ホシノ 改めて戦いを振り返ってみると、意外な感想を抱いてしまった自分がいます。
やく 意外とは?
ホシノ ゴモラ=カッケー怪獣、圧力がハンパない怪獣……めっちゃ強い怪獣というイメージが強かったのですけども、大坂城ラウンドでウルトラマンの猛攻に対し、逃げようとしているんです。
やく ああ、そうですね。宅地開発ラウンドでは余力を残しながらウルトラマンの前から姿を消したゴモラでしたが、大坂城ラウンドでは必死、というか生きるために逃げた、生に執着した逃げ方をしています。
ホシノ 要するに、子供の頃に観たゴモラには、ソコが抜け落ちていることに気づいたんですよ。ゴモラの圧倒的強さばかりに憧れていましたけど、いま観るとやくさんが指摘していたように、こんなにも生に執着していたのかと驚いてしまいました。生きるために土を掘り返し、地中に逃げようとするゴモラの姿に憐れさえ感じてしまったんです。
古谷 撮影中はね、それこそどうやって戦うか、演じればいいのか、頭の中がいっぱいなんですが、作品としてオンエアされたのを観ると、なにか……悪いことをした……ような気分になっちゃって。
ホシノ いやいや、古谷さんもウルトラマンも悪くないです。人間を守ろうとした結果なんですから。
古谷 いや、なんだろうなあ、ウルトラマンの撮影がスタートした当初はスーツに慣れず四苦八苦していましたし、この企画で何度か説明させていただきましたけど、ウルトラマンを演じることに対する悩みを引きずっていましたしね、結局は無我夢中だったわけです。
ホシノ ええ。
古谷 でも、ゴモラ戦の頃は、なんとかウルトラマンに適応できてきましたし、いわゆる無我夢中の時期から、いかに子供たちの心に残る、夢を与えるウルトラマンを演じるべきかを見つめられる段階に入っていたんです。そういう充実した逡巡の中で、ふと倒してきた怪獣に悪いことをしたな、と思うようにもなり、次第にむなしさも感じるようになったのは確かなんですよね。
ホシノ これもまた、意外です。ヘンな言い回しになりますが、とどのつまり、ウルトラマンのお仕事って怪獣を倒すことじゃないですか。
古谷 そうです(笑)。
ホシノ なのに何がむなしかったのでありますか。
古谷 僕は子供の頃から虫が好きでしてね。振り返れば、そういう小さな命を大事にしていた少年だったんですよ。だから、学校で夏休みに昆虫採集の宿題が出されても、絶対にやらなかった。採集のために虫を殺す――そんな身勝手なことは辛くてできなかった。
ホシノ ええ。
古谷 だって、生きている昆虫をわざわざ殺し、ご丁寧に針まで刺して飾っても、ちっとも面白くないでしょ? 昆虫は生きているからこそ、その生態が魅力的で輝いているのであって。
ホシノ ええ、はい。
古谷 例えば、チョウチョにしても、生きてヒラヒラと飛んでいる姿が美しいんですよ。そういった生き物を殺すのは、かわいそうで僕にはできなかったし、採集して飾っても美しくはないと思っていました。
やく 私、日本昆虫協会の副会長を務めさせていただいているのですが。
古谷 あ、そうでしたね(笑)。
やく まさかゴモラの話から、古谷さんが昆虫好きの少年だったこと、ましてや生命観にまで行きつくとは思いませんでした。
古谷 最近ね、かみさんと唯一、モメてしまうのはゴキブリを逃がすか、逃がさないか。かみさんは躊躇せず、あっさり殺そうとするのだけど、僕はダメなんですよねえ。ゴキブリだろうとなんだろうと生きているんだから殺せない。そのせいで、いつも言い合い(笑)。
やく (笑)。
ホシノ 考えてみれば、ゴモラも人間の身勝手で大阪まで連れてこられ、科特隊のミスで地上に落下、暴れ出したから攻撃するというのも不条理ですね、いや、ホントに。
古谷 でしょう?(笑)。ゴモラはジョンスン島で眠っていただけですし。
ホシノ そういえば、1997年に公開された映画『ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク』を観るたびに、この『怪獣殿下』を思い出しちゃうんですよ。あの映画も金儲けのためにティラノサウルスの親子をサンディエゴまで輸送するんですけど、結果的に逃走。ティラノサウルスがサンディエゴの街で大暴れというね。
やく その原点はやっぱり、1933年に公開された映画『キングコング』でしょう。キングコングもまた、人間の欲望のためにニューヨークまで運ばれ大暴れ。その映像の衝撃が円谷御大の心を激しく揺さぶり、日本の特撮は産声を上げたのですが、受け継ぐという意味では『怪獣殿下』もウルトラマンの世界観を守りつつ、『キングコング』の世界観を継承していると思いますね。
古谷 当時、このゴモラもそうですし、ランクインしているザンボラーやジャミラもそうですけど、人間の身勝手さのせいで暴れ回る怪獣を倒すのは忍びなかった。そういう気持ちが、さきほどの “むなしい” という言葉に繋がるのですけどね。
ホシノ 第3位のシーボーズ戦で古谷さんはスーツと同化していた、と言っていましたよね。
古谷 ええ、そうです。
ホシノ これはボクの勝手な推測になりますが、スーツと同化することによって、より人間・古谷敏の素の部分、心の内側にあるもの、それは信念かもしれませんけども、それらがスーツを通してストレートに出ちゃったように思うんです。
古谷 ああ、はい。
ホシノ 昆虫も生きている。だから、絶対に殺したくないという想いを大切にして生きていた古谷少年の心情そのものが、ウルトラマンのスーツの中に滲んでる? 溶け込んじゃっていたと思いますね。普通はスーツを着込むと、中に入っている人間が誰かわからない、どんな人間なのか素性もわからない。
それが逆に古谷さんの場合、スーツと同化したことにより、等身大の古谷敏が滲み出るようになった。例えば、第20話『恐怖のルート87』でのヒドラ戦、戦うウルトラマンの背中には哀愁が漂っていました。なぜ、哀しそうな背中だったのか――それも今の話の流れの中で、なるほど、そういうことだったのか、と腑に落ちましたよ。
古谷 そう言ってもらえると、ありがたいです。
やく たぶん……もしかすると。
古谷・ホシノ ん?
やく ウルトラマンは正義が悪を倒す、子供向けのヒーロー番組ではあるけれど、人間の身勝手さによって街を破壊する怪獣をやっつけるのは忍びないという気持ちは古谷さん以外にも、実は御大を始め、当時の円谷プロの方々、脚本家のみなさんが共有していた想いだったのではないでしょうか。
古谷 そうだと思います。
やく 第3位のシーボーズ戦。私は番組が1年も経過していないのに、早くも35話目にして怪獣に哀悼を捧げるストーリー展開は斬新で、定石を踏まない脚本の作り方、作り込みには脱帽します、と言いましたが、ウルトラマンに携わっていたすべての人たちが勧善懲悪を超えたところに存在する “もうひとつの視線” を大事にしていたんでしょうね。“もうひとつの視線” とは、古谷さんが番組制作の後半に抱いていた怪獣だけが悪いのか――という想いです。そういった感情が集結し、『怪獣墓場』が誕生したのかも。それだからこそ、あの『怪獣墓場』が初放送から50年以上経った今でも色褪せず、胸に響いてくるのだと思います。
古谷 正義のヒーローが、ただ怪獣を倒せばいい――それだけでは決して子供たちに勇気も夢も与えられません。そういった僕とスタッフたちとの “想いの共有” なのですがね。
やく はい。
古谷 僕ね、金城哲夫さんにお願いしたんですよ。人間の身勝手さで暴れてしまった怪獣、人間や地球に危害を加えるつもりのない怪獣は倒さずに、元いる場所に帰してあげましょうよって。
やく ほお。
古谷 そんな私の願いを聞いてくれて作られたのがヒドラとウー。
ホシノ ボクがさっき言った第20話『恐怖のルート87』のヒドラと、第30話目の『まぼろしの雪山』のウーですね。
古谷 ええ。金城さんとは他にも、いろんなエピソードがあるのですが、機会があればまた、じっくりと語ってみたいですよね。
やく その日が楽しみです。
ホシノ では、次回はついに第1位の発表! 乞うご期待!!
(第1位は1月30日に発表予定)
司会・構成/ホシノ中年こと佐々木徹
撮影/五十嵐和博
©円谷プロ
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締切:1月30日 11:59
プロフィール
古谷敏(ふるや さとし)
1943年、東京生まれ。俳優。1966年に『ウルトラQ』のケムール人に抜擢され、そのスタイルが評判を呼びウルトラマンのスーツアクターに。1967年には「顔の見れる役」として『ウルトラセブン』でウルトラ警備隊のアマギ隊員を好演。その後、株式会社ビンプロモーションを設立し、イベント運営に携わる。著書に『ウルトラマンになった男』(小学館)がある。
やくみつる(やくみつる)
1959年、東京生まれ。漫画家、好角家、日本昆虫協会副会長、珍品コレクターであり漢字博士。テレビのクイズ番組の回答者、ワイドショーのコメンテーターやエッセイストとしても活躍中。4コマ漫画の大家とも呼ばれ、その作品数の膨大さは本人も確認できず。「ユーキャン新語・流行語大賞」選考委員。小学生の頃にテレビで見て以来の筋金入りのウルトラマンファン。