかになった。いずれも殺害されずに生き残ったのは、2人が被告の「金づる」になっていたから。一歩間違えば、被害者は11人になっていたかもしれなかった。

※白石隆浩被告は2021年1月5日に死刑判決が確定し、呼称は「白石隆浩死刑囚」に変わりましたが、この連載では変わらず「被告」と表記します。

2017年11月、東京地検立川支部に入る白石隆浩被告。写真提供 共同通信社/ユニフォトプレス

 

 2020年10月12日。第6回公判は、2番目の被害者である女子高校生、Bさんについて審理が進んでいた。白石被告は相変わらず、検察側や裁判官の質問には丁寧に応じる一方、弁護側の質問には黙秘したかと思えば、一転して答えるなど、いい加減な態度で応じている。

 この日の審理でも、「金と性欲」という動機と、連続殺人との間の「飛躍」が焦点になっている。裁判長の隣に座る女性裁判官は、被告にこう尋ねた。

 「被告は金と性欲のうち、優先順位は金が上だと言ったが、検察側の質問に対しては性欲と言った。食い違っているようにも聞こえますが」

 白石被告は冗舌に答える。「正確には、まず目的は会うこと。次は金になるかならないかの判断をします。金にならなければレイプしようということです。定期的にお金を引っ張って、お付き合いのようなことができればレイプはしません」

 そして、どこか得意げにこんなことを言い出した。

 「仮にXさんとYさんと呼びますが、別の知り合いもいました。知り合って、部屋に入れたけど、殺害していない女性がいます」

 連続殺人をしている部屋に招き入れられ、しかも生還した女性が2人もいた。傍聴席に驚きが広がる。

 被告の供述によれば、Xさんと連絡を取っていた期間は、最初の被害者であるAさんと会う前から逮捕されるまで、2カ月超に及んだ。Yさんは9月中旬から下旬までの約10日間、アパートで暮らした。2人ともやはり「死にたい」と言っていた。被告が悩みを聞いたり、口説いたりしながら、洋服を買ってもらうなど、お金を引っ張る関係に持ち込んだという。うち1人は、被害者の遺体を浴槽で解体していた際に部屋にいたことも明かされた。

 裁判官「金を出してくれれば殺さない、出してくれなければ性欲を満たして殺すことを想定していたのですか」

 白石被告「そうです」

 

 被告は5つのツイッターアカウントを駆使し、多くの女性と連絡を取り合っていた。「首吊り士」と名付けたアカウントでは「自殺を手伝うか殺してあげる」という姿勢で臨み、別のアカウントでは「一緒に自殺する」という姿勢で臨むといった具合に、使い分けていた。逮捕後の捜査によって、被告がやりとりしていたアカウント数は37と判明。1人1アカウントだったと考えると、37人と連絡を取っていたことになる。最終的に4人の「金づる候補」がいたという。

 被告は当初、高校生のBさんからもお金を引き出せないかと考えていた。

 白石被告「バイトをしていて貯金があるとか、親が金持ちとかを予想していた」

 ただ、17年8月28日、白石被告のアパート近くでBさんに会った後は、金を引っ張るのは難しそうだと感じた。代わりに「当時はAさんをレイプした快感が忘れられず、またしたくなっていました。金にならなければレイプしようと思っていました」

 Bさんは家庭や勉強のことで悩んでいた節があった。被告はBさんに家出願望があることを感じ取り、こう持ちかけた。

 「いまここら辺で働いて1人暮らししているから、良かったら俺んちに来て、しばらく居候みたいな形で養ってあげるよ」

 Bさんは「本当ですか。お願いします」とあっさり応じた。警戒している様子もない。

白石隆浩被告とBさんが事件前に一緒に歩いた公園(神奈川県座間市)

 同日、被告は真の目的を隠したままBさんを部屋に導き入れた。Bさんは「これ何ですか」と、Aさんが室内に残した精神安定剤に興味を示したという。

 「気持ちが安定するよ」と精神安定剤やアルコールを勧めると、Bさんは両方ともためらわずに口にした。しばらくして効果が出たのか、ぐったりしたBさんに被告が襲いかかった。Aさん殺害時と同様に、失神させてレイプし、殺害した。

 

 ▽口止め

 審理は次に、唯一の男性被害者であるCさんの事件へ移った。動機が金でも性欲でもない唯一の殺人だ。12日だけでは終わらず、14日の第7回公判でも引き続き審理された。

 「お久しぶりです。この前は失敗して申し訳ありませんでした。またお願いしたいと思います」

 白石被告の弁護人が紹介したこのメッセージは、8月28日午後3時過ぎにCさんが被告宛てに送ったラインでのものだ。被告がBさんを自宅に誘い込もうとしていたころだった。

 Cさんはさらにラインのメッセージを次々に送信。「苦痛は多少あっても構いません。Aさんにやった方法でお願いします」「最中に何か言っても無視してください」「寝落ちしたところを、思いっきり引っ張ってください」とも告げていた。

 最初のメッセージにある「失敗」とは、AさんとCさんの自殺を被告が手伝うはずだった8月14、15日のことを指している。「Aさんにやった方法」とは、自殺をとりやめて3人で酒を飲んだ際、柔道部出身の被告がAさんの背後から服の襟で首を絞める技を見せたことを指している。Cさんは自殺の手伝いを再び依頼したことになる。

 白石被告は「金になればいい」くらいに考えていた。法廷でも「Cさんが金にならなければ、死に関わるつもりはありませんでした」と語った。しかし、事態は急転する。

 Cさんはこのとき、Aさんが既に亡くなっているとは知らなかったようだ。「Aさんにも声を掛けてますが、来ないなら無視で」というメッセージを被告に送っている。さらにCさんはこう続けた。「Aさんの電話から、(Aさんの)親がかけてきたので切ってブロックしました」

 この言葉を聞いた被告は、にわかにCさんの殺害を決意する。

「金以外に、証拠隠滅という明確な目的が加わりました。Cさんの口からAさんの家族に私の情報が漏れないように、口止めしようと思いました。後日、Cさんのもとに警察が取り調べに来て、Cさんが私の名前を出すとまずいと思い、生かしておくとリスクが高いと判断しました」

 被告にとっては幸いなことに、Cさんは自分に自殺の手伝いを求めている。これを利用しようと思った。唯一の懸念は、過去に「自殺をやめます」と言ったこと。しかし、白石被告は「その時は強引に殺害しようと考えました」と法廷で振り返っている。

 

 Cさんは音楽が好きで、高校時代は現代音楽部に入っていた。ベースを担当し、文化祭のバンドで演奏を披露していた。高校卒業後は障害者支援施設で働いた。対人関係をうまく築くのが苦手だったらしく、同じ思いを持つ人たちを支えたいという思いからだった。バンド活動も続けていた。生前、ライブは楽しかったと周囲に話していたが、一方ではつらいとも感じていたようだ。

 法廷では、Cさんと他のメンバーとのラインのやりとりが紹介された。ライブの動画を編集する仕事を任されたCさんが、メンバーから文句を言われて平謝りしている。人間関係に苦しんでいたようだ。

 対照的に、白石被告とのやりとりでは生き生きとしている。

 Cさん「ありがとうございました。おれ、これからはちゃんと生きていきます」

 白石被告「まだ全然頑張れると思うよ。バンドのメンバーとうまくいかなかったら、他のバンドに入るのは難しいんですか」

 C「難しいですが頑張ってみます。また何かあったらよろしくお願いします」

 白石「そのうちいいことあるよ。せっかく来たんだから、ご飯でもどうですか」

 

 このときのCさんは、どんな心理状態だったのか。専門家に聞いてみた。自殺志願者の電話相談を夜間に受けるNPO法人「国際ビフレンダーズ 東京自殺防止センター」の村明子理事は、「Cさんに限らず、悩みをきちんと聞いてくれる被告の存在が、被害者には神様のように見えていたのではないか」と話した。

 Cさんはバンド活動に悩んでいただけでなく、交際していた女性と別れたこともショックだったようだ。それでも、白石被告と話しているうちに活力を取り戻していった。しかし、被告がCさんに寄り添うような言葉をかけ続けたのは、おびき寄せて口封じをするためだった。

 「以前のように公園で自殺させる考えは捨て、確実に自宅に誘い込んで殺害しようと考えました」

 Bさん殺害翌日の29日、思惑通りにCさんをアパートへ呼び寄せた。既にBさんの遺体は片付けている。Cさんと2人で、夜遅くまで話をしたという。

 「Cさんの悩みを深掘りし、ホスト、スカウトの仕事を具体的に説明しました。バンドメンバーや職場に不満がたまっていていたので、『行方をくらまして別の仕事をやってみないか』と伝えると、Cさんは乗り気になり、ちょっと話を聞くようになった。それで『頑張れば大きな収入が得られる。女性に困らない』ということを話した」

 Cさんから「死にたい」といった言葉は、もう出なかった。

 日付が変わった翌30日午前1時26分、白石被告がユーチューブで「ニルヴァーナ」と検索したことが法廷で明らかにされた。ニルヴァーナはグラミー賞の受賞歴もある米国の人気ロックバンドだ。被告によると、Cさんが「聞きたい」とせがんだという。

 Cさんの高校時代の友人によると、「ニルヴァーナが大好きで、いつもかっこいいと言っていた」。

 このときの様子を、被告は法廷でこう説明している。

 「推察が交じりますが、Cさんに『これ良くないですか』と聞かれて、私としては興味ないのですが『いいね』と共感を示したと思います。Cさんは『でしょ?』という反応を示したと推察します」

 ニルヴァーナの動画を見るCさんを、白石被告は観察し続けた。酒か薬が効いて、だるそうになっていると見て取り、背後に回っていきなり首を腕で絞めた。Cさんは被告の頭をたたいたり、髪の毛や耳を引っ張ったりして必死に抵抗したが、ついに力尽きた。

 

 翌31日の夜、白石被告は「何人殺せば死刑になるか」というサイトを閲覧している。検察官にその理由を問われると、「この時点で3人殺害してしまったので、いま捕まったら自分がどうなるか知るために検索しました」と話した。

 一般論だが、1人で3人殺害すれば死刑になる可能性は高い。ネット検索をした被告もそうと知ったはずだ。それでも、「(さらに)レイプしたい欲求はあり、発散しようと思いました」と振り返った。発覚すれば死刑と知りつつ、さらに次の被害者へのアプローチを進めていた。

(つづく)

 

 執筆/共同通信社会部取材班

 

 第4回
第6回 

プロフィール

共同通信社会部取材班

※この連載は、2020年9~12月の座間事件公判を取材した共同通信社会部の記者らによる記録です。新聞を始め、テレビ、ラジオなどに記事を配信している共同通信は、事件に関連する地域の各地方紙の要請に応えるべく、他のメディアと比較しても多くの記者の手で詳細に報道してきました。記者は多い時で7人、通常は3人が交代で記録し、その都度記事化してニュース配信をしました。配信記事には裁判で判明した重要なエッセンスを盛り込みましたが、紙面には限りがあります。記者がとり続けた膨大で詳細な記録をここに残すことで、この事件についてより考えていただければと思い、今回の連載を思い立ちました。担当するのは社会部記者の武知司、鈴木拓野、平林未彩、デスクの斉藤友彦です。

 
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座間9人殺害事件裁判「口封じ」

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