データで読む高校野球 2022 第1回

センバツ甲子園の「不平等さ」と圧倒的優勝候補、大阪桐蔭を読み解く

ゴジキ

優勝候補筆頭!令和初の頂点を目指す大阪桐蔭

さて、センバツの醍醐味といえば、同じ都道府県同士の決勝戦があり得ることだ。2017年は当時二年生だった根尾昴(現中日)と藤原恭大(現ロッテ)、さらに3年生エースの徳山壮磨(現DeNA)を擁する大阪桐蔭と、安田尚憲(現ロッテ)と若林将大(現西武)の履正社が決勝に勝ち上がり、史上初の大阪勢同士の決勝戦になった。2021年度の全国高校サッカーで、千葉県大会が9年連続で市立船橋と流通経大柏の決勝戦になったことが話題になったが、そうした地区同士の「因縁の対決」を全国の舞台で見ることができるのがセンバツの魅力だ。近年に関して言えば、大阪勢に限らず近畿勢はどのエリアも決勝戦までいける実力がある。

そんな近畿地区の出場校は今大会も話題の中心になる見込みは高い。たとえば、京都国際や天理は優勝を狙える実力がある。京都国際に関していえば、昨夏の甲子園ベスト4を経験した主力が残ったこともあり、戦力が底上げされている。

そうした強豪を圧倒し、近畿大会と明治神宮大会を優勝した大阪桐蔭は、間違いなく今大会でも優勝候補だろう。

 

大阪桐蔭の「強打の捕手」の系譜を継ぐ松尾汐恩

その大阪桐蔭の投打の軸は、昨年甲子園を経験している強打の捕手・松尾汐恩と、昨年1年生ながら大車輪の活躍を見せた投手・前田悠伍である。松尾に関しては、明治神宮大会決勝の広陵戦でサイクルヒットを達成。さらに大会通算打率.615を記録するなど、確実性と長打力のバランスが取れた打者なのは間違いない。まだ2年生だった昨年からレギュラーとして公式戦に出場し、結果を出し続けている選手なだけに、野手の中では最注目といっていいだろう。ちなみに捕手としての経験は、わずか1年ほどではある。しかし内野手ということもあり、取ってからの速さや肩の良さ、フットワークの良さを生かした二塁送球タイム(ピッチャーの球を受けてから送球するまでのタイム)も1.8秒台と速い。この二塁送球タイムのプロ野球の平均は1.9秒台である。捕手へのコンバート後も持ち前のセンスで難なくこなしているいる姿は、かつて星稜で奥川とバッテリーを組んだ内山壮真(現ヤクルト)を彷彿とさせる。

大阪桐蔭でいうと、2017年の世代で主将を務めていた福井章吾も、大会前、急遽捕手にコンバートされ、チームをセンバツ優勝に導いた。この時は、根尾昂、藤原恭大、中川卓也、山田健太と言った2年生の主力が活躍した大会でもあった。捕手の活躍という意味では、さらに遡って、現西武の正捕手である森友哉が、2年生の時から正捕手を務め、2年生だった2012年には春夏連覇を果たしている。しかし、昨年の甲子園の松尾は、夏の大会で近江の山田からホームランを放ったものの、チームは2回戦敗退や自身の打撃7打数1安打と不甲斐ない結果となった。今大会は森や福井のように、悲願のセンバツ制覇に導けるか注目だ。

他の野手を見ると、松尾の後ろを打つ4番を任されそうな丸山一喜や海老根優大には注目だ。丸山は、秋季大会では松尾以上の打点を叩き出しており、松尾が歩かされた場合は、この丸山の勝負強さが鍵を握る。海老根は、秋季大会不調だったものの、明治神宮大会の敦賀気比戦では初回に逆転3ラン、広陵戦でも3安打を記録するなど、本来の姿を取り戻しつつあった。さらに、2番の谷口勇人は松尾や丸山のような派手さはないものの、場面に応じた打撃ができるチャンスメーカーのタイプだ。この谷口の存在により、秋季大会3本塁打を記録した切り込み隊長の伊藤櫂人の思いきりの良さが活かされるだろう。また、主将の星子天真や田井志門といった選手も小柄ながらも高い打率を残しており、中軸が作ったチャンスを得点に繋げられる。

全体的に野手陣は、大会出場校でもある花巻東のような派手さはないが、初戦の相手である鳴門の好投手、冨田遼弥を切れ目のない打線で攻略できるか、そして、秋季大会ではまだ荒さがあったが、大阪桐蔭らしい洗練されたスキのない野球を展開できるかが注目だ。

 

主な打者秋季大会成績

・松尾:打率.538  5本塁打  20打点

・丸山:打率.429  2本塁打  25打点

・谷口:打率.411  0本塁打  4打点

・伊藤:打率.327  3本塁打  9打点

・田井:打率.462  2本塁打  13打点

・海老根:打率.333 1本塁打  14打点

・星子:打率.431  1本塁打  14打点

 

1年生エース前田悠伍を中心とした投手陣とその課題とは

その松尾とバッテリーを組む前田は1年生(新2年生)の好投手である。明治神宮大会の敦賀気比戦では、リリーフでマウンドに上がり、最速144km/hを記録して、2ケタ奪三振を残した。敦賀気比の指揮を采る東哲平監督は「1年生ですが、素晴らしい球がある。手も足も出なかった」とコメントを残すなど、末恐ろしい1年生が全国に名を馳せた試合でもあった。前田は公式戦防御率0.78を記録しており、大会出場投手の中でNo.1の防御率である。大阪桐蔭の投手陣では、1年生ながらも技術的な部分はもちろんのこと、メンタリティも頭ひとつ抜けている状況だ。

しかし、大阪桐蔭の勝ち上がりにも懸念材料はあった。近畿大会では自責点1を記録した投手陣だが、明治神宮大会で優勝はしたものの、前田・別所以外の投手陣は不安定なピッチングをしていた。川原は敦賀気比戦で4失点、川井は広陵戦で6失点を喫した。過密日程のため、近年は試合を作れる投手が複数枚いることにより優勝に近づく甲子園では、昨年夏の大会を経験している川原嗣貴、川井泰志、別所孝亮のトリオの活躍は必須である。

下記の成績を見ると、投球内容は別所もいいが、イニング数を考えると前田頼みなのは否めないところだ。大事な初戦は、前田を中心に組み立てていくことが予想できるが、同ブロックには花巻東・明秀日立がいるため、勝ちながら投手陣の疲労感と球数のマネジメントが重要になってくる。早い段階でリードを広げ、前田以外の投手を起用して場慣れをさせられるかどうかも注目だ。

 

大阪桐蔭秋季大会投手陣成績

・前田:11試合 57回⅔ 防御率0.78

・川原:8試合 35回 防御率1.54

・川井:3試合 8回⅓  防御率6.48

・別所:4試合 10回   防御率0.90

・藤田:2試合 3回 防御率3.00

・小林:1試合   1回 防御率0.00

 

2018年以来のセンバツ制覇を狙う大阪桐蔭だが、2018年は柿木蓮(現日本ハム)を中心に根尾昂と横川凱(現巨人)の3本柱で優勝を飾った。この時のセンバツでは、根尾が一番調子が良かったことから、重要な試合や場面ではエースの柿木ではなく根尾が投げて優勝を果たした。成績を見てもバランス良く投げていることがわかる。まさに、分業制で勝ち取った優勝だ。投手としてレベルが高かった3投手がいたこの世代は、昨年大会より導入された「500球制限」(1週間の球数が500球以上を超えた投手は登板できないという制度)があったとしても、対応できた世代に違いない。特に、センバツでは根尾がエースのような役回りで、準決勝から決勝までフル回転の活躍を見せた。その根尾の遊撃手としてのポジションを中川がカバーできたのも大きかった。この世代は、投手を含めて、ユーティリティプレイヤーが多かったことも春夏連覇を成し遂げられた要因だろう。

 

2018年センバツ投手陣

・根尾:3試合 26回 防御率1.04

・柿木:3試合 15回 防御率1.20

・横川:2試合 5回     防御率1.80

・森本:2試合 2回 防御率4.50

 

それゆえに優勝のカギを握るのは、投手陣の運用だ。安定している前田を中心に回していくとなると、前田がまだ新2年生ということも考慮して、大差がついた試合はなるべく温存したいだろう。そのため、明治神宮大会のように、打力に見込みがあるとすれば、2017年の徳山壮磨を中心に根尾や横川、柿木、香川麗爾を回した運用方法に近い戦い方になる可能性もある。この年は、大事な試合は徳山に先発をさせて、先発の香川や2番手の横川が崩れた2回戦は徳山と根尾が好リリーフを見せた。2018年と比較すると、2017年は徳山一人に依存したため、決勝戦は終盤に疲れが見え始めて、根尾が胴上げ投手となった。ただ、この起用法は昨年の明治神宮大会にみられたように、控え投手に先発をさせ、もし崩れたら前田が好リリーフする展開に類似する部分はある。

 

2017年センバツ投手陣

・徳山:5試合 39回 防御率1.85

・根尾:2試合 3回 防御率0.00

・柿木:1試合 1回 防御率0.00

・香川:2試合 1回⅔  防御率5.40

・横川:1試合 0回⅔  防御率108.11

 

投手の運用法が勝敗のカギを握る

ちなみに、今年の大阪桐蔭が参照にすべきは、実質「球数制限」の元年となった昨年のセンバツ大会の東海大相模の投手運用法であろう。。

初戦の東海大甲府戦では、エースの石田隼都ではなく、控えの石川永稀を先発に起用。石川は8回を104球1失点の好投を見せ、疲れや延長を見据えて石田にバトンタッチした。その石田も文句なしのピッチングで3回を52球1安打に抑えて接戦を勝利した。

中5日で迎えた2回戦の鳥取城北戦も、1点を争う接戦となったが、この試合も石田をリリーフに回して、先発は石川と同様に控え投手だった求航太郎が起用された。求はその期待に応えて、4回を55球無失点に抑え、石田に繋げた。その石田は、この試合でも完璧に近いリリーフをして、5回を70球無失点のピッチングを見せ勝利している。

中2日で迎えた準々決勝の福岡大大堀戦では、石田が116球を投げて圧巻の完封勝利を成し遂げて勢いづけた。この試合の翌日は休養日だったため、石田を完投させたと見ている。そして、準決勝の天理戦も石田が122球を投げて15奪三振の完封勝利で決勝進出を決めた。決勝前時点で1週間の球数を見ると、石田は308球、石川は0球、求は55球と余裕を持たせて決勝進出している。対する明豊は京本真が103球、太田虎次朗が264球、財原光優が106球と3投手の割合が均等だった。東海大相模は、決勝戦で総力戦の選択をし、一番打たれることがない石田から逆算した継投策をした結果、先制されたものの優勝を成し遂げた。

特に2アウト一塁二塁のピンチとなった場面で、今大会無失点の石田がリリーフでマウンドに上がって、ピンチを潜り抜けた場面があったが、ここが東海大相模に流れを引き寄せたのではないだろうか。結局、石田はこの大会で29回1/3を投げて無失点という脅威的な記録を残した。まさに、球数制限が設けられた中で、エースを重要な試合や場面で万全な状態で投げさせた結果と言えるだろう。

そのエースを盤石にさせられる投手陣の体制が、現代の高校野球には絶対条件だ。石川は初戦で試合を作り、決勝でも失点はしたものの、最低限ゲームは作った。求に関して言えば、大会を通して先発から中継ぎまでこなしながら無失点を記録。まさに、投手陣が自らの役割を理解した上で、高いパフォーマンスを残した結果だった。

 

2021東海大相模投手陣センバツ成績

・石田:5試合 29回1/3   防御率0.00

・石川:2試合 11回1/3    防御率2.38

・求:2試合        6回1/3    防御率0.00

 

逆に敗れたチームを見ると、天理の達孝太は準決勝前に左脇腹を痛めたことや、3試合ですでに459球を投げていることを考慮して、投げなかった。さらに、中京大中京のエース畔柳亨丞も、準決勝前の3試合で379球を投げていた。準決勝も4回途中からリリーフしたものの「腕に力が入らない」とコメントを残してマウンドを降りた。プロ野球でも、投手の酷使や勤続疲労が問題視されているが、身体ができていない高校球児では、なおさら長期的な目線で見ることが必要だ。球数制限に限らず、点差がついた場面や実力差がある相手と対戦する場合にはエースに依存しすぎず、降ろせる勇気も重要になっている。

大阪桐蔭は昨年夏の甲子園2回戦の近江高校戦で、投手起用のミスを犯している。控え投手の竹中を先発させるも替え時を見誤り引っ張りすぎたうえに、エースの松浦を温存し、当時2年生の控え投手・川原を登板させ、結局決勝点を取られたために敗戦を喫した。こうした采配ミスの轍を踏まないためにも、秋の勝ち方のように、前田を中心に川井、別所、川原が先発し、最低3〜4イニングまでゲームメイク、要所で前田を起用できるかどうかが勝敗を分けるだろう。

監督である西谷浩一氏が、これまでの経験を生かしながら、球数制限がある中で、起転を利かせた、前田を中心とした投手陣の運用に注目していきたい。

 

次回は3月17日(木)掲載予定です。

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第2回  
データで読む高校野球 2022

100年以上にわたり、日本のスポーツにおいてトップクラスの注目度を誇る高校野球。新しいスター選手の登場、胸を熱くする名勝負、ダークホースの快進撃、そして制度に対する是非まで、あらゆる側面において「世間の関心ごと」を生み出してきた。それゆえに、感情論や印象論で語られがちな高校野球を、野球著述家のゴジキ氏がデータや戦略・戦術論、組織論で読み解いていく連載「データで読み解く高校野球 2022」。3月に6回にわたってお届けしたセンバツ編に続いて、8月は「夏の甲子園」の戦い方について様々な側面から分析していく。

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プロフィール

ゴジキ

野球著述家。 「REAL SPORTS」「THE DIGEST(Slugger)」 「本がすき。」「文春野球」等で、巨人軍や国際大会、高校野球の内容を中心に100本以上のコラムを執筆している。週刊プレイボーイやスポーツ報知などメディア取材多数。Yahoo!ニュース公式コメンテーターも担当。著書に『巨人軍解体新書』(光文社新書)、『東京五輪2020 「侍ジャパン」で振り返る奇跡の大会』(インプレスICE新書)、『坂本勇人論』(インプレスICE新書)、『アンチデータベースボール データ至上主義を超えた未来の野球論』(カンゼン)。

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