韓国カルチャー 隣人の素顔と現在 第2回

韓国人が考える、「大人の責任」 ドラマ『未成年裁判』とそのベースとなった現実の事件

伊東順子

韓国人が推す、話題のドラマ

 

 またまた韓国ドラマの大ヒット作が登場した。2月25日にNetflixで配信がスタートした『未成年裁判』(原題『少年審判』)、翌週には同配信のグローバルトップ10(テレビ・非英語)で1位に浮上した。

 『イカゲーム』、『地獄が呼んでいる』、『今、私たちの学校は…』に引き続き、韓国ドラマの強さは圧倒的ともいえるのだが、前3作と大きく違うのは、この『未成年裁判』は韓国国内でも非常に評価が高いということだ。過去には「ごめんね、見ていないの。ああいうのは苦手で……」と、私からの度重なる問い合わせに苦笑いをしていた友人たちも、今回ばかりは違う。

 「1話から引き込まれて、10話まで一気に見てしまった」(50代女性)

 「これまでの3作は視覚や音響などエンタメとしての作りが上手だったということ。でも今回の『未成年裁判』はちょっと違います。オススメです」(20代男性)

 これは印象だけれど、韓国の若者は自国の作品については評価がとても厳しい。業界関係者はなおさらである。前回、『今、私たちの学校は…』を10点満点中6点と言っていた映画業界にいる20代男性も、今回の『未成年裁判』は珍しく褒めていた。もっとも彼は『ドライブ・マイ・カー』(濱口竜介監督、2021年)にとても感動したそうで、そちらについてさらに熱く語ってくれたのだが。

 珍しく(?)自国でも大人気という『未成年裁判』だが、内容は原題にあるように「少年審判」の法廷を舞台にしたものだ。韓国では以前から「少年法」を巡っての議論が起きているが、本作はそこに真っ向から挑んでいる。

 

非行少年を憎む女性判事

 

 それは1球目からど真ん中のストレート勝負という豪腕ぶりである。たとえばこんな台詞とか。

 「14歳未満は人を殺しても刑務所には入らないって、本当なんですか?」

 残虐な犯罪の容疑者として法廷に立った少年はニヤついた表情でうそぶく。それとの強いコントラストで描かれるのは、女性判事の冷酷な表情だ。

 「私は非行少年(韓国語では少年犯)を憎んでいます」

 主役のシム判事を演じるキム・ヘスは、1980年代半ばからずっとドラマや映画の第一線で活躍してきた大ベテラン女優。浮き沈みの激しい韓国芸能界にあって、ある意味で稀有な存在ともいえる。以前から変わらぬ大振りな演技は好き嫌いが分かれるが、今回は「はまり役」という評価が多い。脇を占める役者がもれなく当代の演技派で、あまりにも自然体なだけに、新劇チックな身のこなしの主役が、あえて作品の「ドラマ性」を強調する。振り返り方、肘の付き方、腕の組み方。

 「これって映画『タチャ イカサマ師』(チェ・ドンフン監督、2006年)の時の賭博師役と同じポーズだよね」と彼女の代表作を思い出す人もいるようだが、この作品では「キム・ヘスがキム・ヘスであること」が重要である。それは他でもない、この作品が実話をベースに作られているからだ。10話の中に登場する主な事件は、いずれも韓国で実際に起きた少年事件を元にしており、当然ながら加害者の少年少女たちは実在する。さらに事件の被害者たちのことを思えば、ドラマは現実の事件と切り離されたほうがいい。

 日本や外国の視聴者が考える以上に、このドラマが韓国で制作され、放映されることの意味は大きく、制作者の社会的責任は重いのだ。

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プロフィール

伊東順子

ライター、編集・翻訳業。愛知県生まれ。1990年に渡韓。ソウルで企画・翻訳オフィスを運営。2017年に同人雑誌『中くらいの友だち――韓くに手帖』」(皓星社)を創刊。著書に『ピビンバの国の女性たち』(講談社文庫)、『もう日本を気にしなくなった韓国人』(洋泉社新書y)、『韓国 現地からの報告――セウォル号事件から文在寅政権まで』(ちくま新書)等。『韓国カルチャー 隣人の素顔と現在』(集英社新書)好評発売中。

 

 
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